日々是総合政策 No.1

パレート改善と外部性

 総合政策は、現実の社会を「より良い社会」に変えようとする人間の営みを総合的に研究します。これは、既にお伝えしました。人が違えば、「より良い社会」も違います。しかし、次のような考え方に異を唱える人は少ないでしょう。
 ある人が「白」よりも「赤」のシャツを着る方が望ましいと考えて「赤」シャツを着た、と想像してみてください。このとき、その人の着るシャツの色などは他の人々にとってどうでもよければ、その人が「白」シャツを着ている社会よりも「赤」シャツを着ている社会の方が「より良い社会」だ、と考えられます。この考え方は、パレート(1848 – 1923年:イタリアの経済学者)の名を冠した、「パレート改善」を良しとする価値判断に基づいています。パレート改善とは社会の構成員の何人をも悪化させることなしに誰かを良化できることで、こうした改善は社会全体にとって良いことと判断されます。改善前の社会と比べて改善後の社会の方が「より良い社会」と考えるわけです。
 言い換えれば、誰にもご迷惑をかけないならば、誰もが自分の幸福を追求し自分が良いと考える状態を実現することが、社会全体にとっても良いことであるとする考え方です。この考え方は、自由主義にも通じます。
 しかし、ある人がシャツではなく、自分が購入した白壁のビルを白よりも好きな色の赤に塗り替える場合は、どうでしょうか。ビル壁が白ではなく赤になることで不快になり損失を被る人(例えば隣人)がいれば、この変化はパレート改善になりません。このように、ある人の選択行動が第三者である他の人の利害に影響を与えるときは、「外部性」が存在すると言います。その影響がプラスなら正の外部性、マイナスなら負の外部性です。では、白いビルのままの社会と比べ、そのビル壁を赤くした社会は「より良い社会」と言えるのでしょうか。この点、社会全体としてどう評価するかについては、次回に考えましょう。

(執筆:横山彰)

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