日々是総合政策No.137

感染性疾患の医療経済学(上)

 医療の分類方法の一つとして、「非感染性疾患」、「感染性疾患」があげられます。前者は、主に悪性新生物、心臓疾患、脳血管疾患等の生活習慣関連病を指しており、感染の影響が無いとされます。後者は、インフルエンザ、肝炎、結核等を指しており、予防接種や早期治療により発症・感染予防が可能とされます。
一方、新型コロナウイルスは、現在(2020年4月11日)では予防や治療方法が確立されていないため、人への感染から地域や国、あるいは他国へも感染が拡大しています。今回は、感染性疾患の問題を取り上げて整理します。
 論点を分かりやすくするために、A、Bの2人の個人(労働者)を例に考えます。Aの所得をIa、BのそれをIbとして、IaとIbは労働時間により変動すると仮定します。以下では、(1)感染拡大の回避が可能なケース(インフルエンザ)、(2)感染拡大の回避が困難なケース(新型コロナウイルス)に分けて考えます。
 (1)について、Aが予防接種を受けずに罹患した場合、Iaの低下につながりますが、Bがこれを受けて感染しなかった際には、Ibは(少なくとも短期的には)不変です。両者が予防接種を受けずに罹患・重症化した場合には、IaとIbの減少により社会全体の所得が低下することにもなりえます。両者の健康と稼得機会を維持する上で、予防接種や早期治療等の予防医療が重要になります(注1)。
 (2)のケースでは、現在はこうした対応が不可能とされ、Aが感染した際のBの予防方法が限られ、IaとIbの減少につながる可能性が高くなります。こうした状態が長期化した場合には、消費の減少に伴う経済全体の停滞が懸念されます。
 感染拡大の主な予防策として、①手洗い・うがいの励行、②外出の自粛、③密閉空間・密集場所・密接場面の回避があげられますが、②と③が長期化した場合にも経済に悪影響が及びます。日本を含め、多くの国がこうした状態になりつつある(あるいは、そのようになっている)とも言われます。
 次回は、いくつかの対策(提案)の中でも、遠隔診療を中心に検討します。

(注1)これは一般に「外部経済」として議論されます。厳密には、予防接種等の費用と副作用、他者(他集団)への感染抑制効果を考慮する必要があります。

(執筆:安部雅仁)

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。

CAPTCHA