日々是総合政策No.206

社会保険料の負担(2) 勤労世代の社会保険料負担

 No.202では日本の社会保険料総額の負担について述べました。今回は、勤労世代の社会保険料負担を取りあげます。次の図は勤労者家計(家族数二人以上)の収入階層別に社会保険料負担率と直接税負担率を示します。
 ここで収入は家計の勤め先収入(以下、収入と記す)、直接税は国の所得税と地方住民税等の合計を指します。図の横軸は、家計を収入額によって10階層のグループに分けたものです。各グループとも家計数は家計全体の10%です。Ⅰは、収入の最も低い家計で第1分位と言います。逆にⅩは、収入の最上位10%のグループで第10分位です。
 縦軸の負担率は、社会保険料または直接税(以下、税と記す)が収入に占める割合(%)を表します。企業に雇われている勤労者の社会保険料は、雇い主(企業)と勤労者本人とで半額ずつ支払いますが、この図では本人分のみの負担を示します。

図 収入階層別社会保険料・直接税の負担率2019年
*二人以上の勤労者家計。  
(出所)注より算出。

 橙色の社会保険料負担率に注目すると、収入の最も低いⅠから11%であり、このレベルが10階層にわたり、ほぼ比例的な負担です。ちなみにⅠの収入(月額)は22.6万円であり、社会保険料負担は約2.5万円です。また、Xの収入は104.5万円で社会保険料負担は約12万円です。
 他方、青の税負担率は、Ⅰの4,7%から収入の上昇とともに負担率が増加し、Ⅹでは12.5%です。つまり収入に対する累進的負担となっています(以上の数値は図と注より)。
 重要なのは、ⅠからⅨまでの9つの階層で社会保険料負担率が税負担率を上回っている点です。こうなる主な理由は、社会保険料に控除がなく国の所得税や地方住民税に控除が多く存在するからです。
 国の所得税や地方住民税の税額は以下の式で算出します。
 税額=(給与収入-給与所得控除-所得控除)×税率=課税所得×税率
 他方、社会保険料は
 社会保険料額=標準報酬×賦課率
 です。標準報酬は給与収入と、賦課率は税率とほぼ同じ意味です。つまり、社会保険料は、控除を差引く前の給与収入全額に賦課率を掛けて算出されます。当然、
 給与収入>課税所得ですから、同額の給与収入について税率が賦課率を大きく上回らない限り、社会保険料負担額>税負担額となり、社会保険料負担率>税負担率となります。
 ただ、以上では、保険料を支払う勤労者に社会保障給付が与えられる点を考慮していません。次回には社会保険料の使途を検討する予定です。


e-Stat URL
家計調査 家計収支編 二人以上の世帯 詳細結果表 年次 2019年 ファイル | 統計データを探す | 政府統計の総合窓口 (e-stat.go.jp) 最終アクセス 2021年1月25日。

(執筆:馬場義久)

日々是総合政策No.202

社会保険料の負担(1)

 今回から社会保険料の負担問題を考えます。社会保険料は公的年金や医療などの主要な財源です。まず社会保険料と租税を比較します。
 第一に、その支払はともに国による強制力を背景にした「義務」です。納税は、労働・教育とともに、憲法における国民の三大義務の一つです。社会保険料について憲法の規定はありませんが、年金保険法や健康保険法などが強制力の法的根拠とされています。以上から、社会保険料は租税とともに公的支出を賄う公的負担として、国民負担率に算入されています。
 第二に、社会保険料が租税と決定的に異なる点は、社会保険がその支払者や家族に社会保障の受益権を与える点です。年金保険料支払者には、一定の条件を満たせば老齢年金が支払われます。健康保険料の場合は、実際の医療費の30%以下の自己負担で済みます。他方、消費税をはじめ租税も社会保障の重要財源ですが、税を支払っても社会保障の受益権は与えられません。
 さて、注1によると日本の社会保険料総額は2018年度に72.6兆円です。他方、租税は国税総額が60.1兆円(注2)、地方税総額が41.5兆円です(注3)。社会保険料は国税を上回っています。日本は租税国家であると同時に社会保険国家と言えます。次に、下の図は租税負担率と社会保障負担率の推移(%)を示します。ここで租税負担率とは国民所得に対する租税総額の割合、社会保障負担率は日本では国民所得に対する社会保険料総額の割合を指します。

(出所)注4より作成。

 1990年からの変化に注目すると、租税負担率に比べて社会保障負担率の増加が目立ちます。よって日本は負担率の増加の面でも、社会保険国家と言えます。
 社会保険料が巨額で且つ増加している理由の第一は、社会保障の大部分が社会保険方式であるからです。たとえば、年金を得るには年金保険の加入を条件とします。その結果2018年度では、社会保険料は社会保障財源の54.7%を占め、公費(租税など)の38%を大きく上回っています(注1)。
 第二の理由は、高齢化の進行により、年金・医療・介護の各給付が増大したことです。そのため、たとえば、年金保険料率は2013年度の13.58%から2017年度には18.3%に引上げられました(注5)。


(1) 国立社会保障・人口問題研究所、平成30年度『社会費用統計(概要)』p6。Microsoft Word – H30プレスリリース_解禁なし_20201006 .docx (ipss.go.jp)による。
(2) 財務省URL
kessan_01_18.pdf (mof.go.jp)
(3) 総務省URL
<81798267826F9770817A52318C888E5A8CA98D9E8A7A8169955C329687816A2E706466> (soumu.go.jp)
(4) 財務省URL
負担率に関する資料 : 財務省 (mof.go.jp)
(5) 厚生労働省URL
s0304-3f1.pdf (mhlw.go.jp)
URLの最終アクセスいずれも 2021年1月13日。

(執筆:馬場 義久)

日々是総合政策No.190

スウェーデンのコロナ禍対策(7)

 今回は、スウェーデンにおける新型コロナ感染者数の急増を確認し、政府の対策について紹介します。
 表は7月以降の累積感染者数を示します(注1)。7月から11月はその月初め(一日)時点での数です。11月1日から現在(11月19日)までの急増が目立ちます。11月1日での133327人から19日には208295人になり、感染者が74968人増加しました。19日間の平均で見て一日あたり3945人の増加です。ちなみに、日本の11月22日での新規感染者は2168人でした(注2)。なお、スウェーデンでの死亡者数は11月1日の6023名(累積)から19日の6394名と371名増加しました(注1より算出)。

表 累積感染者数の動向(人)
*各月の月初めでの累積感染者数を示す。現在は11月19日。
(出所)注1に基づき筆者作成。

 スウェーデン政府は最近、二つの新たな対策を発表しました。
 第一は、バーやレストラン、ナイトクラブなどでのアルコール販売を22時から翌日の11時まで禁止する措置です(注3)。スウェーデン全土でこの種の店が約15700あり、その多くが夜にオープンし、翌朝5時ぐらいまで営業するとのことです。この措置は11月11日に発表され、11月20日から2021年2月1日まで実施の予定です。実施期間の長さが注目されます。なお、注3には、禁止措置による当該店の損失を補償する措置は示されていません。ただこの点は、他の文書で発表されている可能性があります。
 第二は、「集会」参加の人数上限を50人から8人にするものです(注4)。ここでの集会とは、コンサート・展覧会・サークルの会合・スポーツ観戦等を指します。ただこれまでと同様、着席して見るイベント(スポーツなど)については、観客同士が1メートル以上離れていれば300人まで可能です。しかし、これまで認めていた、レストランを使用しての集会の例外扱い-感染予防対策の実施を条件にしての例外-は廃止されました。
 この措置は11月16日に発表され11月24日より実施されます。実施期間は「当面4週間を最長としたい」とのことです。きわめて短期間であるのは、社会的コンタクトの制限策は必要最小限にしたいこと、さらに、短期化により、憲法における集会の自由、発表の自由の保障に合致するからと述べています。
 なお、高齢者への訪問を禁ずる措置など検討中の対策もあり、今後の動向が注目されます。

(注)
1.スウェーデン公衆衛生庁 URL
 FOHM Covid-19 (desktop) (arcgis.com)
2.NHK URL
新型コロナウイルス 日本国内の感染者数・死者数・重症者数データ|NHK特設サイト
3.スウェーデン政府 URL
https://www.regeringen.se/4abc0c/contentassets/7cf53b1760ce422a987f59eb9cb77bd0/forslag-till-forordning-om-tillfalligt-forbud-mot-servering-av-alkohol.pdf
4.スウェーデン政府 URL
https://www.regeringen.se/4ac71c/contentassets/0bd9b64752314859b1847328f7eb9b4a/forbud-mot-att-halla-allmanna-sammankomster-och-offentliga-tillstallningar-med-fler-an-atta-deltagare.pdf

URLの最終アクセスいずれも 2020年11月24日。

(執筆:馬場 義久)

日々是総合政策No.183

スウェーデンのコロナ禍対策(6)

 スウェーデンのコロナ禍による死亡者について新しいデータ(注1)が公表されましたので、今回はそれを紹介します。このデータは9月28日までの死亡者5826名についてのものです。なお、10月6日現在の死亡者は5892名(注2)です。同データは死亡者について年齢、コロナ以外の疾患、居住地、居住住宅、死亡場所などを明らかにしています。下の表1はその一部を筆者が抽出したものです。
 まず総数全体を男女別に見ると男性が女性を上回っています。次に年齢別では、5211名(総数の89.4%)が70歳以上で、2899名(49.4%)が85歳以上です。死亡者の大部分は高齢者です。
しかし、年齢別を男女別に見ると85歳以上では女性の方が多くなっています。表1では示していませんが、5歳刻みの年齢で男女間を比較すると84歳以下までは男性が多く、85歳以上から女性が多くなっています。ちなみに2019年のスウェーデンの男性の平均寿命は80.75歳、女性のそれは84.24歳です(注3)
 次の疾患の欄は感染時におけるコロナ以外の疾患数を示します。死亡者の58%が二つ以上の疾患を抱えていました。主な疾患は心臓病・高血圧・糖尿病・肺疾患です。一番多いのは高血圧です。

表1 死亡者の構成(人、%)
(出所)注1より筆者抽出。

 さらに死亡者の住居構成を見たのが居住の欄です。ホームヘルプ欄は自分自身の住宅で、ホームヘルプ(訪問介護・看護)を利用している高齢者を指します。
 特別住宅は、ホームヘルプ以上の介護サービスを必要とする高齢者の為の施設で、その入居対象は身体疾患等を抱え24時間ケアが必要な高齢者です(注4)。なお、注5によれば、2019年の特別住宅の入居高齢者は87000人です。
 つまり、全死亡者の46.2%が特別住宅という介護施設の入居者でした。表2がその死亡者の内訳を示します。「ストックフォルム」とはストックフォルム県にある特別住宅の死亡者を表します。同県は全スウェーデンの21県のうちの最大人口県で、日本での東京都に該当します。

表2  特別住宅居住の死亡者(人)
(出所)注1より。

 注5によれば2019年の特別住宅の20%は民営であり、2007年の15%より民営が増加しています。このような民営化傾向も踏まえて、高福祉国家の高齢者介護サービスの中心的施設で、なぜ多くの犠牲者が出たのか、その原因解明が求められます。


1.スウェーデン社会庁URL
https://www.socialstyrelsen.se/statistik-och-data/statistik/statistik-om-covid-19/statistik-over-antal-avlidna-i-covid-19/
2.スウェーデン公衆衛生庁URL
https://fohm.maps.arcgis.com/apps/opsdashboard/index.html#/68d4537bf2714e63b646c37f152f1392
3.スウェーデン国家中央統計局URL
https://www.scb.se/en/finding-statistics/statistics-by-subject-area/population/population-composition/population-statistics/pong/tables-and-graphs/yearly-statistics–the-whole-country/life-expectancy/
4.石橋未来[2016]「スウェーデンの介護政策と高齢者住宅」『大和総研調査季報』
Vol.21,154-169頁。
5.Socialstyrelsen[2020] Statistics on Elderly and Persons with Impairments – Management Form 2019.

URL いずれも最終アクセス 2020年10月9日。

(執筆:馬場 義久)

日々是総合政策No.167

スウェーデンのコロナ禍対策(5)

 前回N0.156ではスウェーデンでのコロナ禍による死亡者について、外国人への波及可能性を指摘しました。外国人の感染者と死亡者に関するデータが見つかりましたので、今回はそれを紹介します。
 下の表は、2020年3月13日から5月7日までの感染者数(20804人)・死亡者数(3312人)のシェアを誕生国別に示しています。陽性者数と死亡者数をそれぞれ100とすると外国生れの割合が、32.1%、22.2%と人口のシェア19.6%を上回っています。

誕生国によるシェアの比較(%) 
(出所)注1,p.7の表1,p.13の表4より算出

 図1は人口10万人あたりの感染者数を、多い誕生国順に5カ国を選びスウェ-デン生れと比較したものです。最多のトルコが753人、スウェーデンは183人です。感染者の年齢の中央値は、トルコ61才、エチオピア49才、ソマリア49才、チリ57才、イラク51才、スウェーデン63才です。

図1.10万人あたり感染者数(人)
(出所)注1,p.7,表1より作成。

 図2は人口10万人あたり死亡者数を示します。ここでも多い誕生国順の5カ国とスウェーデンの比較です。最多のフィンランドが145人、スウェーデンは32人です。なお、注1,p7によれば、誕生国がフィンランドである在住者は約14.4万人で外国生れ全体の7.1%である。
 死亡者の年齢の中央値は、フィンランド82才、トルコ81才、ソマリア68才、チリ79才、イラク79才、スウェーデン85才です。

図2.10万人あたり死亡者数(人)
*死亡者が11名以下の生誕国は注1に含まれていない。
(出所)注1,p.13,表4より作成。

 さて、図のソマリア生れの在住者の67%とイラク生れの30%は、スウェーデン在住期間が10年未満で難民の多いグループ1に属し、チリ生れの91%とイラク生れの70%及びソマリア生れの33%は在住期間が10年を超えます(注2,pp.99-100より算出)。フィンランドやトルコの欧州生れは高齢者が多く、在住期間が比較的短いグループです(注2,p.5より)。
 注2,p.44によれば、グループ1の可処分所得は他の外国人グループやスウェーデン生れより低額です
 しかし、スウェーデンの医療はランスティング(都道府県に該当)、介護はコミューン(市町村に該当)が担当し、その財源は主に各地方の勤労所得税です。つまり公費(税)方式です。民間保険や社会保険の未加入により医療へのアクセス自体が制限されることはありません。
 むしろ、図1と図2の原因を探るには、グループ1の住宅が狭いこと(注2,p.58)、外国生れの方がスウェーデン生れより単身者世帯が少ないことなど(注2,p.12)、まず外国生れの状態を幅広く捉えることが必要でしょう。

(注)
1.スウェーデン公衆衛生庁URL
https://www.folkhalsomyndigheten.se/contentassets/d6538f6c359e448ba39993a41e1116e7/covid-19-demografisk-beskrivning-bekraftade-covid-19-fall.pdf
2.スウェーデン中央統計局URL
https://www.scb.se/contentassets/6834eab09f2c4758bb3fd9c015e765a8/le0105_2019a01_br_be57br1901.pdf
いずれも最終アクセス 2020年8月3日。

(執筆:馬場 義久)

日々是総合政策No.156

スウェーデンのコロナ禍対策(4)

 今回はスウェーデンでのコロナ禍による死亡者について取り上げます。注1によれば7月1日時点で死亡者数は5333人であり、国際的にかなり高い値です。ちなみに人口10万人あたりの死者数は50.7人で、イギリスの64.7人、イタリアの57.4人より少ないですが,フランスの44.4人、アメリカの37.1人を上回ります(注2より)。
死亡者数の多さとともに、死亡者が大ストックフォルムに集中しているのが特徴です。大ストックフォルムとはストックフォルム県をさし、ストックフォルム市だけでなく周辺の都市圏を含み、日本でいえば東京都にあたります。その人口は2018年で約233万人です(注3より)。注1によれば大ストックフォルムでの死者数は2278人で全国の42.7%を占めます。
 No.153で紹介した注4の筆者は、大ストックフォルムが外国人の多い地域である点を危惧しています。死者に外国人が多く含まれている可能性があるからです。注5より算出すると、2019年に大ストックフォルムには、外国をバックグランドとする人-以下、外国人と記す-が約82万人います。この数はスウェーデンにいる全外国人の31.1%を占め、大ストックフォルムの人口233万人に対し35%を占めます。
 コロナ禍による死亡者を外国人とスウェーデン人とで区別したデータが見つかりませんので、代わりに以下の図を紹介します。

全死亡者のうち、外国生れの割合%
(出所)注6より。

 図の横軸は週単位で1月1日から6月21日までの期間を表します。縦軸は、死亡者(コロナ禍による死亡者だけでなくすべての死亡者)のうち外国生れの人の割合を示します。概ね下方に位置する折れ線は2015年から2019年の平均値で、上方に位置する折れ線が2020年の値です。とくに第12週、すなわち3月中旬から2020年の値が急上昇し、2019年までの値とのギャップが大きくなっています。一概に結論づけることはできませんが、コロナ禍の外国人への波及が予想されます。

(注)
1.スウェーデン公衆衛生庁URL
https://fohm.maps.arcgis.com/apps/opsdashboard/index.html#/68d4537bf2714e63b646c37f152f1392
2.ブルームバーグURL
https://www.bloomberg.com/news/articles/2020-06-28/sweden-s-covid-expert-says-the-world-still-doesn-t-understand
3.外務省URL
https://www.mofa.go.jp/mofaj/area/sweden/data.html
4.IMF URL
https://www.imf.org/en/News/Articles/2020/06/01/na060120-sweden-will-covid-19-economics-be-different?utm_medium=email&utm_source=govdelivery
5.スウェーデン中央統計局 URL
https://www.statistikdatabasen.scb.se/pxweb/sv/ssd/START__BE__BE0101__BE0101Q/UtlSvBakgGrov/
6.スウェーデン中央統計局 URL
https://www.scb.se/om-scb/nyheter-och-pressmeddelanden/folj-preliminar-statistik-om-dodsfall/

最終アクセスすべて 2020年7月1日。

(執筆:馬場義久)

日々是総合政策No.153

スウェーデンのコロナ禍対策(3)

 No.142で紹介したように、スウェーデンはコロナ感染抑制策として、ロックダウンなどの厳しい規制措置はとっていません。国内の移動についても、基本的に国民の自律性に期待しています。今回は、このスウェーデンの「緩い規制」について検討したIMF(国際通貨基金)の記事の一部を紹介します。これはIMFの4人のスウェーデンチームが執筆したものです。

1.下の表は、規制策による職場への移動の減少率(%)を4国で比較したものです。2020年3月13日から4月12日までの変化率の平均です。表のスウェーデン2は「緩い規制」が導入された場合の予測値で、スウェーデン1が実際の値です。

(出所)注より作成。

 スウェーデンでの職場への移動は「緩い規制」により、予測値以上に減少しました。自律性が発揮されたのかも知れません。しかし、減少率は強い規制を採用した隣国3国には及びません。

2.次に経済面を取り上げます。注によると、2020年の第1四半期(1月から3月)の実質GDPの成長率を世界30カ国でみると、スウェーデンだけが約0.1%のプラスで、他の29カ国はすべてマイナスです。フィンランドが-1%、デンマークとノルウェーがともに-0.2%で、最も低下したのは中国で-10%です。注の筆者によれば、一般に国内の感染抑制政策は、国内需要とくにサービス部門への需要を削減するが、スウェーデンはサービス需要の落込みが他国より低く、輸出は逆に増加したということです。「緩い規制」が経済の落込みを抑えたかも知れません。
 他方、年間ベースでみるとスウェーデンも不況の到来を覚悟しなければなりません。とくに3月以降に始まった製造業―その多くは輸出企業―の落込みが問題です。これは外需の減少とサプライチェーンの崩壊によるもので、「緩い規制」の影響を受けないからです。注によると、2020年の実質GDPのスウェーデンの予想成長率について、IMFが-6.8%,スウェーデン財務省が基準ケースで-4%、悪いケースだと-10%、スウェーデン中央銀行が基準ケースで-7%、悪いケースで-9.8%と予想しています。
 注の筆者は、現在時点では、「緩い規制」がこの不況を長引かせるのか逆に回復に寄与するのか、言えないとしています。つまり、「緩い規制」の長所と言われる「経済への打撃抑制効果」も、より長期的な視点での検討が必要ということでしょう。

(注) IMF URL
https://www.imf.org/en/News/Articles/2020/06/01/na060120-sweden-will-covid-19-economics-be-different?utm_medium=email&utm_source=govdelivery
最終アクセス 2020年6月22日。

(執筆:馬場 義久)

日々是総合政策No.146

スウェーデンのコロナ禍対策(2)

 今回は大学生への支援策について紹介します。スウェーデンは今のところ、すべての学校で休校措置をとっていません。ただ大学は遠隔教育で対応しています。

1.大学等教育費の分担
 下の表は、大学や大学院などの教育費を100として、公共部門と家計がどれだけの割合で支出しているかを示します。スウェーデンは政府が84.7%支出し、家計の支出、つまり、学生やその保護者による支出は0.8%です。この0.8%はOECD35カ国中34位という低い値です。日本のそれは3位です。

表 大学等の教育費の分担割合% 2015年

 *公共や家計の他にNPOや寄付組織等の支出がある。
 **家計順位はOECD35カ国中の順位。
(出所)注1より抽出。

2.大学生支援策:奨学金のシーリング中止 
 以下、1スウェーデンクローナ=11円(注2より)として円単位で述べます。
 同国では、大学生や保護者の所得水準に関わりなく学費が無料です。国民の税負担により大学教育を支えています。いかなる時も学費未納による退学は生じません。危機に強いシステムです。
 では奨学金政策はどうでしょうか?全日制の大学生の場合、授業1週間あたり給付型奨学金が9058円、返済型が20812円、計29870円給付されます。
 奨学金制度には学生の所得シーリングがあります。保護者の所得は無関係です。半年間の所得が193万円を超えると奨学金は全く給付されません。このシーリングは、奨学金を得る週数-1週から半年で最大の20週-ごとに設定され、週数が多くなるほど低くなります。たとえば10週分だと162万円で、20週分では99万円です。つまり、学生の所得が99万円から162万円に増加すると、奨学金は20週分から10週分に半減します(以上の数値は注3より)。
 今回の支援策はこのシーリングを2020年に限り中止するものです。アルバイトをふやしても奨学金を減額しない措置です。背景に医療等での人手不足があるかもしれません。また、注3によれば今年失業し初めて大学で学ぼうとする人も、従前の所得水準にかかわらず奨学金を得られます。労働能力向上の後押しでしょう。政府はこの支援策を3月20日に発表しました(注4より)。その支出額は110億円です(注5より)。

1.OECD URL
https://data.oecd.org/eduresource/spending-on-tertiary-education.htm
2.オンライン通貨コンバータURL
https://ja.valutafx.com/SEK-JPY.htm
3.スウェーデン中央奨学金機構URL
https://www.csn.se/bidrag-och-lan/studiestod/studiemedel.html#h-Hurmycketpengarkanjagfaochlana
4.スウェーデン政府URL
https://www.government.se/articles/2020/03/the-governments-work-in-the-area-of-education-in-response-to-the-coronavirus/
5.スウェーデン政府URL
https://www.government.se/information-material/2020/04/from-the-spring-fiscal-policy-bill-2020-guidelines-for-economic-and-budget-policy/

以上、すべて最終アクセス 2020年5月10日。

(執筆:馬場 義久)

日々是総合政策No.142

スウェーデンのコロナ禍対策(1)

 今回はコロナ感染の現状と、政府の感染抑制策を紹介します。なお、同国の人口は約1000万人、その国土面積は日本の1.2倍です(注1より)。

1.感染の現状
 下の表は感染者数の多い30カ国から一部を抽出したものです。スウェーデンの感染者数総計は世界で21番目、感染者に占める死者の割合は12.1%と世界6番目です。スウェーデン公衆衛生局によると4月28日現在、総死者数の87%が70歳以上の方です。

(出所)日本経済新聞2020年4月28日付より算出。数字は、米ジョンズ・ホプキンス大学による。4月27日現在。

 ちなみにノルウェー公衆衛生研究所によれば、4月27日現在ノルウェーは感染者数7605人、うち死亡者数は195人です。この点もあってか、スウェーデンの代表的な新聞であるDAGENS NYHETER(=今日のニュース) で「なぜわが国の死者が隣の国々より多いのか、その原因を明らかにすべき」(注4より)との意見が出されています。

2.感染拡大抑制策
 スウェーデン政府による抑制策は、他の欧米諸国と異なり規制のきわめて少ないものです。法的に規制されるのは、50人を超えるイベント(コンサートなど)の禁止だけです。Stefan Löfvent首相は「政府と我々の医療システムはできることすべてを行っている。しかし、国民全員が責任を果たすことが重要」(注5より)と訴えています。そして、具体的には以下の行動をとれば責任を果たせるとしています(注6より)。
①軽い風邪であっても自宅で過ごし、職場に行かない。
②高齢の親族への訪問を避ける。
③何度もお湯と石鹸で手を20秒間洗う。
④屋内・屋外とも人との距離を保つ
⑤グランド・プール・ジムで人との距離を保つ。
⑥ラッシュアワーを避けて移動する。
⑦旅行は絶対必要な場合に限る。

3.「お願い」ではなく国民の責任を強調する点、いかにも自律の国らしい。なお、スウェーデンには「ノーマルな状態のもとで、ある特定の活動について責任を負う人々は、危機の状況下でも当該活動について責任を負うべし」(注5より)というThe responsibility principleがある。

注 
以下、すべて最終アクセス 2020年4月29日。
1.日本外務省URL
https://www.mofa.go.jp/mofaj/area/sweden/data.html
2.スウェーデン公衆衛生局URL
https://fohm.maps.arcgis.com/apps/opsdashboard/index.html#/68d4537bf2714e63b646c37f152f1392
3.ノルウェー公衆衛生研究所
https://www.fhi.no/en/id/infectious-diseases/coronavirus/daily-reports/daily-reports-COVID19/ 
4.DAGENS NYHETER URL
https://www.dn.se/debatt/fortsatt-fler-doda-i-sverige-an-i-vara-nordiska-grannlander/
5.スウェーデン政府URL
https://www.government.se/articles/2020/04/strategy-in-response-to-the-covid-19-pandemic/
6.スウェーデン政府緊急情報URL
https://www.krisinformation.se/en

 (執筆:馬場 義久)

日々是総合政策No.129

累進所得税と低所得者支援(3)

 前回No.120 では、勤労所得税額控除(EITC: Earning Income Tax Credit)による低所得者支援を取りあげました。今回は低所得者支援に所得税制が使用される背景について考えます。
 さて、低所得層には社会保障政策で対処し、高所得層には累進所得税による高率課税政策を行うという役割分担論があります。今日でもこの分担論は基本的に有意義と考えられますが、では、なぜ低所得者支援にEITCという租税政策が援用されるのでしょうか?
 その大きな理由の一つは、失業などで労働を止め社会保障を受益している人が、「労働に再び参加するコスト」(=以下、Participation Tax Rate=参加税率と記す)が高いことにあります。生活保護手当や失業手当など社会保障を受益している人が再び労働に参加すると、これらの手当が給付されなくなり、さらに所得税や社会保険料などの負担が生じます。
 いま、簡単なかたちで
 参加税率=(勤労復帰による社会保障給付の減少+所得税・社会保険料負担等の増加)÷勤労所得、
 と定義します。

参加税率の国際比較(% 2018年)

(出所)https://stats.oecd.org/viewhtml.aspx?datasetcode=PTR&lang=en 
より作成(最終アクセス2020/2/25)。

 上の表は、子供二人の両親のうち、一人が労働ゼロ、そのパートナーはフルタイムの勤労者で平均賃金の67%を得ており、労働ゼロの親は最低所得保障(生活保護タイプ)を給付されているとし、仮に労働ゼロの親が平均賃金の67%を得る場合の参加税率を示します。
 最低所得保障政策は多くの場合、勤労所得の増加に伴い給付を減額するシステム=差額主義を採用しています。つまり、労働参加すると労働による成果が「給付の減少」という形で取られてしまいます。そこで、経済的自立=労働参加を促す政策として、労働の成果自体を補助するEITCが登場したわけです。
 なお、参加税率を高める要因として、勤労所得税や社会保険料という公的負担も重要です。日本の参加税率の高い原因として社会保険料負担が注目されています。

(執筆 馬場 義久)