累進所得税と低所得者支援(1)
これから累進所得税による低所得者支援策を取りあげます。その準備として
今回は所得控除について説明します。所得控除は納税者やその家族の経済事情等を考慮して所得税を軽減する制度で、扶養控除や配偶者控除などがあります。いま、Aさんの所得を500万円、所得控除を100万円とすると、その課税所得は500-100=400万円です。この400万円に税率を乗じて所得税額が決まります。以下、本コラムNo.85で説明した超過累進税率タイプの累進所得税を前提にします。
下の表は、日本の所得税における課税所得と税率の関係を示します。課税所得が多いほど高税率になることに留意しましょう。このとき、Aさんの税額Tは以下のように計算されます。
T=0.05×195+0.1×(330-195)+0.2×(400-330) (1)
=37.25万円
課税所得の最初の195万円に0.05を、次に196万円から330万円までの135万円に0.1を、最後に331万円から400万円までの70万円に0.2を適用します。つまり、課税所得の段階ごとの限界税率を適用するわけです。
式(1)の下線部に注目しましょう。
0.2×(400-330)=0.2×{(500-100)-330}なので、
100万円の所得控除による減税額=0.2×100=20万円となります。つまり、Aさんの減税額は、0.05、0.1、0.2の中で一番高い0.2、すなわち、Aさんにとっての最高限界税率0.2に100万円を乗じた額です。したがって、たとえば課税所得が5000万円の人の減税額は、上の表から0.45×100=45万円です。結局、所得控除による減税額は限界税率の高い高所得者ほど多額になります。
これに対して、税額控除は税率の影響を受けません。税額控除を10万円とすれば、適用者全員について10万円減税できます。累進所得税による低所得者支援には、所得控除よりも税額控除が適しているでしょう。
(執筆 馬場 義久)
(注)本エッセイは馬場義久・横山彰・堀場勇夫・牛丸聡著『日本の財政を考える』、有斐閣、141-142頁をより平易に解説したものである。