菅政権の「改革」のエンジンは?
「人生には、3つの坂がある。上り坂、下り坂、そして「まさか」という坂だ」。これは、小泉純一郎元首相の言葉だったと思います。
憲政史上最長の通算在職日数、そして連続在職日数を更新した安倍晋三前首相が、その記録を達成した週末に退任を表明し、9月16日に、長期政権の幕を閉じることになりました。
「まさか」、新型コロナウイルス感染症という新たな感染症が発生するとは。「まさか」、東京オリンピック・パラリンピックが1年程度の延期になるとは。2020年は、「まさか」「まさか」の連続となりました。
元々、安倍首相の意中の後継者と擬されていたのは、岸田文雄前政調会長でした。岸田氏にとっては、「まさか」の総裁選の構図となりました。石破茂氏にとっては、地方票で存在感を見せることが、今回の総裁選のミッションであったはずです。「永田町の論理では「菅氏」だが、党員の声は「石破氏」」という構図を作り、来年の総裁選につなげる戦略ですが、石破氏にとっても「まさか」の票数となり、「ポスト菅」を狙う戦略を見直さざるを得ません。
安倍前首相の退陣表明後、内閣支持率が上昇したことも興味深い現象です。安倍前首相は66歳。体調が回復すれば、まだまだ政権を担当することができる年齢です。ポスト菅は、「まさか」の安倍前首相の「再登板」(という可能性もゼロではありません)。
菅義偉首相は、経済政策の重心を、規制改革やデジタル化の推進といったミクロ経済政策に移行させていくようです。身近なところであれば、携帯電話の料金の値下げなども進められる見通しです。こうした政権の主要政策について、省庁横断的な推進役となるのは河野太郎行革・規制改革担当相です。河野大臣には、小泉改革時の竹中平蔵氏のような役割を期待されるのではないかと思います。
ポスト菅の候補たちが、「まさか」の坂にある中、河野大臣にとっては、「ポスト菅」の最終試験が課されたとも言えるかもしれません。中曽根康弘元首相も、首相に就任する直前のポストは、鈴木善幸内閣の看板政策であった「行革」を担当する「行政管理庁長官」でした。
課題は、改革のエンジンとなる機能をどのように設定するかです。小泉改革では経済財政諮問会議がその役割を担いました。菅改革のエンジンは「どこ」になるのか。これが改革の成否を占う最初の見極めどころです。
(執筆:矢尾板俊平)