日々是総合政策No.204

いま、何を語るか(続)

 “This is America’s day. This is democracy’s day. A day of history and hope. Of renewal and resolve.・・・We have learned again that democracy is precious. Democracy is fragile. And at this hour, my friends, democracy has prevailed.” (注1)
 「きょうは米国の日だ。きょうは民主主義の日だ。再生と決意の歴史及び希望の日だ。…我々は改めて民主主義の貴重さを認識した。民主主義はもろいものだ。しかし今この瞬間、民主主義は勝利を収めた。」(注2)

 これは、アメリカ合衆国第46代大統領ジョー・バイデンが大統領就任演説(2021年1月20日)で語った一部です。この背景には、1月6日ドナルド・トランプ前大統領の発言をきっかけに発生したアメリカ連邦議会議事堂へのトランプ支持過激派の乱入事件がありました。それ以前から、トランプ前大統領の政権運営のもとで、人種や貧富や信念などによる社会の分断と、報道や選挙などを巡る民主主義の正義への不信感が、アメリカで深まっていました。
 民主主義は語る人が違えばその意味内容も異なるといわれますが、多大公約数的な辞書的意味をみれば、「(democracy)語源はギリシア語のdemokratiaで、demos(人民)とkratia(権力)とを結合したもの。権力は人民に由来し、権力を人民が行使するという考えとその政治形態」(広辞苑 第六版)です。また、Oxford English Dictionaryに基づけば、英語のdemocracyの語源を順に遡ると、フランス語のdémocratie、ラテン語のdemocratia、 ギリシャ語のδημοκρατίαで、demos「people」と cratia「power」の合成で、その辞書的意味は「government by the people」となります。(注3)
 バイデン大統領の就任演説は、こうした辞書的意味や語源的意味だけでなく、民主主義とは何かについて歴史・理論・政策の観点から考える糸口を、私たちに与えてくれています。(注4)

(注1)この英文は、日本の全国紙でも対訳付きで掲載されましたが、ホワイトハウスの下記ホームページでは1文ごと改行(行間1行)のスタイルで掲載されています。https://www.whitehouse.gov/briefing-room/speeches-remarks/2021/01/20/inaugural-address-by-president-joseph-r-biden-jr/ 
(注2)この翻訳は、日本経済新聞2021年1月22日「バイデン大統領 就任演説(全文)」(朝刊10面)から引用しましたが、全国紙で掲載されている翻訳は、新聞社ごとに違いがあります。この点は、朝日新聞2021年1月29日「池上彰の新聞ななめ読み:バイデン大統領就任演説 訳し方で違った印象に」(朝刊13面)を参照ください。
(注3)https://www.oed.com/ を参照。
(注4)このとき、宇野重規『民主主義とは何か』(講談社, 2020)が手がかりとして有益でしょう。
注のURLの最終アクセスは、すべて2021年1月29日。

(執筆:横山彰)

日々是総合政策No.198

2021年元旦

 本年は、元旦に「新年明けまして、おめでとうございます」とは言い難い、お正月を迎えました。
 年頭にあたりまして、新型コロナウイルス感染症の猛威のもと、いまも大変なお仕事に従事なさっている医療関係者各位はじめ多くの皆さまに、心より感謝申し上げます。さらに、厳しい日常をお過ごしの皆さまのお心が少しでも休まるような日々が一刻も早く参りますよう、お祈り申し上げます。
 いまこそ、次世代の若い皆さんに考えていただきたいことがあります。皆さんは、これまでとはまったく異なる環境のもとで、一年近く生活をしてきました。コロナ感染症の不安と不確かな環境の中で、皆さんは何に一番時間を傾注したのでしょうか。もし手帳や日記やカレンダーにご自身のスケジュールを書き込んでいたならば、2020年の或る月や或る週の過ごし方を時間数で測ってみてください。例えば、2020年4月・8月・12月の生活時間の1日平均はどうだったでしょうか。1年前の同じ月の生活時間の1日平均とも比べてみてください。
 睡眠・食事・入浴など生理的に必要な活動(1次活動)の平均時間、通勤通学・仕事・学業・家事・育児・介護など社会生活を営む上で義務的な性格の強い活動(2次活動)の平均時間、テレビ・休養・学業以外の学習自己啓発・趣味娯楽・スポーツ・交際など一般に余暇活動といわれる自由な時間における活動(3次活動)の平均時間を概数でもよいので計算してみてください(注)。
 特に、3次活動の内訳に着目して、一番時間を傾注していた活動は何だったのでしょうか。その時間こそ、皆さんの未来の扉を開く鍵になります。その最大限に時間を傾注した活動を否定せず大切にして、その活動をご自身の個性や魅力や強みに結び付ける糸口を考えてみてください。その活動を、コロナ禍で大変な時間を過ごされている方々の一助となるように変換する活かし方を、是非とも考えていただきたいのです。その変換には、3年から5年あるいは、それ以上の時間がかかるかもしれません。
 しかし、若い皆さんには、そうした中長期の時間軸の中でご自身の個性や魅力や強みを活かした自己実現をして欲しいと願っています。本年が皆さんにとりまして、素晴らしい1年になりますようお祈りいたします。

(注)ここでいう1次活動・2次活動・3次活動の平均時間の定義については、「社会生活基本調査」の生活時間(https://www.e-stat.go.jp/koumoku/koumoku_teigi/M 最終閲覧2020.12.30)を参照ください。

(執筆:横山彰)

日々是総合政策No.192

いま、何を語るか

“And so, my fellow Americans: ask not what your country can do for you–ask what you can do for your country.” (注1)

 これは、アメリカ合衆国第35代大統領ジョン・F・ケネディが大統領就任演説(1961年1月20日)で語った一節です。アメリカンセンターJAPANの仮翻訳では、「だからこそ、米国民の同胞の皆さん、あなたの国があなたのために何ができるかを問わないでほしい。あなたがあなたの国のために何ができるかを問うてほしい。」となっています。(注2)
 この一節については、色々な含意が議論できます。「あなたの国」の部分を「country」を「community」や「friend」や「family」に代えてみると、「あなた」と「あなたの国」との関係から、「あなた」と「あなたの共同社会」・「あなたの友人」・「あなたの家族」との関係になります。「あなた」と「あなたの国・共同社会・友人・家族」との関係は、どのような関係なのでしょうか。広くは互恵関係と考えられますが、「あなた」の方が「あなたの国・共同社会・友人・家族」からより多くの恵みを得ているのでしょうか、あるいは逆に「あなたの国・共同社会・友人・家族」の方が「あなた」からより多くの恵みを得ているのでしょうか。
 また、上記の就任演説で「何ができるか」と問われたとき、「何について」かを考えた人もいたでしょう。いまなら、まさに「コロナ感染症対策について」、「あなた」が「あなたの国・共同社会・友人・家族」のために「何ができるか」を問うてほしい、となるでしょう。その一方で、「あなたの国・共同社会・友人・家族」が「あなた」のために「何ができるか」を問うことも必要になるかもしれません。
 加えて、「何ができるか」の部分の「can」を「should」に代えてみましょう。すると、「何ができるか」ではなく「何をなすべきか」になり、「コロナ感染症対策について」、「あなた」が「あなたの国・共同社会・友人・家族」のために「何をなすべきか」を問うてほしい、となるでしょう。他方、「あなたの国・共同社会・友人・家族」が「あなた」のために「何をなすべきか」を問うことはできるのでしょうか。

(注1)出所: https://www.jfklibrary.org/archives/other-resources/john-f-kennedy-speeches/inaugural-address-19610120 <最終閲覧:2020.11.9>
(注2)出所: https://americancenterjapan.com/aboutusa/translations/2372/<最終閲覧:2020.11.28>

(執筆:横山彰)

日々是総合政策No.187

新型コロナウイルス感染症の発生状況を調べてみよう

 新型コロナウイルス感染症の発生状況については、2020年11月2日現在の国内での新型コロナウイルス感染症の感染者は101,813例、死亡者は1,774名となりました(注1)。年齢階層別の陽性者数・死亡数・重症者割合・死亡率の最新データは、表の通りです。

表:年齢階級別の陽性者数・死亡数(2020年10月28日18時時点)
出所:厚生労働省「新型コロナウイルス感染症の国内発生動向」(https://www.mhlw.go.jp/content/10906000/000689607.pdf)に基づき筆者作成。
備考:(1)チャーター機、クルーズ船案件は除く。医療機関からの届出情報との突合前、(2)合計には、「不明・調査中・非公表」の人数を含まない。(3)陽性者数は累計陽性者数で、死亡率は年齢階級別にみた死亡者数の陽性者数に対する割合、重症者割合は年齢階級別にみた重症者数の入院治療等を要する者に対する割合である。各自治体がウェブサイトで公表している数等を積み上げた陽性者数・死亡者数・重症者数とは一致しない。

 この表からは、(1)陽性者数の年齢階級別構成比をみると、感染者の年齢層が明白に分かります。20代が全感染者数の27.4%にも達し、20代30代40代の3年齢階級で全感染者数の59.0%を占めているの対し、60代以上の高齢の感染者数は全感染者数の20.6%でしかないのです。(2)死亡数の年齢階級別構成比をみると、60代以上の高齢の死亡者は全死亡数の95.2%にもなっています。(3)さらに死亡率をみると、70代で7.1%そして80代以上で17.0%ですので、高齢の年齢層が感染したとき死亡するリスクは若い年齢層に比して高いのです。
 こうした数値で示されていることは、いまや常識で、種々の情報源から特にインターネットを通じて若い人びとも知っています。ただ、陽性者数や死亡数の年齢階級別構成比は自分で調べてみないと正確には分からないのです。自分で調べてみることが、大切だと思います。
 表中の「重症者割合」の数値は、出所で示した厚生労働省のWebsite 内の数値をそのまま引用しています。「重症者割合は年齢階級別にみた重症者数の入院治療等を要する者に対する割合である」と記述されていましたが、重症者数の「重症者」はどのような症状の感染なのでしょうか、また「入院治療等を要する者」とは、どのような感染者なのでしょうか。
 これらについて、厚生労働省・診療の手引き検討委員会「新型コロナウイルス感染症(COVID-19) 診療の手引き 第3版」(https://www.mhlw.go.jp/content/000668291.pdf)も参考に、ご自分で調べてみてください。
 新型コロナだけではなく、ご自分で興味をもったことがあれば何事も自分で調べてみてください。そして、何が分かり、何が分からなかったのかを明らかにして、分からなかった事柄を調べた年月日と調べた資料や URLなどと一緒にメモ書きしておくと、後で役立つことがあると思います。

(注1)厚生労働省「国内の発生状況」
https://www.mhlw.go.jp/stf/covid-19/kokunainohasseijoukyou.html
 本文・注のURLの最終アクセスは、すべて2020年11月2日。

(執筆:横山彰)

日々是総合政策No.180

欧州グリーンディールと欧州復興計画

 新型コロナウイルス感染症は、前回(No.171)にも述べましたように、全世界の社会と経済に甚大な影響を及ぼし、人々に「新たな日常」への転換を求めています。欧州もコロナ危機の対応を余儀なくされています。このコロナ感染が大きな社会問題となった2020年の前年末、すなわち2019年12月に、欧州委員会は新たな成長戦略として、次に定義されるような「欧州グリーンディール」(The European Green Deal)を策定しました(注1)。


 欧州グリーンディールは、・・・EUを、2050年に温室効果ガスの純排出がなく経済成長が資源の使用から切り離された、近代的で資源効率の高い競争的な経済をもった公正で繁栄した社会に変革することを目的とした新たな成長戦略である。


 この新たな成長戦略策定後に生じたコロナ危機に対処するため、欧州委員会は2020年5月に、EU(European Union:欧州連合)の予算総額1.85兆ユーロの欧州復興計画(the recovery plan for Europe)を提案しています。欧州復興計画では、EUが立ち直り、コロナ危機による被害を修復し、次世代のためにより良い未来を準備するためにグリーンとデジタルの対になった移行を加速させることの重要性が示されました。そして、欧州グリーンディールを最大限に活用するには、次世代EUが競争力のある持続可能性を推進することが不可欠であり、復興への公共投資は、環境と気候変動に「害を及ぼさない」というグリーン宣誓を尊重する必要があるとされています。とりわけ欧州委員会は、気候変動対策をさらに強化するため、2021-27年のEU長期予算について総支出の少なくとも25%が同期間の気候変動対策に充てられることを提案していますので、復興への公共投資もこの点が配慮されることになります(注2)。
 さらに、コロナ危機によって、欧州でもデジタル化の重要性が一層高まり、社会生活や経済生活の永続的かつ構造的な変化(更なるテレワーク、eラーニング、eコマース、電子政府)がもたらされ、国境を越えたデジタル公共サービスへの簡単で信頼できる安全なアクセスを可能にする広く受容されるe-ID(公共電子ID)が開発されるようになる点も、指摘されています(注3)。

(注1)European Commission, “The European Green Deal,” (Brussels, 11.12.2019 [COM(2019) 640 final]) p. 2
https://eur-lex.europa.eu/resource.html?uri=cellar:b828d165-1c22-11ea-8c1f-01aa75ed71a1.0002.02/DOC_1&format=PDF なお、経済成長と資源利用との切り離しは、環境分野では「デカップリング」といわれています。この点についての簡単な説明は、
https://www-cycle.nies.go.jp/magazine/mame/201608.htmlを参照ください。
(注2)European Commission, “The EU Budget Powering the Recovery Plan for Europe,” (Brussels, 27.5.2020 [COM(2020) 442 final])
https://eur-lex.europa.eu/resource.html?uri=cellar:4524c01c-a0e6-11ea-9d2d-01aa75ed71a1.0003.02/DOC_1&format=PDF,
European Commission, “Europe’s Moment: Repair and Prepare for the Next Generation,” (
Brussels, 27.5.2020 [COM(2020) 456 final])
https://eur-lex.europa.eu/legal-content/EN/TXT/PDF/?uri=CELEX:52020DC0456&from=EN,
European Commission, “Supporting Climate Action through the EU Budget,”
https://ec.europa.eu/clima/policies/budget/mainstreaming_en を参照。
(注3)European Commission, “Europe’s Moment: Repair and Prepare for the Next Generation,” (Brussels, 27.5.2020 [COM(2020) 456 final]) p.8
https://eur-lex.europa.eu/legal-content/EN/TXT/PDF/?uri=CELEX:52020DC0456&from=EN を参照。

(執筆:横山彰)

日々是総合政策No.171

ポストコロナと「新たな日常」:骨太方針2020

 日本を含め多くの国や地域の経済社会は、新型コロナウイルス感染症拡大により、甚大な影響を受け、これまでの常識では対応できない状況に陥っている、と広く認識されています。こうした認識は、去る7月17日に閣議決定された「経済財政運営と改革の基本方針2020~危機の克服、そして新しい未来へ~」(骨太方針2020) にも示されています。
2007‐2008年の世界金融危機とリーマンショックを経た構造的な変化や変化後の経済状況を示す「ニューノーマル(new normal)」という言葉が、そのとき以上に、今回のコロナ禍を経験した後の世界状況を表すものになっています。「ニューノーマル」は、「新たな常態/常識」として理解されることが多いですが、骨太方針2020では「新たな日常」として言及されています。
 「新たな日常」を実現するために、骨太方針2020は「デジタルニューデール」(デジタル化への集中投資・実装とその環境整備)を掲げています。その中身は、次世代型行政サービスの強力な推進(行政サービスのデジタル化)、デジタルトランスフォーメーション(データとデジタル技術を活用したデジタルによる経済社会の変革)の推進、新しい働き方・暮らし方(テレワークや教育・医療のオンライン化等)、変化を加速するための制度・慣行の見直し(書面・押印・対面主義からの脱却等)です。
 「新たな日常」はポストコロナにおける国のあり方や人々の働き方や家庭・教育・医療環境を描いていますが、新型コロナウイルス感染症専門家会議がまとめた「新しい生活様式」 はウイズコロナにおける日常生活を営む上での基本的生活様式などの実践例を示しています。身体的距離の確保・マスクの着用・手洗いといった個人レベルの基本的感染対策や、「3密」(密集・密接・密閉)の回避などの基本的生活様式や、テレワーク・時差通勤・オンライン会議などの働き方の新しいスタイルが「新しい生活様式」として取り上げられています。
 ウイズコロナの「新しい生活様式」の経験を基に、ポストコロナの「新たな日常」の実現をめざすことは、プレコロナ(コロナ禍以前)の「これまでの生活様式/日常」とは異なる国民生活の諸活動を支える経済社会基盤を構築することを意味します。

(注)本文中のリンク先URLすべて、最終アクセス2020年8月28日。

(執筆:横山彰)

日々是総合政策No.162

コロナ感染拡大と隔離

 8月1日時点で、東京都の新型コロナウイルスの新規感染者数は過去最高472名に達しています。全国で見ても、7月31日1580人、8月1日1536人と、新規感染者数が1500名を超えています(注1)。
 コロナ感染の拡大防止には、PCR検査や抗原検査を拡充し感染者を同定して(見極めて)隔離することが重要であると広く認識され、とりわけPCR検査の拡充が求められています。しかし、隔離の対応次第で医療資源逼迫の心配も出てきます。
 コロナ感染症患者については、原則として、「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療の法律(平成10年法律第114号)」第19条に基づく入院措置が行われていました。しかし、2020年3月に、地域での感染拡大により入院の必要な患者が増大し重症者や重症化のおそれの高い者に対する入院医療の提供に支障をきたすと判断されたとき、症状がない者または医学的に症状が軽い者(以下、「軽症者等」という)については、自宅での安静・療養が原則とされました(注2)。4月には、地域で感染が拡大した状況では、軽症者等については、自宅療養だけでなく宿泊療養(ホテルなど宿泊施設での隔離)もなされるようになり、その後に宿泊施設が十分に確保されているような地域では家庭内での感染事例が発生していることや症状急変時の適時適切な対応の必要性から宿泊療養が基本とされました(注3)。そして、新型コロナウイルス感染症の軽症者等の宿泊療養及び自宅療養に係るマニュアル等が定められ改訂もなされています(注4)。
 これは、PCR検査や抗原検査で陽性と判定された新規感染者を対象に、軽症者等の隔離措置を定めたものですが、PCR検査や抗原検査の対象者をどこまで拡充するかが議論されています。
 いわゆるクラスター対策は、濃厚接触者を対象にPCR検査を行って感染者を同定し隔離することをめざしていますが(注5)、今後は特定活動分野の人々を対象とする定期的な検査や誰にでも何度でも検査を行い、より多くの感染者を同定し隔離する体制を構築することが必要になります。そうした体制のもとで大量に増大すると考えられる軽症者等の隔離措置の再検討や、中等症患者の入院医療強化が求められています。

(注1)NHK「8月1日 新たに確認された感染者数(NHKまとめ)」(8月1日20:30時点) を参照。
(注2)厚生労働省新型コロナウイルス感染症対策推進本部「地域で新型コロナウイルス感染症の患者が増加した場合の対策(サーベイランス、感染拡大防止策、医療提供体制)の移行について」(令和2年3月1日付け事務連絡) 同「新型コロナウイルス感染症患者の自宅での安静・療養について」(令和2年3月17日付け事務連絡) を参照。
(注3)厚生労働省新型コロナウイルス感染症対策推進本部「新型コロナウイルス感染症の軽症者等に係る宿泊療養及び自宅療養の対象並びに自治体における対応に向けた準備について」(令和2年4月2日付け事務連絡)同「新型コロナウイルス感染症の軽症者等に係る宿泊療養及び自宅療養の考え方について」(令和2年4月23日付け事務連絡) を参照。
(注4)厚生労働省新型コロナウイルス感染症対策推進本部「新型コロナウイルス感染症の軽症者等の宿泊療養及び自宅療養に係るマニュアル等の改訂について」(令和2年6月15日付け事務連絡) を参照。
(注5)国立感染症研究所感染症疫学センター「新型コロナウイルス感染症患者に対する積極的疫学調査実施要領(2020年5月29日暫定版)」 によれば、「濃厚接触者」とは、「患者(確定例)」の感染可能期間(症状を呈した2 日前から隔離開始まで)に接触した者のうち、次の範囲に該当する者と定義されています。
・ 患者(確定例)と同居あるいは長時間の接触(車内、航空機内等を含む)があった者
・ 適切な感染防護無しに患者(確定例)を診察、看護若しくは介護していた者
・ 患者(確定例)の気道分泌液もしくは体液等の汚染物質に直接触れた可能性が高い者
・ その他: 手で触れることの出来る距離(目安として1 メートル)で、必要な感染予防策なしで、「患者(確定例)」と15 分以上の接触があった者(周辺の環境や接触の状況等個々の状況から患者の感染性を総合的に判断する)。

以上のリンク先URLすべて、最終アクセス2020年8月1日。

(執筆:横山彰)

日々是総合政策No.154

コロナ禍と不確実性:キッシンジャーの「推測の問題」

 7月6日現在、東京都の新規感染者数は5日連続で100名を超え、コロナ禍の心配が続いています。新規感染者数の推移をどう評価し、いかなる対応処置をとるかについては、医療分野や経済分野などの有識者でも種々の意見があります。しかし、そうした意見の基になる新型コロナウイルス感染症やその対策の政策効果に関する情報は、コロナ禍の全体像を把握できるほどではないようです。有識者を含めすべての人々がいま不確実性に包まれた状況下にある、といえます(注1)。
 不確実性に包まれた状況下においては、公共政策の最終決定権者は、ファーガソンが引用するキッシンジャーの「推測の問題」(the problem of conjecture)に直面します(注2)。


 あなたが首相だったとして、大惨事の危険に気づいたとします。でも確実とは言えない危険で、どれほどの確率かも言えません。確率を示せない不確実な領域にあるものの、[大惨事の発生する]危険がある状態です。危険を排除する、または軽減させるべく困難な行動に出ますか。もしかしたら成功するかもしれません。一方で、何もせず最善の結果を祈るだけという手もあり、幸運にも大惨事は起こらないかもしれません。予測[推測]の問題とは、大惨事を阻止しようと先手を打っても見返りがないということです。なぜなら避けられた大惨事、起こらなかった事件に対して感謝する人はいないからです。何もしなければ行動のコストを被ることはありません。ですが不運にも大惨事が起こるかもしれません。意思決定者[最終決定権者]の利得は極めてアンバランスなのです。
 民主主義[社会]においては何もせず最善の結果を祈る方が簡単です。なぜなら予防策のための先行投資はほぼ確実に無駄になるからです。大惨事を阻止することに成功した場合でも、起こらなかった大惨事には誰も感謝しないので利得はありません。


 これがキッシンジャーが明らかにした問題で経済の領域にも当てはまる、とファーガソンは言っています。しかし、コロナ禍の大惨事に関しては、予防策をとる「行動のコスト」を誰が負担するのかを再確認する必要があります。この大惨事を阻止する行動を見せなければ、指導者としての資質を問われるかもしれません。
皆さんが最終決定権者だったら、どうしますか。

(注1)この状況は、No.58 で触れた「合理的無知」(追加的な情報を獲得することの便益と費用を比較考量して費用の方が便益よりも大きければ、それ以上の情報を獲得せず情報欠如となること)の状況とは異なります。たとえ費用がかからずできる限りの情報を獲得できたとしても、その情報は完全ではなく限定的である状況です。
(注2)以下は、NHK BS1スペシャル「欲望の資本主義2020スピンオフ ニーアル・ファーガソン 大いに語る」 (2020年4月29日放送)でのファーガソンの言説(字幕)を一部加筆修正したものです。ここでの「危険」は‘risk’で、字幕では「リスク」と訳出されています。しかし、一般に経済学では、事故の発生確率が分かっている事象を「リスク」、事故の発生確率が分からない事象を「不確実性」として区別しています。一般的な意味での‘risk’は、つまり事故の発生確率の分かっている「リスク」と分からない「不確実性」の両方を含めた‘risk’なので、ここでは「危険」と訳しています。 [ ]部分は加筆しています。
 また、Niall Ferguson, “The Problem of Conjecture,” in Melvyn P. Leffler and Jeffrey W. Legro (eds.), To Lead the World: American Strategy after the Bush Doctrine, Oxford, New York: Oxford University Press, 2008, pp. 227-249の分担執筆章(第10章)冒頭部分(p. 227)に引用されている “Decision Making in a Nuclear World,” Henry Kissinger Papers, Library of Congressの中のキッシンジャーの「推測の問題」(the problem of conjecture: ‘conjecture’ は「明確な知識に基づいておらず推測によって形成される意見や考え方」や「明確な知識に基づいていない意見や考え方の形成」を意味していますので、「推測」の問題は「推測によって形成される意見」の問題もしくは「推測による意見形成」の問題といった方が正確になります)における選択問題は、以下の通りで、BS1スペシャルでのファーガソンの選択問題とは若干ニュアンスが異なっています。
 「おそらく最も難しい問題は外交政策における推測の問題である。・・・各政治指導者は、最小限の努力しか必要ないと評価するか、より多くの努力が必要であると評価するかの選択がある。・・・彼が早く動くならば、彼はそれが必要であったかどうかを知ることができない。彼が待つならば、彼は幸運かもしれないし不運かもしれない。それはひどいジレンマである。」

(執筆:横山彰)

日々是総合政策No.150

新型コロナウイルス感染症対策

 6月1日現在における日本政府の新型コロナウイルス感染症(以下、コロナ)対策の全容は、内閣官房のWebサイト(https://corona.go.jp/action/)で知ることができます。
 そして、さらなるコロナ対策として、政府は令和2年度第2次補正予算案を5月27日に閣議決定し、国会での成立を目指しています。その追加歳出は、コロナ対策関係経費31兆8,171億円、国債利払費等963億円、議員歳費▲20億円で、合計で31兆9,114億(概数で31.9兆円)になっています。コロナ対策関係経費の主要なものを概数でみると、中小・小規模事業者向け融資を中心とした「資金繰り対応の強化」11.6兆円、「家賃支援給付金の創設」2.0兆円、コロナ緊急包括支援交付金を中心とする「医療提供体制等の強化」3.0兆円、「コロナ対応地方創生臨時交付金の拡充」2.0兆円、「持続化給付金の対応強化」1.9兆円、「コロナ対策予備費」10.0兆円です(注1)。
 この第2次補正予算で意見が分かれるのは、「医療提供体制等の強化」と「コロナ対策予備費」の評価です。前者については、第2次補正予算の9.40%(概数での算定、以下同じ)に過ぎず、さらにはPCR(polymerase chain reaction:ポリメラーゼ連鎖反応)・抗原検査などの検査体制強化622億円、コロナに係る情報システム整備42億円、ワクチン・治療薬の開発と早期実用化等2,055億円と、「検査体制の充実、感染予防防止とワクチン・治療薬の開発」には合計でも2,719億円(第2次補正予算の0.85%)しか充てられていません(注2)。後者については、10兆円という規模の予備費(第2次補正予算の31.35%)は、「財政民主主義の観点から、使途を明確にする必要がある」といった意見が野党各党から出されています(注3)。この点は、議会(立法府)が政府(行政府)の行動を統制する手段としての役割を予算がもつこと、すなわち予算の統制機能に関わります。こうした予算の役割と、今後のコロナ情勢に応じて政府が柔軟な政策対策をとれることとのバランスが問題になります(注4)。
皆さんも、予算という窓を通して政府のコロナ対策を眺めてみてはいかがですか。

(注1)財務省「令和2年度補正予算(第2号)の概要」
https://www.mof.go.jp/budget/budger_workflow/budget/fy2020/sy020407/hosei020527b.pdf
(注2)厚生労働省「令和2年度厚生労働省第二次補正予算案の概要」
https://www.mhlw.go.jp/wp/yosan/yosan/20hosei/dl/20hosei03.pdf
(注3)NHK「第2次補正予算案 “10兆円の予備費 使途説明を” 野党各党」
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20200528/k10012449301000.html
(注4)この点については、次の考察も参考になります。大石夏樹(2009)「予備費制度の在り方に関する論点整理」『経済のプリズム』 第72号、13-25頁、参議院事務局企画調整室
https://www.sangiin.go.jp/japanese/annai/chousa/keizai_prism/backnumber/h21pdf/20097202.pdf
以上のURL、すべて最終アクセス 2020年6月1日。

(執筆:横山彰)

日々是総合政策No.147

特別定額給付金(下)

 新型コロナウイルス感染症緊急経済対策として実施されている特別定額給付金(一律に一人当たり10万円の給付)の給付事業費は、12兆7,344億14百万円(約12.73兆円)です(注1)。
 軽減税率制度のもとでの消費税率(国・地方)1%分の税収を2.1兆円程度と仮定すれば(注2)、この特別定額給付金は消費税率6(12.73÷2.1)%分の消費税減税を行える予算規模になります。12.73兆円の特別定額給付金も12.73兆円(税率6%分)の消費税減税も、特定の個人や世帯を限定しない普遍主義的な政策という点では同じです。しかし、消費税減税なしでの12.73兆円の特別定額給付金と12.73兆円(税率6%分)の消費税減税とでは、立法措置が異なり、政策実施の迅速性や行政費用も異なり、人によって受益も異なり、さらに消費税体系としての違いが出てくるとも考えられます。
 一律に一人当たり10万円の給付を行うことは、単純に消費税率を均一の10%だとしますと、一人当たり年間100万円分の消費を基礎消費として、この基礎消費に係る消費税額分10(10%×100)万円を一律に還付することとも考えられます。つまり、支払税額=税率×(年間消費−基礎消費)=税率×年間消費−税率×基礎消費=支払消費税額−定額給付金ですので、比例消費税と定額給付金をセットで考えれば、累進消費税(付加価値税)体系になります。このときの「累進」とは、年間消費が高い者ほど平均消費税率(支払税額÷年間消費)が高くなることを意味しています(注3)。この点に関しては、定額給付金は負の人頭税ですので、「付加価値税に負の人頭税を併用した累進付加価値税」を新しい支出税として、提示することもできます(注4)。他方、税率6%分の消費税減税は4%の比例消費税(付加価値税)になります。そこで、両者には消費税体系としての違いがあるとも考えられるのです。
 今回の特別定額給付金は一時的措置なので、これを来年度以降に継続しなければ累進消費税体系とは考えられません。そこで、来年度以降も何らかの形で定額給付金を継続させるのか否か、コロナ禍の収束後に東日本大震災に係る復興税のような形で当該緊急経済対策に係る公債の償還財源を考えるのか否かは、検討してみても良いでしょう。

(注1)総務省「特別定額給付金(新型コロナウイルス感染症緊急経済対策関連) 」
https://www.soumu.go.jp/menu_seisaku/gyoumukanri_sonota/covid-19/kyufukin.html <2020年5月18日最終アクセス>
(注2)馬場義久・横山彰・堀場勇夫・牛丸聡(2017)『日本の財政を考える』有斐閣、51頁で示されているように「軽減税率制度のもとでの消費税率1%の増収額は、2.04(もしくは2.23)兆円程度と見込め」ますので、ここでは消費税率1%の税収を2.1兆円程度と仮定しています。ただし、この税収見込みは、国民経済計算の最終消費支出に左右されますので、コロナ禍の影響でかなり低下するでしょう。
(注3)累進所得税の「累進」は、年間所得が高い者ほど平均所得税率が高くなることを意味します。累進所得税と累進消費税の違いは、個人の支払い能力(経済力)を所得で考えるか消費で考えるかの違いです。一般に、「消費税は逆進的である」といわれるのは、高所得者ほど所得に占める消費税額の割合が低くなるからで、所得分配への効果としての逆進性があるからです。詳しくは、加藤寛・横山彰(1995)『税制と税政:改革かくあるべし』読売新聞社、217-218頁を参照ください。
(注4)この新しい支出税の考え方については、横山彰(1994)「新しい支出税体系の検討」『租税研究』(日本租税研究協会)第535号、4-12頁、加藤・横山前掲書(注3)、214-221頁、横山彰・馬場義久・堀場勇夫(2009)『現代財政学』有斐閣、271頁を参照ください。

(執筆:横山彰)