日々是総合政策No.304

スウェーデンの地方税(13)-歳入の十分性⑥補助金の役割(ⅱ)

 今回は、歳入均等化補助金(本コラムNo.302を参照。以下、補助金)と税の合計を収入とし、収入/支出(市の支出に占める収入の割合)と税/支出(市の支出に占める税の割合)の市間分布を比較します。本コラムNo.301にならい、2009年と2021年とを取りあげます。

図1  収入/支出と税/支出の市間分布(%) 2009年

  図1の横軸は税/支出と収入/支出を、縦軸はそれに属する市の数を示します(全市数は290)。たとえば、税/支出が50%以上60%未満には73市が属します。
 税/支出の平均値は65%、中央値は63.9%、変動係数は0.1491で、収入/支出の値は、それぞれ76.4%、77.6%、0.08812です。
 補助金が278市に交付され、収入/支出の平均値と中央値が税/支出のそれより増加しました。変動係数も低下し、市間格差がかなり是正されました。
 以下の点が印象的です。
 第一に、税/支出の分布の中心が、50%以上70%未満(212=73+139)であるのに対し、収入/支出の中心は70%以上90%未満(241=157+84)です。補助金が約20%、右方へ移動させたわけです。
 第二に、収入/支出では、50%未満と100%以上の市はゼロです。前者は補助金、後者は負担金の効果です。

図2  収入/支出と税/支出比(%)の市間分布 2021年

   (出所)注に基づき筆者算出。

 図2の2021年の税/支出の平均値は60.4%、中央値は58.9%、変動係数は0.1729で、収入/支出の値は、それぞれ72.4%、72.8%、0.08991です。
 2009年との共通点は、第一に、変動係数が税/支出のそれより大幅に低下したことです。第二に、収入/支出では50%未満と100%以上の市はゼロです。第三に、70%以上80%未満に最も多くの市(157,161)が属します。
 2009年と異なるのは、分布の中心が50%以上70%未満(214=121+93)から、70%以上80%未満(250=89+161)へ、10%だけシフトした点です。
 シフト幅は異なりますが、補助金は、両年とも格差是正と財源保障機能をかなり果たしています。ただ、多額の補助金は、支出に対する住民の費用意識を希薄にしかねません。    

SCB URL www.statistikdatabasen.scb.se/pxweb/sv/ssd/ 
      2024年11月4日参照。

(執筆:馬場 義久)

日々是総合政策No.302

スウェーデンの地方税(12)-歳入の十分性⑤補助金の役割(ⅰ)

 前回、地方支出に占める税の割合の市間分布を示しました(本コラムNo.301を参照)。政府はその市間格差対策として歳入均等化補助金(以下、補助金)を採用しています。その仕組みを紹介します(詳しくは注1を参照)。
 補助金は一人当り税収ではなく、一人当り課税勤労所得(以下、A)をもとに算出されます。この点が重要です。
(1)市や県が補助金を得る場合
 ある市(県)のA<市(県)のAの全国平均×1.15 ① であると補助金を得、
 補助金額=(①の右辺-左辺)×2003年の市(県)の税率の全国平均×0.95(県は0.9)。
(2)市や県が負担金を払う場合(負の補助金)
 ある市(県)のA>市(県)のAの全国平均×1.15 ② であると負担金を払い
 負担金額=(②の左辺-右辺)×2003年の市(県)の税率の全国平均×0.85(県も0.85)。

 国は(2)からの負担金収入に国税を加え(1)の補助金を交付します。2021年には、290市(21県)のうち277市(20県)が補助金を得、13市(1県)が負担金を払いました(注2より)。

表:補助金の歳入均等化効果 2021年

   (注記)税率以外の単位はクローナ。
   (出所)注2に基づき筆者算出。 

 表は、一人当り税収が全市で最小のEda市と最大のDanderyd市を例に、補助金の効果を示します。分析単位が市なので、県の補助金も県に属する各市への補助金と考え、
 ある市の一人当り県補助金=(県補助金総額×市人口/県人口)÷市人口
と想定します。
 Edaの税収はDanderydの42.2%(55200÷130800)ですが、全収入(税+補助金)では77.3%(78911÷102088)に増加します。
 仮にこの全収入を税のみで調達する場合、Edaの税率は48.1%(=78911÷163900)、Danderydの税率は24%(=102088÷424700)となります。前者は税率を14.4%だけ引上げなければならず、後者は6.8%引下げることができます。Edaの税率48.1%は重い負担で、実施不可能です。補助金が二市間の税率格差を緩和していると言えましょう。    


1.Regeringens skrivelse(2019),Skr.2019/20:77,Bilaga,p.15.
2.SCB URL
 www.statistikdatabasen.scb.se/pxweb/sv/ssd/
 2024年10月23日参照。

(執筆:馬場 義久)

日々是総合政策No.301

スウェーデンの地方税(11)-歳入の十分性④

 今回は、2008年-2021年における「歳入の十分性」の 市間分布の推移を示す。
 図は、290市の一人当り地方支出(以下、支出)、一人当り税(以下、税)、支出に占める税の割合(以下、税の支出比)の変動係数(大きいほど市間格差が大きい)の推移を示す。なお、県の支出も県に属する各市の支出と捉え、それを県人口一人当り県支出(=県支出総額×市人口÷県人口÷市人口)と想定します。21県ではなく290市を分析単位としているからです。

図 支出・税・税の支出比の変動係数(2008-2021年)

(出所)注1に基き筆者作成。

 支出の変動係数が一番小さい。これは、医療・介護・教育等の「福祉サービス」へのアクセスは、居住地に関わらず等しく保障すべきという政策の反映でしょう(注2より)。
 税の変動係数は支出を上回る。Eda市の税(2021年の最小値)は、55234クローナ(税率0.337×課税勤労所得163900)で、最大値のDanderyd市の税130807(0.308×424700)の42.2%です。しかし、Edaの課税勤労所得はDanderydの38.6%であり、税格差の原因は課税勤労所得の格差にある。
 税の支出比の変動係数が一番大きい。税にかなりの格差があるもとで、支出が均等に提供されるからでしょう。

表 税の支出比の市間分布 

(出所)注1に基づき筆者作成。

 表は税の支出比別に見た市の数を示す。その変動係数が最小の2009年と最大の2021年との比較です。
 第一に、100%以上は1(Danderyd)から2(同市とLidingö)に増加しました。後者の100%以上は2020-21年のみですが、Danderydは2008-21年の毎年100%以上です(注1より)。Birdの要請(本コラムNo.300を参照)を持続的に充足しています。
 第二に、50%以上70%未満の市が212と214で、ともに全市290の約73%です。
 第三に、40%以上50%未満が14から39へ激増しました。
 地方分権国家としては第二点が意義深いと思います。皆さんの印象は如何ですか?

  1. SCB URL
    www.statistikdatabasen.scb.se/pxweb/sv/ssd/
    2024年9月13日参照。
  2. Tingvall,L(2007), Local government financial equalisation in Sweden,pp.2-3, Finance ministry.                     

(執筆:馬場 義久)

日々是総合政策No.300

スウェーデンの地方税(10)-歳入の十分性③

 今回は、スウェーデンの地方税(地方勤労所得税)による「歳入の十分性」の程度を、同国の各市(290のコミューン)間で比較します。各市の地方税がその地方支出に占める割合を比べるわけです。

   図 十分性(一人当り税÷一人当り支出)の市間比較 2019年

  (出所)注1に基き筆者作成。

 図の横軸は、市の一人当り税が一人当り地方支出に占める割合(以下、支出比と略記)を示し、縦軸は各支出比に該当する市の数です。たとえば、40%以上50%未満に属する市の数は41です。2019年を選んだのは、執筆時点のデータの最新が2021年であり、新型コロナ禍にあたる同年と2020年を除いたためです。市の一人当り支出は市の支出だけでなく、当該市民が受益する県支出分をも含みます。市の税も県税分込みです。
 全290市の支出比の平均値は60.5%、中央値は59.4%、最大値は106%、最小値は40%です。以下の点が注目されます。
 第一に、100%以上、つまり106%の市が1つで、Danderyd市です。同市は富裕な市として著名で、一人当り地方税とその課税ベースである課税勤労所得も最大です。2019年の人口は34849人です(以上、注1に基づく)。
 Bird,R.の研究(注2)は、歳入の十分性について「最も富裕な地方だけでも税のみで支出を賄えるのが良い」と述べていますが、この点を充足しているわけです。
 第二に、50%以上60%未満が110市、60%以上70%未満が100市で、その合計が210市(全市290の約72%)です。約7割の市が、50%以上70%未満の「十分性」を確保しています。
 第三に、40%以上50%未満の市が41あります。すなわち、税が支出の半分に満たない市が全市の約14%(41÷290)を占めます。なお、最小値40%はVilhelmina市です。
 同市の一人当り税は、上記のDanderyd市の税の53%です。税の格差が大きいですね。なお、同市の人口は6921人です(注1に基づく)。

  1. SCB URL
    www.statistikdatabasen.scb.se/pxweb/sv/ssd/
    2024年7月23日参照。
  2. Bird,R.M.(1999)“Rethinking Subnational Taxes: A New Look at Tax
    Assignment” IMF Working Paper,WP/99/165,p.11.

(執筆:馬場 義久)

                       

  

日々是総合政策No.299

スウェーデンの地方税(9)-歳入の十分性②

 スウェーデンの地方支出は医療・介護・教育が殆どで、支出額はGDPの21.2%(1999-2021年の平均)を占めます(本コラムNo.297を参照)。「歳入の十分性」を目指すには、膨大な支出を持続的に賄える税を選ぶべきでしょう。
 表は、同国の地方の比例的勤労所得税(以下、「地方税」と略記)と、国の所得税・法人税・消費税の各税収総額が地方支出に占める割合(対地方支出比)を、1999年から2021年について示します。この3税と比較するのは、ともに、基幹税(一国の税収調達を主要に担う税)の候補と考えられるからです。なお、国の所得税は累進的勤労所得税(高所得層のみを対象)と資産所得税の合計です。
 表の平均とは、1999年から2021年の23年間の平均で、変動係数は23年間におけるバラツキの程度を示します。

       表 各税の対地方支出比(%) 1999-2021年     

(注記)* 標準偏差÷平均
 (出所)地方支出と地方税は注1、他の3税は注2に基づき算出。

 「地方税」は平均がトップで、変動係数も一番低く安定している。これは、同国の政府が「地方税」のみを地方に配分して、各地方に税率決定権を与えた政策の「当然の結果」と思われるかもしれません。
 しかし、筆者は、「歳入の十分性」を果たすため、法人税を含む各所得税のうち、「地方税」のみを地方に配分し、累進的勤労所得税と資産所得税・法人税を国税とした政策は、租税論から見ても優れていると思います。
 法人税は企業の利潤(売上-費用)に課税するので、赤字法人(売上<費用)の税はゼロです。資産所得税は、正の資産収益から負の収益(住宅ローン等の借入利子や株式等の売却損)を引いた純収益に課税します。両税とも国民経済レベルでの課税ベースが、「地方税」の勤労所得より小さく、税収も景気等により敏感に変化します。高税率の採用は、企業や金融資産の他国への移動を招くでしょう。
 さらに、高所得層のみの累進的勤労所得税は納税義務者が少なく、税収が少額になります。また、累進税は比例税より税収変化が著しい。
 しかし、消費税の全額国税化は再検討が必要でしょう。その平均・変動係数が、「地方税」の値に似ているからです。

  1. SCB URL
    www.statistikdatabasen.scb.se/pxweb/sv/ssd/
  2. OECD URL
    https://data-explorer.oecd.org/
    いずれも2024年7月24日参照。                       

(執筆:馬場 義久)

日々是総合政策No.297

スウェーデンの地方税(8)-歳入の十分性①

 「歳入の十分性」-地方政府による行政サービス(以下、支出と略記)を十分に賄える税が良い-という地方税原則を検討します。国からの補助金依存は、負担なき受益をもたらし、住民の費用意識の希薄化と支出過剰を招きかねません(詳しくは持田のテキスト、注1を参照)。
 今回は、スウェーデンの支出の実際を確認します。同国の支出の大部分は対人サービスです。2022年には県の支出の88%が医療、市は、教育(保育・義務教育等)や介護、障害者福祉等の合計で全支出の80%を占めます(注2より)。

 支出の対GDP比(1999-2021年、%)

* 標準偏差÷平均 
(出所)注3と注4に基づき算出。         

 表は、スウェーデンの支出(県と市の合計)の対名目GDP比を日本と比較したものです。平均とは、1999-2021年の23年間の平均値です。同国は21.2%で、平均的には日本より大規模な支出です。変動係数は23年間でのバラツキの程度を示します。スウェーデンの方が低い値なので安定的です。
 そこで、1999年から2021年における同国のGDPと支出の相関について、最小二乗法による回帰分析を行いました。推定式は、
 lnG=α+βlnGDP+u  
で、lnは自然対数、Gは各年の支出、uは誤差項です。近似式は、
 lnG=1.1028lnGDP-2.3911 です。
 αが-2.3911,βが1.1028で、それぞれのt値は-16.7と63.2です。R2(自由度修正済決定係数)は0.9948で、推定式の当てはまりは良いと考えられます。
 βは、支出のGDP弾力性(支出の変化率÷GDPの変化率)の推計値です。β=1.1は、GDPが1%増加すると支出が1.1%増加することを表します。


1.持田 信樹(2013)『地方財政論』東京大学出版会、168頁。
  
2.SKR URL
skr.se/skr/ekonomijuridik/ekonomi/statistikekonomi/sektornisiffror.71725.html

3.SCB URL
www.statistikdatabasen.scb.se/pxweb/sv/ssd/

4.総務省 URL
https://www.soumu.go.jp/iken/zaisei/toukei.html

URLは、2024年5月31日参照。

                                (執筆:馬場 義久) 

日々是総合政策No.296

スウェーデンの地方税(7)-所得再分配

 これまで「税の地域間偏在度の少なさ」を基準にして、スウェーデンの地方勤労所得税(以下、地方税Sと略記)の優位性を示しました。地方税Sの変動係数は、同国の累進的勤労所得税・資産所得税や日本の地方税及び個人住民税より低かったですね(本コラムNo.292,N0.293を参照)。
 その理由は地方税Sが資産所得に課税せず、かつ、比例税率の勤労所得税であるからです。勤労所得に比べ資産所得は富裕層がより多く得るので、資産所得税は富裕地域に偏在します。累進的勤労所得税は高所得ほど高税率を課すため、比例的勤労所得税に比べ高所得層の多い地域に集中します。
 ここで「地方税には所得再分配機能は不要なのか?」と、思われるかもしれません。もっともな疑問です。しかし、標準的な地方税原則論によれば、「地方政府は所得再分配を目的にしない」とされます(持田のテキスト-注より)。
 いま、地方政府Aが、低所得層に課税せず、中所得層に30%の税率、高所得層に50%の税率を課す累進的勤労所得税を導入し、かつ、高所得層からの税収を給付金(負の税)として低所得層に交付するとします。なお、他の地方の勤労所得税は全所得階層に30%課します。この場合、Aの高所得層が他の地方へ移動し、逆に、Aには給付金目当ての低所得層が流入しかねません。国内での移動は、外国への移動より数段容易です。地域間移動が生じるとAの所得再分配政策は実現しませんね。
 同様の事態は、Aだけが、全所得階層に税率30%を適用する勤労所得税に加え30%の資産所得税を導入し、資産所得税収を低所得層に給付するケースにも生じるでしょう。
 しかし、税制による所得再分配政策を国が実施すれば、国内での地域間移動は生じません。高所得層はどこに住んでも重い課税を強いられ、低所得層はどの地域でも給付金を得るからです。以上から、地方政府は所得再分配政策を行わない方が良く、それが必要なら国が行うべき、とされます。
 スウェーデンは、1991年の税制改革以来、全所得税のうち国税として累進的勤労所得税と資産所得税を、地方税として比例的勤労所得税を割当てています。所得税体系における国と地方の役割分担に関して、標準的な地方税原則論に従っているわけです。
 地方税Sは、「所得再分配を目的としない」という地方税原則に照らしても、他の所得税より優れています。


持田 信樹(2013)『地方財政論』東京大学出版会、166頁。

(執筆:馬場 義久)

日々是総合政策No.295

スウェーデンの地方税(6)-税の偏在④

 これまで「税の偏在度の少なさ」を基準にして、スウェーデンの地方勤労所得税(以下、地方税と略記)の優位性を示しました。その際、地方税に適用される国の税額控除を捨象していました。
 今回は、中心的な税額控除である勤労所得税税額控除(以下、勤労控除と略記)と、公的年金保険料の税額控除(以下、保険控除と略記)を取りあげます。両控除で全税額控除額の約85%-2007年から2022年までの平均値-を占めます(注1を基に算出)。ともに、地方税減税による労働供給の増大が政策目標です。
 勤労控除は、労働して得た勤労所得に対する税(地方税)を減額します(以下、詳しくは注2を参照)。保険控除は、年金保険料の本人拠出分だけ地方税を減額します。両控除は「給付つき」でなく地方税額が上限です。最初に保険控除が適用され、勤労控除は保険控除引き地方税が上限となります。
 なお、減税による地方政府の減収分は国から補填されます。地方支出を減らさないためです。

       図  両控除と地方税の変動係数(2007-2021年)

 (出所)注1を基に算出。

 図は、両控除前の一人当り税収(実線)と両控除後の税収(点線)の地域間(290の市)変動係数を示します。控除後の値は、0.127(09年)から0.153(21年)の間にあり、国の所得税や資産所得税より低く(本コラムNo.293を参照)、さらに日本の個人住民税(最低値0.21、本コラムNo.294を参照)よりも低い。つまり、両控除後の地方税も他の所得税より偏在度が少ない。
 なぜ、控除後の値が控除前より高くなるのか?保険控除は中所得層までは勤労所得Yとともに増加し(保険料=0.07Y)、高所得に至ると定額になります。保険料に天井があるからです。勤労控除も低所得層と中所得層前半はYとともに増加し、中所得層後半で定額になり、高所得に至ると逓減しやがてゼロになります。
 結局、高所得層においてはYが高くなるとともに両控除/Yが低下し、税/Y が高くなります。控除前より地方税が累進的になり、富裕な地域での税の偏在が若干増すわけです。

  1. Statistiska Centralbyrån, SCB(2024)
    https://www.statistikdatabasen.scb.se/pxweb/sv/ssd 2024年4月23日参照。
  2. 馬場 義久(2022)「スウェーデンにおける地方税の変容」日本財政学会編『財政研究』第18巻、有斐閣、62-75頁。

(執筆:馬場 義久)

日々是総合政策No.294

スウェーデンの地方税(5)-税の偏在③

 今回は地方税の偏在度(変動係数)について、スウェーデンと日本を比較します。日本の計測値は橋本の労作(注1)からの引用です。

 図1 スウェーデンと日本の一人当り地方税収の変動係数 (2006-2017年)

(出所)1.地方税J(日本)は注1、191頁、図1より。

    2.地方税S1,S2(スウェーデン)は、注2より筆者算出。

   図2  日本の税目別一人当り税収の変動係数(2006-2017年)

(出所) 注1、192頁、図2より。

 図1は日本(J)とスウェーデン(S)の住民一人当り地方税収 (ともに道府県税と市町村税の合計で、Jは道府県単位、Sはコミューン単位)の地域間変動係数を示します。S1は実際の税率下の税、S2は各地域の税率を同一とした税です。一貫してJの変動係数がS1とS2より高い。その原因を図2により考えます。
 原因の第一は、地方法人2税(法人住民税と事業税)の存在です。ともに法人企業の事務所などの所在地で課税され、東京等の税収が多くなり変動係数を高めます。スウェーデンは1975年に地方法人税を廃止しました。
 原因の第二は、個人住民税です。最も低い2017年でも0.21近傍でS2(0.13)の1.6倍です。その要因として、まず、個人住民税の配当税・キャピタルゲイン税(税率5%)が考えられます。これにより、富裕層の多い道府県がより多くの税を得ます。他方、S2・S1は資産所得に課税しません。
 次の要因として、個人住民税の所得割(比例税率10%)における多額の所得控除(給与所得控除や公的年金控除など)が考えられます。税率を0.1、課税前所得をY、所得控除をE、税額を  
 TとするとT=0.1(Y―E)  より 
 T/Y=0.1(1―E/Y)  となります。右辺のYが高くなるとE/Yが低下して右辺全体が増加し、結局、高いYほどT/Yが高い累進的負担となり、Yの高い地域ほど税がより多くなります。なお、S2・S1には、多額の所得控除はありません。
 ただ、原因の第二については実証分析が必要です。

1.橋本 恭之(2020)「地域間の税収格差について」関西大学『経済論集』第69巻第4号
2.Statistiska Centralbyrån, SCB(2024)https://www.statistikdatabasen.scb.se/pxweb/sv/ssd/START__HE__HE0110__HE0110B/Skatter
2024年4月1日参照。                      

(執筆:馬場 義久)

日々是総合政策No.293

スウェーデンの地方税(4)-税の偏在②

 本コラムNo.292では2021年のみを取りあげ、スウェーデンの各税の偏在度を比較しました。今回は、2007年から2021年までを扱います。2021年の値は新型コロナ禍の影響を受けているかもしれません。また、長期間を対象にすれば変動係数(標準偏差÷平均)の推移の特徴を観察できます。

図 各税の変動係数の推移(2007-2021年)

(出所)注1に基づき筆者算出。

 図は、地域(290の市)間の一人当り税収の偏在度(バラツキ)を示します。実際の地方税(勤労所得税)、国の所得税(勤労所得税)、資産所得税(国税)に、2008年導入の地方住宅負担金を加えました。同負担金は、国が持家の課税価値に原則0.75%課し徴収した後、補助金として各市に交付します(本コラムNO.291を参照)。図では、固定資産税のように、持家の存在する市が同負担金を徴収すると想定しました。固定資産税は、日本をはじめ多くの国で地方税の一つとなっているため、同負担金をとりあげます。
 全期間を通じて地方税の変動係数が一番低い。しかも、その値が安定しています(0.10から0.12の近傍)。次いで、地方住宅負担金が0.25から0.29の近傍で低くかつ安定的です。同負担金の課税価値に天井(限度額)があり、天井以降は定額負担となり、2021年の負担額は11.6万円です(注2より)。この措置と、持家の保有資産階層別格差が株式のそれより小さいことから、その変動係数が資産所得税より大幅に低くなったのでしょう。国の勤労所得税と資産所得税の変動係数は全期間を通じて高いですね。しかも、資産所得税はキャピタルゲインが株式市場の影響を受けるため、変動係数の変化が著しい。たとえば、2008年の低下はリーマン・ショックによるものでしょう。


1.Statistiska Centralbyrån, SCB(2024)
https://www.statistikdatabasen.scb.se/pxweb/sv/ssd/
2.Skatteverket, SKV(2024)
https://www.skatteverket.se/privat/skatter/beloppochprocent/2020.4.7eada0316ed67d728238ec.html?q=Belopp+och+procent-inkomst%C3%A5r+2020

ともに2024年3月1日参照。                   

(執筆:馬場 義久)