日々是総合政策No.157

新型コロナウィルス感染拡大世界一の米国の真の病理(上)
―基底にある医療保障制度の不備と経済格差の深刻さ―

 先進国の中で米国ほど、新型コロナウィルスの感染拡大によって、その社会体制の構造的欠陥を白日の下にさらしている国はない。ジョンズ・ホプキンス大学の集計によると、7月7日現在世界の感染者数1162.6万人のうち、米国は293.9万人で25%を占め、世界一感染が拡大している国である。その一番の原因は、トランプ政権がウィルス検査体制を整えず、感染症対策に消極的で、対策を打っても後手に回ってしまったことにある。しかし、それだけではない。根底に、米国には医療保障制度の不備と1970年代から続く経済格差の拡大という2つの構造的問題がある。
 他の先進国のような国民皆医療保険制度のない米国では、民間医療保険が中心で、公的医療保険制度として65歳以上高齢者向けメディケアと低所得者向けメディケイドしかない。オバマ政権の時に国民に民間医療保険への加入を義務付けたが、トランプ政権がその義務を撤廃したために、医療保険に加入していない無保険者が約2900万人もいる。この多くは、貧しく民間医療保険に入れないでいる。
 会社の提供する民間医療保険に加入していても、コロナウィルスの影響で完全に解雇されれば、無保険者に転落する。当然のことながら、検査や医療を受けられない低所得者・無保険者が相対的に多いヒスパニックや黒人は、白人と比べて、糖尿病や心臓病等の基礎疾患を多く抱えており、コロナウィルス感染・死亡リスクは高くなる。
 次に、経済格差についてみておこう。OECDの「所得分布データベース」により、先進5カ国の家計の政府移転後・課税後可処分所得のジニ係数(係数が1に近いほど格差が大きく、0に近いほど格差は小さい)を2017年について比較すると、米国0.390、英国0.357、日本0.339、ドイツ0.289、フランス0.292となっており、米国の所得格差が一番大きい。また、可処分所得の中央値の50%未満の所得しかない人口が全人口に占める比率を貧困率として比較すると、米国17.8%、英国11.9%、日本7%、ドイツ10.4%、フランス8.1%となっており、米国の貧困率が非常に高い。こうした経済格差の深刻さこそが、医療保障制度の不備と相俟って、米国を世界一の新型コロナウィルス感染大国にしてしまっているのである。

(執筆:片桐正俊)

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