日々是総合政策No.83

「信用乗車」の公共政策(上)

 普段、何気なく利用している公共交通機関。運輸サービスに対して正当な対価を支払う必要があるのは言うまでもない。路面電車を例に考えよう。日本では、多くの場合、料金を支払ったかどうかは厳密にチェックされる。しかし、私がかつて経験したアムステルダムでは様子が違っていた。トラムと呼ばれる市電では、切符をあらかじめ購入して、乗車時には購入した切符を自分で改札機に通さなければならない。運賃の支払いは、あくまでも自己の責任においてなされるべきであるという考え方である。実際、私が乗っていると、突然どこからかパトカーがやってきて電車に横付けするやいなや、無賃乗車だったと思われる少年が連行されていかれるという事件があった。そのとき思ったことは、このシステムは「犯罪者をつくるシステムだ」ということである。こうした運賃支払いのシステムは「信用乗車」と呼ばれている。
 「信用乗車」は乗客が運賃を適切に支払うことを前提に、万が一ズルをした場合には、一定のペナルティを課そうとするシステムである。他方「信用乗車」でない(これを「不信用乗車」と呼ぼう)システムでは、乗車や降車の機会をとらえてぬかりなく運賃を徴収する。ここで、乗客がズルをしない確率をp(つまりズルをする確率は(1-p))とし、ズルが見破られる確率(モニタリング成功確率)をq、罰金をfとすれば、乗客が支払う運賃の期待値は、p×料金+(1-p)×f×q、と表せる。乗客がズルをしようとするのは、この期待値が料金を下回る(f×q<料金)場合である。先のケースでは、少年は「めったに見つからない(qが小さい)」と考えたか「見つかっても大した罰金ではない(fが小さい)」と考えたかのどちらかであろう。この時、乗客にとってズルをすることが有利になり、結果的に犯罪者がつくられることになる。
 日本人は真面目だから、仮に「信用乗車」システムになってもズルをする人は少ないだろうという意見がある。 実際、富山ライトレールのようにICカードに限って「信用乗車」の形をとっているところもあり、とくに大きな問題は生じていないようである。ズルをせずルールを守る、という行動は日本人の国民性に依拠しているのだろうか。

(執筆:薮田雅弘)

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