日々是総合政策No.104

孤立した母親への支援について考える

 現代日本社会において、子育て期の母親の孤立は、防ぐべきもの、あるいは解決すべきものとしてとらえられているようである。背景には、母親の孤立は、児童虐待や無理心中などにつながるおそれがあるという認識があるのだろう。
 家族社会学の分野においても、母親にとっての育児ネットワークの重要性に着目した研究の蓄積があり、それらもまた、母親の孤立を防ぐべきものと見なす議論の正当性を裏付けるものと言えよう。
 私は、母親の孤立は防ぐべきという議論に異論を唱えるつもりはない。しかし、今日では、育児ネットワークの重要性が論じられる一方で、それが母親に与えるストレスについて、盛んに語られているのもまた事実である。古くからある嫁姑問題に加えて、近年ではママ友関係がもたらすストレスや実母との確執についても様々なメディアでとりあげられている。育児ネットワークとは、母親にとって支えともなりうるが、ストレスにもなりうるという両義性のあるものなのである。
 既存の研究は、育児ネットワークが母親のストレスになりうるという点に関して、十分に意識的であったと言える。しかし、では実際に、ストレスに追い詰められて、あるいはストレス回避のために、孤立状態にある母親は、どのように考え、行動すれば育児が行き詰まらないのか、という視点はあまりなかったように思われるのである。
 マスメディア等で仕事を継続してきた、発信力のある女性たちでさえ、ママ友作りに躓いたことを打ち明ける現代社会である。母親の孤立を防ぐための議論は重要であるが、仮に孤立していると見なされる状態であっても、必ずしも不安に思う必要はないし、育児を楽しむこともできる、というメッセージもまた必要とされているのではないだろうか。孤立そのものを防ぐことも重要であるが、情報化社会の中で孤立した母親が自らを普通ではないと感じ、焦燥感に駆られ、自尊心を低下させることを防ぐのも重要である。母親たちに対する子育て支援に際しても、母親の孤立の防止とともに、孤立した母親の自尊心の低下を防ぐことについても、さらに理解が深まればと願っている。

(執筆:仁科薫)