日々是総合政策No.176

菅政権の「改革」のエンジンは?

 「人生には、3つの坂がある。上り坂、下り坂、そして「まさか」という坂だ」。これは、小泉純一郎元首相の言葉だったと思います。
 憲政史上最長の通算在職日数、そして連続在職日数を更新した安倍晋三前首相が、その記録を達成した週末に退任を表明し、9月16日に、長期政権の幕を閉じることになりました。
「まさか」、新型コロナウイルス感染症という新たな感染症が発生するとは。「まさか」、東京オリンピック・パラリンピックが1年程度の延期になるとは。2020年は、「まさか」「まさか」の連続となりました。
 元々、安倍首相の意中の後継者と擬されていたのは、岸田文雄前政調会長でした。岸田氏にとっては、「まさか」の総裁選の構図となりました。石破茂氏にとっては、地方票で存在感を見せることが、今回の総裁選のミッションであったはずです。「永田町の論理では「菅氏」だが、党員の声は「石破氏」」という構図を作り、来年の総裁選につなげる戦略ですが、石破氏にとっても「まさか」の票数となり、「ポスト菅」を狙う戦略を見直さざるを得ません。
 安倍前首相の退陣表明後、内閣支持率が上昇したことも興味深い現象です。安倍前首相は66歳。体調が回復すれば、まだまだ政権を担当することができる年齢です。ポスト菅は、「まさか」の安倍前首相の「再登板」(という可能性もゼロではありません)。
 菅義偉首相は、経済政策の重心を、規制改革やデジタル化の推進といったミクロ経済政策に移行させていくようです。身近なところであれば、携帯電話の料金の値下げなども進められる見通しです。こうした政権の主要政策について、省庁横断的な推進役となるのは河野太郎行革・規制改革担当相です。河野大臣には、小泉改革時の竹中平蔵氏のような役割を期待されるのではないかと思います。
 ポスト菅の候補たちが、「まさか」の坂にある中、河野大臣にとっては、「ポスト菅」の最終試験が課されたとも言えるかもしれません。中曽根康弘元首相も、首相に就任する直前のポストは、鈴木善幸内閣の看板政策であった「行革」を担当する「行政管理庁長官」でした。
 課題は、改革のエンジンとなる機能をどのように設定するかです。小泉改革では経済財政諮問会議がその役割を担いました。菅改革のエンジンは「どこ」になるのか。これが改革の成否を占う最初の見極めどころです。

(執筆:矢尾板俊平)

日々是総合政策No.168

新型コロナウイルス感染症対策への提言ノート(2) 

 今年に入り、新型コロナウイルス感染症のことを初めて耳にしたときに思い出したことは、2007年に、米国フロリダ州オーランドで行われた”Business Preparedness for Pandemic Influenza”という国際会議のことでした。この国際会議は、ミネソタ大学のCenter for Infectious Diseace Research and Policy(cidrap)が主催した会議で、新型インフルエンザの脅威に対して、どのように「備えるべきか」という論点について、基調講演が行われたり、有識者が意見を交わしたりするというものでした。私自身は、日本から参加した一聴衆でしたが、SARS(Severe Acute Respiratory Syndrome)を経験した次なるパンデミックにどのような準備をするべきかという世界の経験を直に学ぶ貴重な時間となりました。
 この会議に出席し、また今般の新型コロナウイルス感染症の流行で再認識したのは、「公衆衛生政策」は国家政策の基本であるということです。総合政策論や公共政策論の中で、公衆衛生に関する保健政策の分野にもっと注目をすべきであると感じました。大袈裟な言い方かもしれませんが、公衆衛生政策を国家や自治体の政策の基本として考えるべきではないかと痛感しました。それだけ、私たちの世界は新たなウイルスの脅威には「脆い」と言えるのではないでしょうか。また公衆衛生政策を実施する上では、施政者に時に強い権限を付託する必要があります。この点で、有権者と為政者との間での「社会契約」は重要な意味を持ちます。
 ここで私が強く疑問を感じたのは、7月の東京都知事選挙でした。あのタイミングで都知事選挙を行うことは”必然”であったのでしょうか。
 2011年の統一地方選挙では、東北地方での地方選挙は延期され、岩手県知事選挙は、東日本大震災から6か月後の9月11日が投票日となりました。これは特例法によって選挙の延期を可能にしたのです。
 ということであれば、今回の都知事選挙も少なくとも半年間は延期ができたのではないかと思うのです。選挙を延期し、都知事には、新型コロナウイルス感染症対策に集中していただく、そして感染症の状況が落ち着いた後、選挙を実施すれば、有権者は選挙を通じて、感染症対策の結果も含めて現職知事を評価し、判断ができたのではないかと思います。しかし現実は、7月に選挙が行われたことで、結果が見えない中で、新たな任期の「チケット」を現職知事に与えることになりました。次の評価の機会は4年後です。ここに私自身は幾ばくかの疑問があるのです。

(執筆:矢尾板俊平)

日々是総合政策No.158

新型コロナウイルス感染症対策への提言ノート(1) 

 7月の4連休初日に、新型コロナウイルス感染症の東京都における新規患者報告数は300件を超え、366件となりました。この4連休は、元々は、東京2020五輪大会の開会式(7月24日)とその前日を休日(海の日)とした「オリンピック連休」でした。東京オリンピック・パラリンピックの延期が決まり、その後、政府は「Go To トラベルキャンペーン」を、この連休に合わせて実施することになりましたが、新型コロナウイルス感染症の流行拡大に伴い、「Go To トラベルキャンペーン」は、東京都を除く形で始まりました。しかし、この連休の局面は、不要不急の外出の自粛、都道府県をまたぐ移動の自粛を要請が必要となる状況に転じました。

出所:東京都『都内の最新感染動向』に基づき、筆者作成

 上のグラフは、東京都が公表する都内の感染状況(新規患者に関する報告件数)について、1月24日以降、7月23日現在までの毎日の新規患者報告数と累計数をまとめたものです。
 3月の3連休以降の最初の「山」に続き、6月下旬から第二の「山」となっていることは明らかです。この「山」は、最初の「山」よりも高い山になるかもしれません。
私だったら、このタイミングで、この連休中に緊急事態宣言を発出すると思います。医療体制を維持しなければなりませんし、新型コロナウイルス感染症以外の患者さんにとっての医療体制も守る必要があります。
 いま、国や自治体は、新型インフルエンザ等対策特別措置法に基づき、感染症対策に取り組んでいます。新型インフルエンザ等対策特別措置法や政府の行動計画において、今回、「想定外」であったことは、ワクチンや抗新型コロナウイルス治療薬が存在しないということです。そのため、新型インフルエンザ等対策特別措置法ではなく、新たに新型コロナウイルス感染症対策特別措置法を立法化し、今般の感染症の特徴に応じた対策や行動計画を新たに定める必要があると考えています。
 また、東京都は1兆円近くあった貯金(財政調整基金)のほとんどを、今般のコロナ対策に使い、残額が807億円となるなど、いわば財政的にも「体力勝負」の様相です。財政に対するケアも必要です。
 そもそも、コロナ禍の中で、東京都知事選挙を任期満了に伴い実施したことは、正しかったのでしょうか。
 このコラムを通じて、これらの論点について考えていきたいと思います。

(注1)東京都『都内の最新感染動向』「新規患者に関する報告件数の推移」(2020年7月23日現在)
https://stopcovid19.metro.tokyo.lg.jp/
(注2)東京都『都財政に関する有識者との意見交換会』「資料1 都財政の状況(事務局資料)」(アクセス日:2020年7月23日)
https://www.zaimu.metro.tokyo.lg.jp/syukei1/zaisei/02tozaisei.pdf

(執筆:矢尾板俊平)

日々是総合政策No.152

コロナ後の世界 (3) 「リモートワーク」が変えること

 私たちは、新型コロナウイルス感染症のワクチンや治療薬が開発され、そのワクチンや治療薬が十分な供給体制が構築されるまでは、新型コロナウイルスを意識し、感染のリスクを常に想定しながら、社会経済活動の在り方を組み立てていくしかありません。
 政府による緊急事態宣言の発出後、在宅での「リモートワーク」を導入した職場が増えました。「リモートワーク」は、新型コロナウイルスのリスクを想定する生活においては、益々、普及を目指していくべき取り組みでしょう。そのためには、零細・中小企業でのICT投資の拡大が必要となります。また、個々の家庭のICT環境の整備も欠かせません。この点は、政府の経済対策としても重点的に取り組むべき項目と言えます。
 これまでの日本社会では「ハンコ」が重要な役割を果たしてきました。契約時、社内での決裁時など、印鑑を必要とする書類が多くあります。ICT技術を活用した「リモートワーク」になると、回覧される書類も契約書類も紙ではなく、電子ファイルになることも多くなるため、「ハンコ」を押すということも少なくなるかもしれません。これは日本文化の大きな変容と言えるかもしれません。
 「リモートワーク」の普及は、「就業規則」を見直す機会になるかもしれません。今後、新型コロナウイルス感染症の再流行等により学校の休校、幼稚園や保育園が休園となったとします。核家族で共働きの世帯では、やはり子どもたちの対応をすることは難しくなります。そこで、曜日ごとに、「今日は父親が子どもの対応をする日なので、昼間に仕事をするのではなく、母親の仕事が終わる夕方以降に、仕事をすることができる」、「今日は母親が子どもの対応をする日なので、父親の仕事が終わる夕方以降に、仕事をすることができる」というような家庭内分担を可能にすることが必要です。
 このような裁量的労働時間設定を、「就業規則」や「雇用契約」で認めことで、柔軟に就業時間を設定することができるようになれば、「ワークライフバランス」の推進も大きく前進することでしょう。そして、このことは、「移動」という概念からの解放に加え、「固定的な就業時間」という概念からも解放されることを意味し、実は、地方創生を大きく推進することにも貢献します。

(執筆:矢尾板俊平)

日々是総合政策No.148

コロナ後の世界(2) 「移動」からの解放

 新型コロナウイルス感染症の拡大の影響は、私たちの「働き方」にも大きな影響を与えました。そのひとつが「リモートワーク」や「テレワーク」です。ICT(Information and Communication Technology:情報通信技術)を活用することで、特定の「場所」に行かなくても、物理的な制約を受けずに、協働作業ができる可能性を認識することができました。もちろん、これまでと違った不便さもあったと思いますし、「課題」が無いかといえば、もちろん多くの課題はあります。
 「会議」は、そのひとつでしょう。何かを話し合うとき、何かを決めるとき、皆が同じ場に集い、顔を見合わせながら、議論を尽くす。しかし、ICTを活用すれば、同じ場所に集まらなくても、顔を合わせて、議論することができることを体験し、この2か月の間で、少しずつ慣れ、それも日常生活のひとつの「当たり前」になっていく感触があります。会議のときに、資料を印刷しなければ、お弁当を用意しなければ、お茶を用意しなければ、と気になりますが、オンライン会議であれば、全て自前で準備ですので、気が楽です。
 今年の流行語になるかどうかはわかりませんが、「Zoom飲み会」という言葉も耳にしました。家にいながらにして、食べ物や飲み物を自分で用意して、オンラインで友人や知人と楽しく交流することができる。あたかも、目の前に、友人や知人がいるような感覚で楽しめる。問題は、お店なら「ラストオーダー」があったり、「終電」があったりして、終了時刻を気にしますが、「オンライン飲み会」は、「ラストオーダー」も無ければ、家にいるので「終電」を気にする必要は無く、ついつい、長時間になってしまう、ということのようです。
 ICTは、私たちを「移動」の概念からの解放に導いてくれるかもしれません。「移動」は「時間」を伴います。私たちは、そうした「機会費用」を少なからず支払ってきました。ICTにより、その「時間」を節約することができれば、その時間を別のことのために使うことができるようになります。ある人は家族との時間のために、ある人は自分の趣味や勉強のために使うかもしれません。今回の経験は、人々のライフスタイルを大きく変容させる「希望」を感じさせてくれたとも言えます。

(執筆:矢尾板俊平)

日々是総合政策No.140

コロナ後の世界 (1)パンドラの箱に残されたもの

 この瞬間において、医療の現場で医療活動に当たられている全ての医療関係者の皆様に、心から敬意と感謝を申し上げたいと思います。

 ギリシャ神話の「パンドラの箱」のお話を聞いたことがあると思います。
 ある日、パンドラは好奇心を抑えきれず、全知全能の神ゼウスがパンドラに持たせた箱の蓋を、ついに開けてしまいます。すると、その箱からは、あらゆる災いが地上に飛び出していきます。しかし、その箱にはひとつだけ残ったものがありました。それは「希望」だったのです。
 私たち人類は、これまでに多くの感染症による危機に直面してきました。ペストは歴史上、何度も世界的な流行(パンデミック)が発生しています。「ハーメルンの笛吹き男」の伝承には、いくつかの仮説がありますが、その仮説のひとつに、ペストに関わる仮説があると聞いたことがあります。確かに、ハーメルンの町に現れた笛吹き男が退治したのはネズミでした。
 20世紀、第一次世界大戦中の1918年から1919年には「スペインかぜ」のパンデミックが発生しました。インフルエンザでは、「アジアかぜ」、「香港かぜ」、そして約10年前に「新型インフルエンザ」のパンデミックも発生しています。
 そして、いま私たち人類は新たな感染症のパンデミックに直面しています。新型コロナウイルス(COVID-19)です。欧米では、「医療体制崩壊」が現実となり、「ロックダウン(都市封鎖)」の措置が執られています。わが国においても、4月7日に、政府が「緊急事態宣言」を発出し、16日には、対象地域を全国に拡大させました。
 各都道府県においても、「改正新型インフルエンザ等対策特別措置法」に基づく「緊急事態措置」による外出自粛の要請、休業要請等が実施され、社会的・経済的な活動が大きく制限されています。この数週間でも、リモートワークやオンライン授業の導入をはじめ、私たちのライフスタイルは変わりつつあります。コロナ後の世界では、人々の価値観も大きく変容するかもしれません。
 いま、私たちが語るべきことは、コロナ後の「希望」かもしれません。少しの間、パンドラの箱に残ったその「希望」について語ってみようと思います。

(執筆:矢尾板俊平)

日々是総合政策No.133

民主主義のソーシャルデザイン:危機時のリーダーシップ

 東日本大震災から9年が経過した。今年も「3.11」を迎える5日前に、東京電力福島原子力発電所事故を題材とした映画「Fukushima 50」が公開された。門田隆将氏のノンフィクション書籍『死の淵を見た男 吉田昌郎と福島第一原発』(PHP研究所刊、文庫本は角川文庫)ノンフィクション書籍を原作とし、映画化された作品である。鑑賞中、私は3度、涙が溢れてきた。多くのことを考えさせ、胸の中に込み上げてくる映画であった。
 物語にはもちろん「総理大臣」も登場する。このモデルは、当時の菅直人首相であることは疑いようのない事実だ。そして、菅首相が3月12日の早朝に福島第一原発を視察したことも、3月15日の早朝に東京電力本店を訪れたことも歴史に記録される事実である。
 現代政治史において、これまでも何人かのリーダーが国家的な緊急事態に直面してきた。阪神・淡路大震災の発生時、当時の村山富市首相は、小里貞利氏を震災対策担当大臣に任命し、現場での指揮・判断を任せたと言われている。菅元首相は自ら福島原発に出掛けた。危機状況において、国のリーダーはどのように行動すべきなのであろうか。これは、現在の新型コロナウイルス感染症の拡大に対応する安倍晋三首相も、「歴史の法廷」で評価されることになる。
 米国のドナルド・トランプ大統領は、新型コロナウイルス感染症に対峙する自身を「戦時の大統領」と呼んだ。米国内の各州では「非常事態宣言」が出され、カリフォルニア州では「外出禁止令」が出された。欧州では、イタリア、スペイン、フランス、ドイツで「オーバーシュート(爆発的患者急増)」が起きている状態であり、外出や移動の禁止、生活必需品以外の店舗を閉鎖するなどの「ロックダウン」の措置が採られ始めている。
 日本国内を見てみると、3月19日に北海道知事は緊急事態宣言を終了させた。一方、大阪府知事は、3月20日からの3連休において、大阪府と兵庫県との往来の自粛を呼びかけた。都市部での感染拡大を抑制することができるのか、もしくはオーバーシュートが起きるのか、予断が許さない状況が続いている。まさに、首相のリーダーシップが問われている。
 危機時にどれだけの権限をリーダーに移譲するのか、これも民主主義の大きな論点である。

(執筆:矢尾板俊平)

日々是総合政策No.128

民主主義のソーシャルデザイン:リスクとクライシスのマネジメント(2)

 もうひとつの言葉、「クライシスマネジメント(危機管理)」についても考えてみましょう。リスクマネジメントが損害が発生する前までの「予防」的な活動であるのに対し、クライシスマネジメントとは、損害が発生した後に行われる「発生した”損害(ダメージ)”をいかに拡大させないか、または、その影響を小さいものとするか」という活動であると言えます。
 例えば、企業が何らかの不祥事を起こしてしまったとします。起きてしまった不祥事は、タイムマシーンが無い限り、不祥事が起きる前に戻って、それを食い止めるということはできません。できることは、その不祥事によって生じる企業の損害(ダメージ)を最小化し、できるだけ早く、その損害(ダメージ)から回復することです。
 これは企業の不祥事に限らず、災害や感染症などによる「危機(クライシス)」に対しても同じことが言えます。クライシスマネジメントにおいて最も重要な活動は「コミュニケーション活動」です。災害や感染症などの「危機」においては、多くの根拠のないデマ(今風に言えば「フェイクニュース」でしょうか)が飛び交い、時に人々の間でパニックが生じます。パニックが増大していけば、その「危機」はさらに拡大し、それによる損害も大きくなり、または新たな「危機」が生じることさえあるかもしれません。
 このような「パニック」を避けるためには、人々が信頼たり得ると考える機関が、人々が冷静に行動することができる「正確な情報」を、適切な「タイミング」で提供することです。例えば、政府であっても「未確認情報」を無暗に提供してしまえば、それにより、混乱やパニックが起きることがあり得ます。
 さらに「コミュニケーション活動」に加え、適切な「意思決定活動」が行われることがクライシスマネジメントの条件となります。適切な「意思決定活動」とは、意思決定される内容それ自体だけではなく、意思決定の「ライン(系統)」が守られることが大切です。「危機時」だからといって、意思決定の「ライン」が崩れることは、組織の崩壊につながりますし、それにより、混乱が増幅する要因となり得ます。
 「船頭多くして船山に登る」ことにならないようにしなければなりません。

(執筆:矢尾板俊平)

日々是総合政策No.126

民主主義のソーシャルデザイン:リスクとクライシスのマネジメント(1)

 2020年2月20日時点での厚生労働省の発表によると、日本国内における新型コロナウイルス感染症の患者さん(有症状者)は70名(うちチャーター便で帰国された方が10名)となっています。これまでも世界ではSARSやMERSなどの感染症に対応してきた経験があります。約10年前には、鳥インフルエンザの脅威もありました。ここで、リスクマネジメントや危機管理(クライシスマネジメント)について考えておくことにしましょう。
 まず、「リスク」とはどのように考えれば良いのでしょうか。
 自転車に乗った時に歩行者とぶつかってしまったというケースを想像してみてください。相手も自分も怪我をしたり、自分の自転車が壊れたりと、いろいろな損害が発生すると思います。こうした損害を発生させないようにするためには、どうすれば良いでしょうか。答えはシンプルで、事故を発生させなければ良いということになります。ただ不可抗力的な事故もありますから、完全に事故を発生させないというのは困難です。そこで、自転車に乗っている人も、歩行者も、できるだけ「事故が発生させないようにする」、つまり「事故の発生率」を小さくするように安全運転をしたり、注意しながら歩いたりすることでしょう。つまり、リスクとは「事故が起きたときの損害の大きさ」に「事故の発生確率」を掛け合わせた「実際に起こり得る損害の大きさ」であると言えます。リスク管理で行うことは、「事故の発生確率」をできるだけ小さくすることであると言えます。
 人為的な事故や事件、さらには戦争や紛争などは、発生確率を小さくするというリスク管理を行うことは可能です。しかし、今回の感染症や災害など、どうしても人為的にコントロールすることができないリスクや予見が困難なリスクもあります。この「予見可能性」は損害賠償責任の有無の判定に大きな影響を与えます。つまり、「予見できていたのに損害発生を避けるための努力をしていなかった」のか、「そもそも予見できていなかった」のかということは、同じ「損害発生」を避けられなかった状態であっても意味が違うのです。

(執筆:矢尾板俊平)

日々是総合政策No.117

民主主義のソーシャルデザイン:米国大統領選挙2020

 2020年になりました。東京オリンピック・パラリンピックがいよいよ開催されますが、オリンピックイヤーにおいて、世界中が注目する大イベントがもう一つあります。それが米国大統領選挙です。
 米国の大統領選挙は、共和党・民主党の両党で「大統領候補」と「副大統領候補」を指名する予備選から始まります。各党の「大統領候補」になった候補者が、11月の第1火曜日が選挙日となる本選挙を争います。前回(2016年)の大統領選挙では、共和党が指名したトランプ氏と民主党が指名したヒラリー・クリントン氏の間で争われました。前々回(2012年)の大統領選挙は、民主党は当時の現職大統領であるオバマ氏、共和党はロムニー氏でした。
 今回、民主党の大統領候補指名レースでは、前副大統領のジョー・バイデン氏、上院議員のエリザベス・ウォーレン氏、同じく上院議員のバーニー・サンダース氏、インディアナ州前サウスベンド市長のピート・ブティジェッジ氏、実業家のアンドリュー・ヤン氏などが名乗りを上げ、そこに前ニューヨーク市長のマイケル・ブルームバーグ氏も参戦し、混沌のレースの様相ですました。バイデン氏、ウォーレン氏、ウォーレン氏、ブルームバーグ氏は70歳を超えており、ブティジェッジ氏とヤン氏はそれぞれ30代、40代と「若さ」が「売り」になります。一方、ブティジェッジ氏とヤン氏には国政の経験はありません。
 2月初旬にアイオワ州で行われる党員集会から、3月のスーパーチューズデー、そして7月(民主党)、8月(共和党)の党大会を経て、11月3日の大統領選挙へと、候補者にとっては長距離マラソンが始まります。その中で、「失言」や「スキャンダル」等で大統領として適格ではないと有権者に判断されれば、否が応でもレースから撤退せざるを得ません。つまり、「民主主義のリーダー」に育てていくプロセスでもあると言えます。
 オバマ氏もトランプ氏も選挙前は「本命」候補ではありませんでした。この1年で、どのようなリーダーが舞台に登場するのか、楽しみです。

(執筆:矢尾板俊平)