新型コロナと国の政策(5)
ピケティは自身の著書『21世紀の資本』において興味深いことを書いております。その内容は、世界的に累進的な資本課税を行う、高所得者ほど多くの税金を納めるという政策です。ピケティは世界的な資本課税という形で、どの国でも高額所得者に対して重い税負担をさせれば、海外に金融資産は逃げなくなるということを提案しています(注1)。世界的に感染症が蔓延している状況では、国際的な協調により高所得高負担を求めると同時に、低所得者に対する医療サービスの充実が非常に重要であると言えます。
日本でも収入が大幅に減少、あるいは低所得である家計や企業に対して、様々な経済的支援を行っています。結果として、緊急時に備えた財政調整基金を取り崩す自治体も増えてきました。42都道府県が新型コロナ対策の事業費に充てるため、2020年度補正予算で計1兆823億円の基金を取り崩すと言う調査結果もあります(注2)。東京都でも新型コロナ対策のため、財政調整基金の95%近くも取り崩しました(注3)。景気の悪化で大幅な増税が行えないことを踏まえると、都市部でも財源不足の問題は深刻となりそうです。病院施設の拡充や医療従事者に対する保障を行うべく、新たな財源の捻出が必要となってきました。
森信[2020]は所得税の累進性や資産課税を強化するだけでなく、炭素税の増税やITデジタル企業への課税を提案しています(注4)。所得や資産格差の是正と同時に、環境対策や産業構造の変化も踏まえた租税政策を求める意見も増えてきました。今後は所得、消費、資産以外の新たな課税ベースを見つけ出さなければなりません。世界各国は国際協調を通じた公平性の確保、さらには歳入面での創意工夫が求められています。
(執筆:田代昌孝)
(注1)Piketty,T.[2013]Le capital in the Twenty-First Century(山形浩生・守岡 桜・森本正史訳[2014]『トマ・ピケティ21世紀の資本』みすず書房)を参照した。
(注2)「自治体基金の1兆円取り崩し、コロナ対策で42都道府県」、下記のURL(最終アクセス2020年7月12日)を参照。
https://www.sankeibiz.jp/macro/news/200706/mca2007060500005-n1.htm
(注3)「東京都「財政調整基金」95%近く取り崩し、下記のURL(最終アクセス2020年7月12日)を参照。
https://www.nhk.or.jp/politics/articles/lastweek/37024.html
(注4)森信茂樹[2020]「ポストコロナの税制議論、3つのポイント─連載コラム「税の交差点」第78回」、下記のURL(最終アクセス2020年7月12日)を参照。
https://www.tkfd.or.jp/research/detail.php?id=3474&utm_source=mailmaga_20200709&utm_medium