日々是総合政策No.93

産業構造2

 こんにちは、ふたたび池上です。第7回は、経済発展に伴い経済の中心が農業から工業にシフトする、工業が経済発展を牽引するルイス・モデルのお話でした。今回は、それでも、農業も重要です、というお話です。
 ルイス・モデルは、外国との輸出入のない閉鎖(鎖国)経済のモデルなので、工業の発展に伴い、労働者が農業から工業に移動すると、農業生産が縮小、食料が不足するという状態が続きます。その状態は、農業の労働者の数が減少し、農業が労働者を引き止めるために、工業の賃金と同じ額の賃金をオファーし始めるまで続きます。
 皆さんの中には、そもそも、なぜ、農業は、労働者を引き止めるようために、そのような賃金を経済発展の最初からオファーしないのかと思うかも知れません。その理由は、ルイス・モデルが、農業は、市場の原理で賃金が決まるのではなく、伝統的な村社会の原理で賃金が決まり、かつ、伝統的に続いてきた、かつての収穫量をかつての労働者の数で分け合った額に等しい、伝統的な賃金で動かないと仮定しているからです。
 さて、なぜ、工業だけでなく農業も重要なのかですが、農業が発展すると、上記の食料不足状態の期間が短く、もしくは、なくなるからです。農業が発展すると、経済発展の初期に、食料が不足し始める時期が遅く(後回しに)なります。また、農業が発展すると、経済発展の後期に、農業が労働者を引き止めるために、工業の賃金と同じ額の賃金をオファーし始める時期が早まります。これら2つの時期にはさまれた、経済発展の中期に食料が不足する期間が短く、もしくは、なくなるのです。
 この結果は、経済発展につれて経済の中心が農業から工業に移動する、経済発展が工業発展に牽引されるからといって、農業発展をおろそかにしてはいけないことを示しています。ルイス・モデルでは、経済は農業と工業の2部門でしたが、現実の途上国の経済には、工業という言葉から推測できる大きな工場における安定した職ではなく、個人レベルのとても小規模で不安定な職に従事する労働者がたくさんいます。次回はこのお話の予定です。

(執筆:池上宗信)

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