日々是総合政策No.185

菅政権のアベノミクスが目指すもの

 「瑞穂の国の資本主義」。この言葉は、安倍晋三前首相が、政権奪還後に出版した『新しい国へ‐美しい国へ 完全版』(文春新書)で触れられる一節です。「自立自助を基本とし、不幸にして誰かが病で倒れれば、村の人たちみんなでこれを助ける。これが日本古来の社会保障であり、日本人のDNAに組み込まれている」と述べ、瑞穂の国にふさわしい資本主義、市場主義の形、経済のあり方を考えていきたいと読者に語りかけています。
 第2次安倍政権発足後、ただちにデフレ脱却を目指し、アベノミクスと呼ばれる経済再生の政策を実行していきます。しかし、そのアベノミクスも2015年には、「一億総活躍社会」という新しい看板を掲げて、変容をしていきます。また、安倍政権では、「政労使」という枠組みを通じて、賃上げに政府が「慎みを持った関与」を行ったこともありました。本来、賃金は労使交渉を通じて、民間で決めることです。ここに政府が関与することは、異例であると言えるでしょう。これは「成長と分配の好循環」を創り出すためのアプローチと、単に片付けられない安倍前首相の「政策観」や「国家観」があったのではないかと推測します。
 安倍前首相が、祖父である岸信介元首相をつなぐもの。これは「憲法改正」だけではなく、実は、社会保障や労働・雇用の政策でも、2つの政権はつながります。
 岸政権では、国民年金法を制定するとともに、国民健康法を改正することで、国民皆保険制度を創設しました。また「最低賃金法」を制定したのも岸政権でした。安倍政権では、全世代型社会保障改革に取り組み、最低賃金の引き上げに取り組んできました。安倍政権のアベノミクスは、成長と分配の2つの側面を併せ持ち、政府が市場経済に積極的に関与していくことを「是」とする「瑞穂の国の経済政策」であったと言えるかもしれません。
 菅義偉首相は、所信表明演説において、自身の社会像を「自助、共助、公助、そして絆」であると述べました。規制改革と社会のデジタル化を政権の一丁目一番地とする政権の姿は、新自由主義的なアプローチの側面が色濃く描かれるようにも思います。
菅政権のアベノミクスは、引き続き、「瑞穂の国」を目指すものなのか、小泉政権時代の「新自由主義」的な政府像を目指していくのか、目が離せません。

引用文献
安倍晋三(2013)『新しい国へ‐美しい国へ 完全版』、文春新書

(執筆:矢尾板俊平)

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