日々是総合政策No.195

COVID-19と財政出動

 COVID-19対策として政府は積極的な財政出動を行っているが、その規模はどれくらいになるのだろう。日本政府の対応の規模感をつかむために、歳出増の対GDP比をG20及びその他の先進25カ国を加えた合計45カ国の中で比べてみよう。図1の縦軸にはIMFが2020年10月に発表した2020年9月11日時点での、COVID-19に対応するために行われた追加支出等の金額の対GDP比が示されている(注1)。横軸には2020年12月3日時点の人口100万人当たり死亡死者数をとっている(注2)。IMFの注意書きにあるように、各国の財政制度は異なるので、あくまで大まかな推定かつ暫定的な数字である。それでも、世界の中での日本の立ち位置が少し見えてくる。日本は、ニュージーランド、シンガポール、オーストラリア、香港とともに、死亡者数が少ない中では大きな追加支出を行なっているグループを形成していることがわかるだろう。

図1 追加政府支出の対GDP比(%)

 COVID-19への対応は直接的な政府支出だけでなく、中小企業の資金繰り支援などの流動性確保を目的にした融資や返済猶予・免除などの形でも行われる。図2には、流動性支援のための融資等金額の対GDP比が示されている。これを見ると、先ほどあげた5カ国のグループの中では、日本が特異な位置にいることがわかる。どうやら、日本政府は直接的な支出での対応以上に、流動性支援で対応している割合が大きいようだ。
 次年度は景気後退に伴い十数%の税収低下が見込まれているが、COVO-19感染症の問題は未だに収束する様子を見せておらず、政府支出の追加を求める声も強くなるだろう。その際には、他の国との比較でみていくことで政策に対する新しい視点を提供してくれるかもしれない。

図2 追加政府支出と流動性支援等の対GDP比(%)

注1)IMF, Fiscal Monitor Database of Country Fiscal Measures in Response to the COVID-19 Pandemic (2020年10月)https://www.imf.org/en/Topics/imf-and-covid19/Fiscal-Policies-Database-in-Response-to-COVID-19
注2)Worldometer, (2020年12月3日)https://www.worldometers.info/coronavirus/
URLの最終アクセスいずれも 2020年12月3日。

(執筆:小川光)

日々是総合政策No.194

結婚と離婚、そして緊急事態宣言(下)

 結婚をするカップルもいれば離婚するカップルもいる。2020年4月に出された緊急事態宣言は、離婚の決定にも影響している。婚姻届出の状況と同じように、図には緊急事態宣言が出された2020年4月以降の6か月間の離婚届出件数が、前年の同期間(2019年4月~9月)に比べてどのくらい変化したかが示されている。あわせて、緊急事態宣言の影響を相対的に見るために、緊急事態宣言が出されていない2019年10月から2020年3月までの離婚の届出件数の変化率を前年同期(2018年10月~2019年3月)と比べて示している。
 これをみると、緊急事態宣言が出される前の離婚の届出件数は、前年同期に比べて、特定警戒都道府県で1.7%減、それ以外の地域で2.7%減と微減だったことがわかる。特定警戒都道府県の方が1%ポイント程度であるが減少幅は小さい。この数字は、緊急事態宣言が出されたのち、特定警戒都道府県で16%減、それ以外の地域で11.8%減となった。今度は、特定警戒都道府県において減少幅が4.2%ポイント大きくなっている。

図2.離婚届出件数の変化率(%)
出所:厚生労働省『人口動態統計(人口動態調査(速報・月次))』

 ここでみた結婚と離婚の届出件数の変化については、差の差分析を用いるなどの考察を経たわけではない。しかし、緊急事態宣言は人生の大事な決定、あるいは、そのタイミングに影響を与えたように見えるし、政府によって特定警戒都道府県に指定された地域に住むカップルの方が、それ以外の地域のカップルに比べてより影響を受けたように思える。離婚に比べて結婚に関する決定の方が政策の影響を受けやすいともいえそうだ。感染症を防ぐ目的をもった国の政策が、結婚や離婚といった、人生の大事な選択にまで影響を及ぼしているわけだ。思わぬルートで政策は人々の人生に影響を与える。それだけ政策の立案は難しい。
 緊急事態宣言が出された4月以降の6か月間で届出のあった婚姻数はおよそ25万。離婚の届出件数は約10万。未曽有の状況下のカップルが一生懸命に考えて下したそれぞれの選択が、二人にとって最良の選択となることを願う。

(執筆:小川光)

日々是総合政策No.191

結婚と離婚、そして緊急事態宣言(上)

 結婚と離婚。
 数ある決定の中でも、カップルにとって最も重大な決定と言ってよいだろう。COVID-19感染症の広がりは、人生にとって大事なこれらの決定に対しても影響を与えている。
厚生労働省「人口動態調査」によれば、結婚と離婚の届出件数は緊急事態宣言が出た時期に双方とも低下した。多くのカップルが、先の見通せない、まさに緊急事態の発生に結婚と離婚を踏みとどまった(あるいは先延ばしにした)のだ。
 このことをデータで確認してみよう。2020年4月7日に東京都を含む7都府県に対して新型インフルエンザ等特別措置法に基づく緊急事態宣言が行われた。その後、5月25日に宣言が解除されるまで東京を含む13都道府県が「特定警戒都道府県」に指定され、接触8割・出勤7割削減を目標にするなど、特に重点的に感染拡大防止の取り組みを進めていく地域とされてきた。
 そこで、これら13都道府県とそれ以外の地域に分けて、緊急事態宣言が出された2020年4月以降の6か月間の婚姻届出件数が、前年の同期間(2019年4月~9月)に比べて変化した割合を図にしてみた。あわせて、緊急事態宣言の影響を相対的に見るために、緊急事態宣言が出されていない2019年10月から2020年3月までの婚姻の届出件数の変化率を前年同期(2018年10月~2019年3月)と比べて示している。

図 婚姻届出件数の変化率(%)         
出所:厚生労働省『人口動態統計(人口動態調査(速報・月次))』

 これをみると、緊急事態宣言が出される前の半年、すなわち、2019年10月~2020年3月の婚姻件数は、いわゆる「令和婚」の影響もあり、前年同期に比べて特別警戒都道府県で9.5%、それ以外の地域で6.3%増えていた。それが、緊急事態宣言が出されて以降、一気に落ち込んだ。特定警戒都道府県において前年同期比で27.1%減、それ以外の地域でも24.5%減となった。(注)
 いかに多くのカップルが緊急事態宣言の影響を受けたかがわかるだろう。

(注)比較対象にしている2019年は改元の年にあたり、特に2019年5月にいわゆる「令和婚」現象が起きて婚姻届出件数を押し上げた。この点を考慮して、比較対象期間を2018年4月~9月にした場合も、特定警戒都道府県の方において減少幅が2%ポイント程度大きかったという点は変わらない。婚姻届出件数の変化率は、特定警戒都道府県で22.6%減、それ以外の地域で20.7%減少であった。

(執筆:小川光)