日々是総合政策No.106

民主主義のソーシャルデザイン:自分ゴトの政策変更

 平成から令和へと時代が移り変わった2019年も終わり、2020年を迎えようとしています。新しい年が明けて、実施される大学入試センター試験は、「センター試験」としては最後の試験になります。再来年の2021年からは、「大学入学共通テスト」と名称も変わり、新しい試験の方式も導入される予定でした。しかし、読者の皆さんもご存知の通り、「大学入学共通テスト」への改革の大きな2本柱がいずれも見送りになることが決まりました。
 1本目の柱は、英語科目の「民間資格・試験」の活用。受験生は、大学入試英語成績提供システムを通じて、2回まで、民間の資格や試験の成績を「大学入学共通テスト」で活用できる予定になっていましたが、民間資格・試験の受検機会の公平性等に課題が残り、11月に見送りが決まりました。
 2本目の柱は、国語科目と数学科目の「記述式問題」の導入。これも記述式問題の採点性の問題が指摘され、その課題が残されてしまい、12月に見送りが決まりました。
 大学入試改革は、2014年12月の文部科学省中央教育審議会答申「新しい時代にふさわしい高大接続の実現に向けた高等学校教育、大学教育、大学入学者選抜の一体的改革について」(高大接続答申)を踏まえて、取り組みが進められてきました。「高大接続答申」の背景には、政府の教育再生実行会議の「高等学校教育と大学教育との接続・大学入学者選抜の在り方について(第四次提言)」(2013年)があり、いわば官邸主導の改革と言えます。
 2006年の第1次安倍政権においても、教育基本法の改正や教育再生会議が設置されるなど、教育改革は政権の重要な政策課題に位置付けられてきました。その意味では、教育改革は、安倍政権にとって、第1次政権以来の一貫したテーマであることがわかります。
 高校生にとっては、大学入試の仕組みがどのように変わるのかは、自分の人生にも関わる大きな関心事(自分ゴト)だと思います。受験の仕組みでは、1にも2にも「公平性」の確保が絶対的な条件になるでしょう。高校生の皆さんは、どのような意見をお持ちでしょうか。

(執筆:矢尾板俊平)

日々是総合政策No.96

民主主義のソーシャルデザイン:権力の源泉

 今週(11月20日)に、安倍晋三首相の「通算」の在職日数が2887日となり、これまで憲政史上最長の通算在職日数であった桂太郎氏を抜きました。「通算」の在職日数なので、2006年9月から2007年9月までの第1次安倍政権の在職日数も含めた日数ですが、「憲政史上最長」という記録は、安倍政権の大きなレガシー(遺産)となり得ると言えます。ちなみに、「連続」の在職日数では、安倍首相の大叔父である佐藤栄作氏が持つ2798日が最長で、安倍首相が、この記録を塗り替えるのは、来年の8月24日、東京パラリンピック開会式(8月25日)の前日になります。
 ここで「安倍首相は、なぜ、これだけの長期政権を維持することができているのか」という疑問を検証することは、統治論としても、次代の政治家、後世の政治家にとっても、非常に有意義な示唆を提供することになるでしょう。
 その評価は分かれるところですが、結論から言えば、権力の行使を通じて、永田町と霞が関の両方をうまくガバナンスしてきた、ということに尽きるのではないでしょうか。
 選挙制度が中選挙区制から小選挙区制に移行する中で、永田町における権力の大きな源泉となったものとして、党の「公認権」が挙げられます。もちろん、無所属でも、小選挙区で当選することができる強い候補者もいます。しかし、多くの候補者は、党からの公認を得られず、その支援も無く、さらに言えば、党の公認候補が対抗馬として擁立されてしまえば、小選挙区で当選することは難しくなります。党の「公認」を得るためには、党の方針に逆らうことができません。これにより、「党高閥低」を生み出し、派閥の力を弱めることにつながりました。
 一方、権力の源泉としては、「公認権」は、首相が持つ実質的な「解散権」とセットになることが必要不可欠です。それをセットで初めて使ったのが、小泉純一郎元首相の下での「郵政解散」であったと言えます。
 「いつ解散するかわからない」。安倍首相が憲法改正を政権のレガシーとするのであれば、来年のオリンピック・パラリンピックを待たずに、衆議院を解散し、総選挙に打って出る可能性はゼロではありません。

(執筆:矢尾板俊平)

日々是総合政策No.81

民主主義のソーシャルデザイン:「共助」の仕組みと「小さな」デモクラシー

 「地震、雷、火事、親父」という言葉があります。この中で「親父」は、元々は「大山嵐(おおやまじ)」であったという説があります。(真偽のほどはわかりませんが)。ちなみに、「大山嵐」とは、台風や強風を意味します。このような災害に対し、「自分の身をどのように守るのか」ということを、日頃から意識し、考えておく必要があります。
 キーワードとなるのが「自助・共助・公助」という考え方です。「公助」とは、国や自治体の救難・救助活動、復旧・復興における支援などを想像するとわかりやすいかもしれません。一方、「自助」とは、自分や家族が、自分たちで何ができるのか、ということを考え、行動することと言えるでしょう。
 そして、「共助」とは、地域に住む人々がお互いに助け合いながら、何ができるのかということを考え、行動することと言えます。最近では、「近助」という「共助」で考えるよりも、もっと小さな近所関係において、お互いに、どのように助け合いが可能か、ということも議論されることもあります。こうした「共助」や「近助」の考え方を踏まえた地域での防災や減災、災害発生時の助け合い・支え合い仕組みづくりが、重要な課題になっています。
 その問題の背景には、自治会への加入率の減少や地域における防災活動を担う消防団の団員数の減少などがあります。総務省消防庁の統計によれば、平成以降、全国の消防団員数は100万人を下回り、減少傾向にあるとともに、近年では、その平均年齢も上昇しています。地域に住む人々の近所づきあいや地域への関わり方も変わりつつあります。日頃から顔見知りであり、付き合いを通じて信頼関係が生まれている場合と、そうではない場合とを比較すると、「共助」の仕組みは、前者では機能し、後者では機能しにくいと考えられます。
 まさに「ソーシャルキャピタル」が地域コミュニティの中で、どれだけ醸成されているかということが災害発生時における「共助」に大きな影響を与えると言っても過言ではないでしょう。
 しかし地域には、多様な価値観を持つ人々が住み、それぞれが感じる幸せも異なります。そこで、地域全体として、皆がどのようなコミュニティを形成し、どのように集合的な意思決定を行っていくかという「コミュニティ・マネジメント」が求められます。これが「小さな」民主主義の原点でもあると言えます。

(執筆:矢尾板俊平)

日々是総合政策No.66

民主主義のソーシャルデザイン:どのように決めるのか?

 いま、目の前には9つの椅子が置いてあります。そして、その椅子の前には自分も含めて10人の人が立っています。みんなが椅子に座りたいと思っていますが、1人1脚ずつ座るとすれば、椅子に座れる人は9人ということになります。つまり、10人のうち、1人は座れないことになります。
 このとき、椅子に座れない1人をどのように決めれば良いでしょうか。ここで忘れてはいけないのは、自分が椅子に座れない1人になるかもしれない、ということです。そこで考えるのは、自分が最も「座れなくなる」可能性が高くなる「決め方」を避けたいということでしょう。
 何かを「決める」ためには、まず「決め方」を決める必要があります。それでは、その「決め方」を決めるためには、どうすれば良いでしょうか。「決め方」そのものが決まっていないので、みんなが合意できる(全員一致できる)決め方は何か、ということを考えることになります。「決め方」が決まらなければ、ずっと椅子に座ることはできませんし、早く「決め方」を決めようとするので、少なくとも、自分が一人だけ損をしない「決め方」にはならないようにしようとするのではないでしょうか。
 「じゃんけん」という方法は、公平な決め方でありそうで、運に左右されることもあり、誰もが「座れなくなる」可能性が意外と高いかもしれません。「お金」はどうでしょう。元々、お金をたくさん持っている人は、ぜひ「椅子に支払える金額の高い順で決めよう」と言うかもしれませんが、確実に「座れない」と思った人は反対するでしょう。カリスマ的なリーダーに全てを決めてもらうことは、意外と自分が「座れなくなる」可能性が低いかもしれません。
 「投票」という方法はどうでしょうか。この方法に合意できたとして、次に、もうひとつ決めなければいけないことがあります。それは、単純に票の数が多い人から「座れる」ようにするのか、「座れない人」を決める「投票」を行って、過半数を得た人が「座れなくなる」のか、3分の2や4分の3以上の票を必要とするのか、はたまた3分の1や4分の1の票が集まった人が座れなくなるのか、こうしたルールも決める必要があります。
 民主主義のソーシャルデザインでは、このような「決め方」の仕組みそれ自体を考えていくことも重要なテーマとなります。

(執筆:矢尾板俊平)

日々是総合政策No.53

民主主義のソーシャルデザイン:政権のレガシーづくり

 令和時代最初の国政選挙となった参議院選挙の投票率は、48.80%でした。これは3年前の前回参議院選挙の投票率から5.90ポイントも下回る結果となりました。また、10代(18歳、19歳)の投票率は31.33%でした。(いずれの投票率も総務省「第25回参議院議員通常選挙発表資料」に基づき、記載)。
 48.80%という投票率は、1995年に行われた参議院選挙の投票率(44.52%)に次ぐ、戦後2番目に低い投票率となりました。戦後、参議院選挙の投票率が50%を下回ったのも、1995年の選挙と今回の選挙の2回です。同じ国政選挙である衆議院選挙では、戦後、50%を下回る投票率はなく、最も低い投票率は、2014年12月の衆議院選挙で52.66%です。(いずれの投票率も公益財団法人明るい選挙推進協会の公表データに基づき、記載)。
 今回の参議院選挙で印象的だったのは、「諸派」と位置付けられる「政党要件」を有していない政治団体の躍進です。総務省の資料によると、比例代表選挙区で、れいわ新選組は1,226,413.562票を獲得し、NHKから国民を守る党は841,224票を獲得し、いずれも政党要件を満たしました。
 さて、安倍晋三首相にとっては、国政選挙6連勝となりました。本年11月には、首相の通算在職日数の歴代1位である桂太郎氏を超え、わが国の憲政史上歴代1位の在職日数も確実に視野に入りました。首相には任期はありませんが、自由民主党総裁としては2021年9月に3期9年の任期が満了する予定です。これからの政権運営の課題は、「政権のレガシーづくり」と「レームダック化の回避」であると言えます。「終わり」が見えた政権の求心力は弱まり、政策実行力が落ちていく可能性があります。これが「レームダック化」です。「憲法改正」なのか、日朝問題や日露問題などの「外交成果」なのかはわかりませんが、政権のレガシーを築き上げるためには、レームダック化を避けるばかりか、安倍首相の求心力を高める必要があります。そこで「鍵」となるのは、やはり「選挙」かもしれません。
 亥年の選挙イヤーが、夏の参議院選挙で終わらない可能性は「ゼロ」ではありません。

(執筆:矢尾板俊平)

日々是総合政策 No.40

民主主義のソーシャルデザイン:「#みんなで投票に行こうよ」

 最近では、投票所で「投票済証明書」をもらう方も増えてきました。私もその一人です。SNS(twitter、facebook、Instagramなど)で、投票日当日、投票に行かれた方は、ぜひ、投票済証明書の写真をアップして、「#みんなで投票に行こうよ」とつぶやいてみませんか? みんなが投票に行ったのであれば、自分も行こうとか、行かなきゃとか思う方が少しでも増えて、投票率が高くなればいいなぁと思います。
 こうした「仕掛け」も「ソーシャルデザイン」のひとつです。ゆうこすさん(菅本裕子さん)の「共感SNS」ではないですが、共感が広がっていく仕組みづくりが、特に若年世代の投票率を高めるためにも有効なのではないかと考えています。
 また投票率を高めるための仕掛けとして、「選挙割」というアイディアもあります。これは地元の商店や商店街に協力してもらい、投票に行った人が「投票済証明書」を提示すると、何かサービスをしてもらえる、というアイディアです。投票に行ったら、割引を受けられたり、サービスをしてもらえたりする、だから、「#みんなで投票に行こうよ」、となると、投票率が高まるかもしれません。
 さて、今回の参議院選挙において、「ちばでも」プロジェクトでは、学生の皆さんが自分たちの意見をまとめて、自分たちなりのマニフェストを作成しました。マニフェストの「Manifesto from Yong Voters~若者たちの選択 若者からの10の提言~」です。若い人たちに意見を聴くと、この提言に共感してくれる人も多いです。
 これを、千葉選挙区から立候補している6名の候補者の方にお送りし、自分たちが考えた10の提言に「賛成か反対か」と尋ねました。もっとも答えにくい提言(質問)は、「若者のための政策を実現するために、財源の世代間「見直し」を実施」というものだと思います。
 この提言に対し、どのような回答を頂けるか、楽しみです。ちなみに、もし、回答が無い場合も、それは一つの回答だと思っています。ほとんどの候補者の方は、何らかのSNSをお使いになられています。確かに、選挙期間中の忙しい時期ではありますが、一般の有権者、特に若年世代の有権者の声をどこまで聞いてくれようとするのか、その姿勢を確かめることができると思っています。

(執筆:矢尾板俊平)

日々是総合政策 No.28

民主主義のソーシャルデザイン:ちばでもプロジェクト

 「投票に行く人を増やす」。これも民主主義のソーシャルデザインを考える上で、非常に大切なテーマです。私は、2012年の衆議院選挙のときから、選挙が行われるたびに、私のゼミ学生の皆さんと一緒に「投票に行く人を増やす」ための活動として、「ちばでもプロジェクト」を行っています。「ちばでも」の言葉の意味は、「千葉のデモクラシー(民主主義)」。大学のキャンパスが所在する千葉市で選挙が行われなかった2018年を除き、ほぼ毎年、活動を展開してきました。大学キャンパス内に「期日前投票所」を設置し、学生がその運営にも関わるという活動も行いました。私は、小学校から帰宅して、国会中継を見ながら、答弁の真似をすることが大好きな子どもでした。選挙が近づくたびに「ワクワク」するのは、大人になった今でも変わりません。
 投票率が低い要因は、有権者が候補者や政党のことをなかなか知ることができないからではないか。候補者や政党のことを知ろうとすると、大変だし、面倒だ。だから、有権者は、しっかりと調べて投票に行くよりは、投票に行かない方が良いという選択をしているのではないか。このような仮説に基づき、候補者にアンケートを実施し、WEBで政策比較サイトを作りました。
 選挙期間中、学生が実際の政党マニフェストを読んだ上で、模擬投票をしてもらうということもしています。公職選挙法の関係で、選挙期間中には結果を公表することはできないですが、選挙後に、実際の選挙結果と若者による模擬投票の結果を比較し、世の中全体の意見と自分たちの意見の相違点を考える、というような取り組みもしています。
 これまでの経験から、現在は、社会に対する自分の影響力を知る、何か変えた経験がある、ということが、政治参加や社会参画の促進に対する重要な要素であるという仮説を持ち、様活動をしています。選挙のときに「投票に行こう」と言うだけではなく、日常から身近なことに関わり、何らかの成功体験を積み重ねていくことが、時間はかかるかもしれませんが、これが投票率の向上にもつながっていくのではないかと思い、夏の参議院選挙に向けて、新たな「ちばでも」のデザインを考え始めています。

(執筆:矢尾板俊平)

日々是総合政策 No.19

民主主義のソーシャルデザイン:亥年の選挙イヤー

 年号が平成から令和に変わった2019年は、「亥年の選挙イヤー」とも呼ばれます。統一地方選挙は4年に1度、参議院選挙は3年に1度、行われます。その4年に1度と3年に1度のタイミングが、ちょうど同じ年に重なるのが「亥年」で、12年に1度、同じ年に統一地方選挙と参議院選挙が行われます。
 今回の統一地方選挙は、4月7日と21日が投票日となりました。統一地方選挙前半戦(4月7日投票日)では、道府県知事、道府県議会議員、そして政令市の市長・議会議員選挙が行われました。統一地方選挙後半戦(4月21日投票日)では、その他の市町村の首長や議会議員選挙が行われました。もちろん、選挙が行われなかった地域もあります。その理由は、首長や地方議員の任期は4年ですので、統一地方選挙とは異なる時期に選挙が行われた地域の場合は、選挙の時期が統一地方選挙のタイミングからずれることになります。
 例えば、東京都知事選挙。2011年の東京都知事選挙は、他の道府県知事選挙と同じく統一地方選挙の前半戦で選挙が行われました。しかし、2011年の東京都知事選挙で当選した石原慎太郎氏が翌年に知事を辞職したため、2012年に都知事選挙が実施され、猪瀬直樹氏が当選しました。その猪瀬氏も辞職し、2014年に再び東京都知事選挙が実施され、舛添要一氏が当選しました。舛添氏も辞職し、2016年の東京都知事選挙で、現在の小池百合子知事が誕生します。このように辞職等により、選挙の時期がずれることが往々にしてあります。
 夏には参議院選挙が実施されます。参議院議員の任期は6年ですが、3年毎に選挙が行われます。今回は、2013年の参議院選挙で当選した議員の任期が今年の7月28日に満了するので、選挙となります。2016年の参議院選挙で当選した議員の任期は、3年ほど残っていますので、今回は改選期にはあたりません。
 そして、いま永田町では「解散風」が吹き始めているようです。衆議院と参議院の選挙が同日に行われることを「W選挙」と呼びます。過去にも「W選挙」が行われたことはありますが、現在の選挙制度の下では初めての経験となります。もし「W選挙」が行われたら、1投票所あたり5つの投票箱が必要になります。何が起きるかわからないのが「亥年の選挙イヤー」。「W選挙」となるかどうか見所です。

(執筆:矢尾板俊平)

日々是総合政策 No.6

民主主義のソーシャルデザイン‐ 公職選挙法の改正

 いよいよ「平成」も残り数日となりました。来週から「令和」の時代が始まります。「令和」の時代とは、どのような時代になるのでしょうか。新たな「令和」の時代に、自分が住んでいる地域の「未来」を誰に託すのか、ということを決める平成最後の統一地方選挙が行われました。読者の皆さんが住んでいる「まち」でも選挙が行われていたかもしれません。
 選挙期間中は、駅前など、人が集まる所では、拡声器を使い、候補者が自身の主張を訴え、街中で選挙カーが走り回り、候補者の名前があちらこちらから聞こえてくる、賑やかな日が続いたと思います。そんな喧噪も、過ぎ去ってしまえば、それまで騒がしかった分、少し寂しさに似た感情も湧くことがあるような無いような。
 さて近年、公職選挙法の改正が続いています。2013年の参議院選挙は、インターネットを活用した選挙運動を解禁した初めての選挙、2016年の参議院選挙は、選挙権年齢が「18歳」に引き下げられた初めての選挙でした。今回の統一地方選挙では、候補者が選挙期間中に、「ビラ」を配布することができるようになりました。(国政選挙や知事選等の首長選挙では、すでに認められていました。)。このような公職選挙法の改正は、「公職選挙法の現代化」と言えるかもしれません。
 法律が作られたのは、昭和25年。今から、約70年前のことです。公職選挙法の基本的な理念は、選挙の公正性と候補者間の平等性の確保にあります。その理念を理解するために、ひとつの喩えをしてみたいと思います。候補者間の平等性の確保とは、同じ選挙に、お金を持っている人とお金を持っていない人が、それぞれ立候補したとき、持っているお金の違いで、有利不利を生じさせないようにしよう、選挙活動で「できること」が異ならないようにしよう、ということです。
 お金を持っている人は、大量のビラや看板を作ることができるかもしれませんが、お金を持っていない人は、ビラや看板を大量に作成することができないかもしれません。選挙活動とは、「自分に一票を入れてください」ということを訴える活動ですから、物量の違いは、当然、選挙結果に大きく影響する可能性があります。
 そのため、公職選挙法の規定では、選挙期間中に「できないこと」が多く、選挙とは、「知恵比べ」の様相を帯びています。そこで活躍するのが「選挙プランナー」であり、「選挙デザイナー」です。(こうした仕事の話は、また後日)
 70年前には「できなかった」ことが、現代では、技術進歩の結果、お金をかけることなく、様々なことが「できる」ようになりました。それならば、法律の基本的な理念を守りながら、「できること」の範囲を広げようという流れにより、近年の公職選挙法の改正につながってきている、すなわち、法律の現代化がなされてきていると言えるのです。今後は、「電子投票」、すなわち、自宅でインターネットを通じて投票する、ということなどもできるようになるかもしれません。

(執筆:矢尾板俊平)