日々是総合政策No.124

教科書をはみだした「現代社会」の話

 このところ、教科書で学んだ知識だけでは理解できない政策分野が増えています。金融政策がその代表例でしょう。日本銀行が実施している「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」について理解しようと思ったら、日本銀行当座預金(日銀預け金)の残高の三層構造とマイナスの付利について学んだうえで、短期と長期の金融市場(コール市場と国債市場)の仕組みを把握し、さらに短期と長期の金利の間の関係(金利の期間構造)とイールドカーブ(利回り曲線)についての知識を得ることが必要となります。
 金融政策と同じくらいややこしくなっているのは、日本の地方財政です。自治体間に存在する財政力の格差については、地方交付税を通じてその是正が行われることとなっていますが、最近では譲与税を通じた財政調整の役割が高まっています。2008年に創設された地方法人特別税(2019年廃止)も、2019年に創設された特別法人事業税も、地方税である法人事業税の一部を国税化し、譲与税を通じて各自治体に税収を再配分することで、自治体間の財政力格差の是正を図る仕組みとなっています。
 このような仕組みが採用されることになったのは、地方交付税交付金(交付税)の配分を受けている自治体(交付団体)と配分を受けていない自治体(不交付団体)の間の財政力格差の是正が、交付税を通じた従来の財政調整の枠組みによっては行いにくい状況が生じているためです。大都市の自治体に税収が偏在しがちな法人事業税の一部を国税化して譲与税を通じて配分する枠組みを利用すれば、不交付団体も含めた形で自治体間の財政調整を行うことが可能となります。
 一見するとこれらの仕組みは複雑で、なぜもっとシンプルな仕組みにすることができないのかと不思議に思われるかもしれません。でも、このような仕組みは現実の社会に存在する様々な制約条件のもとで、直面する課題を解決しようとする努力の現れでもあります。複雑な制度は複雑な「現代社会」の姿を映し出す鏡なのです。このような複雑さ、ややこしさの理由を考えることも、総合政策を学ぶ際の楽しみのひとつといえるかもしれません。

(執筆:中里透)