スウェーデンのSKVの活動(4)
No.236では勤労者(=以下、被用者と記す)を想定して、スウェーデンの申告納税の仕組みを説明しました。SKVが申告書に記載した納税額等に異論がなければ、サインのみで申告が終了します。これは「簡単申告」と呼ばれています。
今回はその実際を紹介します(注)。2012年の被用者の場合,全申告者613万人のうち438万人(71%)がサインのみで申告し、残り175万人(29%)がSKVの記載情報を修正しました。他方、自営業等の小規模事業者は全申告者135万人のうち、サインのみが17万人(13%)、修正者が118万人(87%)でした。
ちなみに、次の表は、SKVが行った申告制度に関するアンケートの結果を示します。
表 「申告は簡単と思うか?」2012年(%)
民間被用者の73%がほぼ簡単と思っているのに対し、自営業者等は37%に過ぎません。
以上の理由の一つとして、小規模事業者の申告が第三者の所得情報に基づいていないことが考えられます。被用者の場合、雇い主(会社)から被用者とSKVに給与の情報が知らされます。被用者とSKVが、ともに雇い主という第三者からの情報を確認することにより申告がなされます。
ところが自営業等では、業者自身が自己の所得支払者で、しかも受取者であるため、自営業者がSKVに自分の所得を知らせるだけです。
しかし、自営業者にとって所得は課税対象ですから、所得を過少に申告する誘因が存在します。事業収入を過少に、費用を過大に申告する誘因です。たとえば米の自家消費分の事業収入不算入があげられます。他方、SKVは所得の正確な捕捉を目指し、事業収入や費用に関する情報を自営業者に求めます。よって、自営業者の「簡単申告」の実施は困難となります。
残念ながら、納税者番号制度は以上の点を克服できません。小規模事業者の取引・消費行動を十分に捕捉できないからです。ただ、同制度による資産所得等の捕捉により、小規模事業者の経済力を推測することには寄与できるでしょう。
注
以下、馬場 義久[2021]『スウェーデンの租税政策』、早大出版部、253-255
頁より抽出。一部説明を追加した。
(執筆:馬場 義久)