パンデミックと会計
「パンデミック(世界的大流行(注1)」)という言葉が、耳に新しいものではなくなりました。日本で最初にウイルスのパンデミックに関するSFを書いたのは小松左京氏『復活の日』(1964年)だと言われています。1980年には映画化もされています。この小説や映画の中では確かに「パンデミック」が扱われていますが、その現象が「パンデミック」という言葉で大々的に説明されているわけではありません 。(注2)
前回、「企業のリスクマネジメント」で書かせていただいたように、上場企業は、有価証券報告書のなかで、「事業等のリスク」について記述することになっており、2004年3月末に終了する事業年度から義務付けられています。ここに「パンデミック」という言葉が出てきたのは、2006年3月期の有価証券報告書が最初です。
当初の「事業等のリスク」では、投資者の判断に影響を与える可能性がある項目として感染症の「パンデミック」が挙げられている程度でした。しかし、2020年3月期の多くの企業の有価証券報告書では、パンデミックが発生した場合に起こりうることが事細かに想定されています。たとえば、消費市場が停滞して売上が減少する可能性、インバウンド需要が減少する可能性、物流停滞の可能性、国内小売店舗の閉鎖の可能性、従業員や顧客がり患した場合の販売活動の停滞の可能性、などなど。私たちはパンデミックを経験することで、どのような直接的・間接的ダメージがあるのかを身近なこととして具体的に想定できるスペックを手に入れました。それをどう生かしていけるのか、解決していけるのかが今後の課題です。
アカウンタビリティ(Accountability)という言葉は、説明責任という意味で用いられますが、もとは会計(Accounting)から派生した用語です。企業会計は、利害関係者に対し、今回の新型コロナ感染症によって受けたダメージ、今後備えていく対策と方針について説明していく責任があります。
(注1)最近は、「感染爆発」という訳が多見されます。
(注2)『復活の日』(1964年)の中では、「世界的大流行」(ルビでパンデミー)という言葉が2回出て来るのみです。
(執筆:渡部美紀子)