日々是総合政策No.116

人口減少のインパクト(7):合計特殊出生率(2)

 前回のコラムでは,出生の指標である合計特殊出生率について解説を行いました。合計特殊出生率の本来の定義からすると,「ある年に産まれた女性が,出産可能年齢の間に平均何人の子供を産んだのか」というコーホート合計特殊出生率を用いるべきなのですが,対象となる集団が49歳を越えないといけないという問題が生じます。
 そこで,コーホート合計特殊出生率に代わる合計特殊出生率として用いられているのが「期間合計特殊出生率」です。私たちがニュースなどで目(耳)にする「今年の出生率は…」といった数値は,期間合計特殊出生率です。厚生労働省による説明では,以下のようになります。
 「ある期間(1年間)の出生状況に着目したもので,その年における各年齢(15~49歳)の女性の出生率を合計したもの。女性人口の年齢構成の違いを除いた「その年の合計特殊出生率」であり,年次比較,国際比較、地域比較に用いられている」
 2018年段階における,期間合計特殊出生率は以下の表になります。

表1 期間合計特殊出生率(2018年)

 ちなみに,1974年の期間合計特殊出生率は以下の表になります。

表2 期間合計特殊出生率(1974年)

 1974年と2018年の期間合計特殊出生率を比較すると,1974年では20代の年齢別合計得出生率が高いことがわかります。一方で,30代以降の年齢別合計特殊出生率は2018年の方が高くなっており,晩産化の傾向にあることがわかります。

(執筆:中澤克佳)

日々是総合政策No.79

人口減少のインパクト(6):合計特殊出生率(1)

 人口動態に大きな影響を与える要素の1つとして,出生が挙げられます。現在の人口減少社会の要因は,結局のところ,出生数が継続的に低下してきていることにあります。
出生の動向を把握する指標として,「合計特殊出生率」(Total Fertility Rate:TFR)が挙げられます。皆さんがよく聞く「出生率」は,合計特殊出生率を指していると考えて良いでしょう。今回のコラムでは,この合計特殊出生率について解説していきます。
 合計特殊出生率をざっくりと説明すると,「一人の女性が一生の間に産む子ども数の平均値」となります。もう少し踏み込んで説明をしましょう。まず,女性の出産可能年齢を15歳から49歳とします。もちろん,この年齢以外でも出産をすることは可能ですし,実際に出産をしている人もいますが,国際的な定義として15歳から49歳と設定されています。
 次に,ある年に生まれた女性の,年齢別の出生率を把握します。例えば,1977年生まれの女性の15歳時点での出生率は,1977年生まれの女性が15歳になったときの,集団全体における出産した女性の割合となります。これを16歳時点での出生率,17歳時点での出生率…という形で算出し,最終的に15歳から49歳までの年齢別出生率を積み上げたものが,1977年生まれの女性の合計特殊出生率となります。
 以上の話を整理すると,1977年生まれ女性の合計特殊出生率とは,「1997年生まれ女性の,15歳から49歳までの年齢別出生率を足し合わせたものである」と定義できます。この合計特殊出生率を「コーホート合計特殊出生率」と呼びます。コーホートとは,同一年に生まれた集団を意味します。
 さて,合計特殊出生率の定義を踏まえると,コーホート合計特殊出生率を利用していくべき,となるかと思います。しかし,コーホート合計特殊出生率には大きな弱点があります。それは,「1977年生まれの女性の合計特殊出生率はまだ算出できない」ということです。なぜなら,1977年生まれの女性はまだ49歳になっていないからです。コーホート合計特殊出生率を算出するためには,対象となる集団が49歳を越えないといけないのです。2019年現在,コーホート合計特殊出生率を算出できるのは1969年以前生まれの集団に限られます。それでは不便なので,コーホート合計特殊出生率に代わる合計特殊出生率が用いられるようになっています。次回はその点について説明します。

(執筆:中澤克佳)

日々是総合政策No.64

人口減少のインパクト(5):人口減少の要因

 これまで,日本の人口減少について解説を行ってきました。今後50年間で約4,000万人の人口が減少していくという,すさまじい人口減少社会に突入していくことになります。また,人口減少のインパクトは地域ごとに異なります。主として地方部では,出生数の減少と高齢化がますます進行していくのに加えて,都市部への人口流出が進むことによって,人口減少は加速していきます。一方で,都市部での人口減少は相対的に緩やかであり,総人口に占める都市部の人口割合はさらに大きくなっていきます。
 ここまで述べてきたように,人口減少には「出生」,「死亡」,「移動」の3つの要素が関わってきます。死亡に関しては,高齢化の進展によって死亡者数が増加していきますので,人口減少の大きな要因となります。しかしながら,高齢化率も上昇し続けることを考えると,高齢者の増加よりも若年者の増加が少ない,つまり,生まれる子供の数が少ないことを意味しています。高齢者の増加による死亡者数の増加と,出生数の減少が人口減少を加速させているのです。
 なお,移動に関しては,日本全体で見たときには「どこかの地域の流出は別の地域の流入」となりますので,問題ありません。もちろん,これまで見てきたとおり,地域ごとで捉えた場合には「移動」の影響を無視することはできません。また,日本全体で見たときでも,海外への流出や,逆に日本への流入もありますので,そのような移動を考慮する必要もあるでしょう。現時点では,日本全体の人口に占める海外との「純移動」(流入-流出)は非常に小さいですが,今後は拡大していくことが予想されます。
 人口減少を食い止めるためには,①高齢者の死亡数を減少させること,②出生数を増加させること,③海外からの人口流入を増加させること,の3つが考えられることがわかります。このうち①に関しては,健康寿命の延伸など様々な対策が考えられますが,人は生きている以上,いつかは必ず亡くなりますので,人口減少という側面からは根本的な対策とはならないでしょう。また③については,移民政策として議論されるものになりますが,本稿ではひとまず除外します。次回以降では,②の出生数の増加について述べていきましょう。

(執筆:中澤克佳)

日々是総合政策 No.39

人口減少のインパクト(4):地域別の人口減少(3)

 前回のコラムでは、引き続き地域別の人口減少について述べていきました。人口減少は特に地方部において激しく、同時に高齢化の進展が激しくなっていきます。2045年段階での高齢化率が最も大きい都道府県は秋田県で50.1%になります。つまり、県民の約半分が高齢者となるのが30年後の秋田県ということになります。
 高齢化の進展が激しいのは秋田県にとどまりません。2045年の高齢化率(全国)の予測は36.8%と非常に高いのですが、地域別に見ると上で述べた秋田県の50.1%を筆頭に、青森県(46.8%)、福島県(44.2%)、岩手県(43.2%)と東北の県が続いていきます。東北の県で一番高齢化率が低いのは宮城県ですが、それでも40.3%と全国平均より高い数値となっており、40%を超えています。
 高齢者が増加していくことは、社会保障費用の増加や社会インフラの維持、地方財政の持続可能性など多岐にわたる影響を与えます。しかしながら、現在の(そして2045年の)高齢者は、本当に「高齢者」でしょうか。1977年生まれの筆者の子ども時代は、高齢者は「おじいさん」、「おばあさん」といった印象の方が多かったように感じます。しかし現在は、65歳を過ぎても元気で若々しい方が多いと感じます。長寿命化と健康寿命の延伸を受けて、高齢者を単純に捉えきることはできなくなりつつあります。内閣府(2019)『令和元年版高齢社会白書』によれば、日常生活に制限のない期間である健康寿命は、2016年時点で男性72.14歳,女性74.79年となっています。また、要介護認定を受けている人々の割合は、65歳から74歳の前期高齢者で2.9%、75歳以上の後期高齢者で23.3%と大きく異なっています。
 75歳以上の後期高齢者比率は、2045年の全国平均値が31.9%と予測されています。後期高齢者率は高齢化率と概ね連動しますので、後期高齢者率が高いのも東北各県になります。最も高いのは秋田県の31.9%、続いて青森県(29.1%)、福島県(27.4%)と続きます。実に11県が後期高齢者率25%、つまり人口の4分の1が後期高齢者という社会を迎えます。

(執筆:中澤克佳)

日々是総合政策 No.26

人口減少のインパクト(3):地域別の人口減少(2)

 前回のコラムでは、地域別の人口減少について話を進めました。主に地方において人口減少が加速していくのに対して、東京都は2030年までは人口が増加すると予測され、2045年でも2015年段階よりも人口は多くなる予想されています。つまり、地方は「低出生+高齢化」によって人口減少が加速するのに加えて、「都市への流出」というもう一つの要因によって人口減少が加速していくことになるのです。
 前回、2015年から2045年の30年間で、一番人口減少数「数」が大きいのは大阪府で約150万人と書きました。大阪府の2015年段階での人口は884万人です。2045年には734万人になると予想されています。確かに減少数としては非常に大きいですが、2045年においても東京都に次いで2位の人口規模を誇ります。総人口に占める大阪府の人口割合は、2015年と2045年ではほぼ変化はありません(7%)。一方、人口減少「率」が一番大きい青森県(-47%)では、2015年段階での人口が131万人であるのに対して、2045年段階での人口が82万人まで減少します。
 ちなみに、2045年段階での総人口が最小となる都道府県は鳥取県で、約45万人と予想されます。この約45万人というのは、尼崎市の人口とほぼ等しい数字になります。鳥取県の面積は約3,500平方キロメートルであるのに対して、尼崎市の面積は約50平方キロメートルですので、人口密度は70分の1となるわけです。
 さて、総人口だけではなく、年齢別の人口も見ていきましょう。少子高齢化は地方においてより深刻であると言われています。実際に、2045年の高齢化率(人口に占める65歳以上人口の割合)が一番低いのが東京都で、30.7%と予想されています。この数字も十分に大きいのですが、2045年段階での高齢化率が最も大きい都道府県は秋田県で50.1%になります。この数字のインパクトは極めて大きく、県民の約半分が高齢者となるのが30年後の秋田県ということになります。

(執筆:中澤克佳)

日々是総合政策 No.16

人口減少のインパクト(2):地域別の人口減少

 前回のコラムでは、今後50年間で約4,000万人の人口が減少することを示しました。2015年時点での東京都・埼玉県・千葉県・神奈川県に茨城県を加えた人口に等しい数の人口が減少していくことになります。この人口減少は、等しく進行していくわけではありません。「全ての地域で、同じような速度で」進行するわけではなく、「全ての年齢で、等しく」進行していくわけではありません。今回のコラムでは、地域別の人口減少に着目していきましょう。
 国立社会保障・人口問題研究所は、全国だけではなく都道府県別の将来人口推計も公表しています。都道府県別では、2019年5月20日現在で2045年までの将来人口推計の結果が公表されています。その推計では、ほとんどの道府県で2015年から2020年の人口が減少すると推計されています。具体的には、埼玉県、東京都、神奈川県、愛知県、沖縄県を除く42道府県で人口が減少していき、5年間に全国で約177万人が減少すると推計されています。
 2015年から2045年にかけて、最も人口減少「数」が大きいのは大阪府で約150万人です。最も人口減少「率」が大きいのは青森県で-37%です。人口減少率で見ると、減少率が大きいのは概ね地方の(大都市を含まない)県になります。これらの県は、元々の人口規模が小さいので人口減少数では上位になりませんが、人口減少率では上位になります。
 ほとんどの地方で人口が減少する一方で、東京都は2030年までは人口が増加すると予測され、2045年でも2015年段階よりも人口は多くなる予想されています。その要因としては、地方から都市への人口移動が挙げられるでしょう。つまり、地方は「低出生+高齢化」によって人口減少が加速するのに加えて、「都市への流出」というもう一つの要因によって人口減少が加速していきます。東京都の人口割合(対総人口)は、2015年で10.6%だったものが、2045年には12.8%になると推計されています。

(執筆:中澤克佳)

日々是総合政策 No.5

人口減少のインパクト

 人口減少社会という言葉を耳にする機会も多くなりました。人口減少社会とは、「産まれる人数よりも死亡する人数が多くなり、総人口が減少する社会」と捉えることができます。総務省統計局によれば、総人口が継続して減少し始めたのは2008年からとのことです。したがって、日本は2008年から人口減少社会に突入したと言えるでしょう。私たちがこれから生きていく日本社会は、人口が継続的に減少していく社会です。それでは、人口減少は私たちの社会にどのような影響を与えるのでしょうか。本コラムでは「人口減少のインパクト」と題して、数回に分けてこの問題を探っていきます。
 国立社会保障・人口問題研究所という機関が、日本の将来人口について推計を行っています。将来の人口を予測するためには、出生数と死亡数についてある仮定をおいて計算することになります。それぞれ、低位・中位・高位という仮定をおき、合計9パターンの計算を行っていますが、ここでは出生数・死亡数いずれも中位の仮定をおいた推計結果を紹介します。
 人口推計の出発点となる2015年の日本の総人口は1億2,709万人でした。2053年には1億人を割って9,924万人となり、2065年には8,808万人となると推計されています。実に、50年間で3,901万人が減少することになります。この数字の大きさは、2015年時点での東京都・埼玉県・千葉県・神奈川県に茨城県を加えた人口(3,905万人)とほぼ等しくなります。つまり、今後50年(正確には46年)で、1都4県に等しい人口が日本からいなくなるということです。
 あまりに数字が大きいため、やや呆然としてしまいますが、少なくともこのコラムを読んでくださっている若者の多くは、この急激な人口減少の体験者となるのです。2015年に15歳だった皆さんは、2065年には高齢者の入り口となる65歳です。まさに、当事者としてこの人口減少社会を乗り越えていかなければならないのです。

(執筆:中澤克佳)