日々是総合政策No.97

地方創生の現場から(下)

 前回のコラムでは、第2期の総合戦略の策定作業が、現在進行中であることを説明しました。今回は「地方版人口ビジョン」に絞って、課題を述べたいと思います。
 長期的な人口増減は、出産可能な年齢の女性数に大きく影響を受けます。仮に出生率が高くても若年女性が地域外へ流出してしまえば、地域内で生まれてくる子どもは減少するからです。日本創生会議が2014年に発表した「消滅可能性都市」とは、今後30年間で20-39歳女性人口が半分以上減少する自治体のことです(注1)。20-39歳女性が注目される理由は、実際に95%程度の子どもがこの年齢の女性から生まれているからです。出生率が1.4と低く、20-39歳になる頃までに3割程度の人口が地域外に流出すれば、20-39歳の女性人口は親世代の半分程度になります。消滅可能性都市とは、まさにこのような自治体が想定されており、全自治体の「半分」が該当するとされたのです。
 第1期の「地方人口ビジョン」に示された人口の「将来展望」をみると、将来の総人口をより高く維持することが重視されたことがわかります。一方で、一部の先進的な自治体を除いて、将来の若年女性人口は完全にブラックボックスになっています。
 各自治体が将来人口を推計する場合には、将来の出生率と社会増減数の前提を自ら置く必要があります。将来の総人口を高く維持しようとすれば、必ず無理な前提が置かれ、そのしわ寄せが特定の年齢層の人口に不自然な形で及びます。無理な前提で、自治体の将来人口を実際に推計してみると、「将来展望」が実現した場合、現状よりも将来のほうが若年女性数も出生数も多くなります。このことから、多くの自治体の「将来展望」が実態からかけ離れたまま見過ごされ、形骸化していることが容易に想像できます。
 人口対策は、今日それを担う人たちの多くが2040年には責任を負う立場にないため、後回しにされがちです。2040年に責任ある立場にいる今日の若者の多くが、政治にも地域の未来にも関心がないことがこれに拍車をかけていると感じます。地域の現場で抱く懸念は、このように地域の人々によって人口対策が形骸化されてしまうと、地域で芽吹いた新しい動きまで台無しにされるのではないか、ということです。今日の行動が地域の将来を決めます。若い人たちにも将来への投資を期待したいと思います。

(注1)日本創生会議「ストップ少子化・地方元気戦略」(閲覧日:2019年10月31日)

(執筆:鷲見英司)

日々是総合政策No.91

地方創生の現場から(上)

 2015年度からスタートした5か年の「地方創生」の取り組み(総合戦略)は、今年度で最終年を迎えています。そして、今まさに各地方自治体は来年度からスタートする第2期の総合戦略を練っているところです。私自身も複数の自治体で総合戦略推進会議という外部機関等でこの過程に携わっています。本コラムでは2回に分けて、「地方創生」の現場で感じた課題について述べたいと思います。
 「地方創生」は「まち・ひと・しごと創生法」(2014年11月公布)を根拠にしており、そのもとで、国は2060年に1億人程度の人口を確保する展望を示した「長期ビジョン」と2015年度から19年度の人口対策を示した「まち・ひと・しごと創生総合戦略」を策定し、都道府県と市区町村も同様に「地方人口ビジョン」と「地方版総合戦略」を策定しました。
 「地方人口ビジョン」は国立社会保障・人口問題研究所の将来推計人口をベースに、各自治体が独自に推計した2040年頃の(「将来展望」と呼ばれる)将来人口を示したもので、「地方版総合戦略」は、「将来展望」を実現するために、5年間で実施する出産・子育てや移住・定住等の戦略とその目標を示したものです。
地方創生の結果はどうなったのでしょうか。残念ながら、国と地方の総合戦略は全体としてみると惨憺たる結果になっています。出生数は減少の一途を辿り、地方から東京圏への人口流出は減少するどころかむしろ増えています。
 その一方で、自治体の現場に足を運ぶと、この5年間で起きた数字に表れていない質的な変化を確認することができます。例えば、ある地域では若い移住者の存在が目立つようになりました。彼らは仕事がないといわれる地方において、地域課題解決型のビジネスモデルを創り出し、行政との連携を始めています。また、地域課題解決のための若者たちの自主的な活動が生まれた地域では、若者のアイディアが行政の事業に採用されています。反対に、外国人の旅行者や就業者が増えたことで、雇用面や生活面での新たな地域課題も発生しています。
 各自治体の総合戦略の結果は、人口ビジョンとともに、ホームページで公開されています。他の自治体と比較すれば、人口問題に取り組む姿勢もわかるはずです。読者の皆さんにもぜひ確認していただきたいと思います。

(執筆:鷲見英司)