日々是総合政策No.207

拡大TPPに掛ける夢

 2020年11月、RCEP (東アジア地域包括的経済連携)協定が署名されました。参加国は、中国、韓国、インドネシア、タイ、それにTPP(環太平洋パートナーシップ)参加国の日本、ベトナム、オーストラリア、カナダなどの15カ国です。これで、アジア太平洋地域に、RCEPとTPP11(環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定:CPTPP)の二つの巨大な自由貿易協定が併存することになりました。
 しかし、2018年3月以降の米中摩擦の激化、また2020年の新型コロナウイルスのパンデミックが世界の経済成長に影を落とし始めています。この状況を克服する方策は、TPP11に米国が復帰し中国が参加する「拡大TPP」の構築ではないのでしょうか。                              
 その理由は、第1に、貿易促進効果です。相手国との貿易額(輸出額+輸入額)が全貿易額に占めるシェアは、相手国のサイズに応じて増減します。そこで、サイズの影響を除き取引そのものの緊密性を表す貿易結合度(注1)を用い、TPP11を例として、その貿易効果を計算してみますと、TPP11参加国同士の緊密度は1.04であって、それほど高いとは言えません。そこで、米国を加えますと、貿易結合度は2.70になります。さらに中国を加えた場合も、貿易結合度は1.47と高い緊密度を示します。
 拡大TPPを重視する第2の理由は、大企業だけでなく地域を基盤とするベンチャービジネスや中小企業に着目、アジア太平洋市場に繋げようとしていることです。コミュニティビジネスは、密なコミュニケーションの下で、取引コストを低め、技術革新を呼び、収穫逓増型の生産を行う可能性さえ有しています。デジタル社会の発展と地域発グローバル化の進展が、地域活性化を促すはずです。          
 第3に、TPPのルール、規律がRCEPはもとより、TTP11よりも強固なことです。TPPは、関税だけでなく、投資、知的財産、電子商取引、政府調達などの非関税分野のルール、さらに環境・労働環境など新たなルールも重視しています。今後、ESG投資などで市民の参加も活発になりそうな中で、TPPのルールが不可欠になるものと思われます(注2)。 


(注1)貿易結合度TII(Trade Intensity Index)は、T IIij=(Tij/Ti)/(Tj)(Tw)と表されます。
ここで、TIIijはi国とj国の貿易結合度、Tijはi国とj国との貿易額、Tiはi国の
貿易額全体、Tj はj国の貿易額全体、Twは全世界の貿易額を表しています。
貿易結合度の概念と数値は後藤純一氏によりますが、米中貿易摩擦激化の前年、2017年のIMF(International Monetary Fund:国際通貨基金),Direction of Trade Statisticsのデータに基づいています。後藤純一・岸真清(2020)「TPPと日米中の経済協力の課題」,吉見太洋編『トランプ時代の世界経済』中央大学出版部を参照ください。
(注2)本文の英語略語は、以下の通りです。
RCEP:Regional Comprehensive Economic Partnership
TPP:Trans-Pacific Partnership
CPTPP:Comprehensive and Progressive Agreement for Trance-Pacific Partnership
ESG:E(Environment), S(Social), G(Governance)

(執筆:岸 真清)

              

日々是総合政策No.178

新しい社会を構築するESG投資

 新型コロナウイルスに対処するESG投資がクローズアップされています。ESG投資とは、企業の売上高や収益だけでなく、Environment(環境)、Social(社会)、Governance(ガバナンス)に重きを置く投資のことです。
 Global Sustainable Investment Reviewによれば、全世界のESG投資は2016年の約23兆ドルから2018年の約31兆ドルへと目覚ましい伸長を見せています。そのうち、欧州、米国、日本の投資残高は、欧州が約14兆ドル、米国が約12兆ドル、日本が約2兆ドルに増加しています。また、全運用資産に占めるESG投資のシェアは、欧州48.8%、米国25.7%、日本18.3%になっています。2016年のシェアが、欧州52.6%、米国21.6%、日本3.4%であったことから、特に日本の伸長 が顕著です(注)。
 ESG投資は、2006年の国連における責任投資原則(PRI)の提唱、2015年のSDGs(持続可能な開発目標)の採択および気候変動対策を国際的に取り決めたパリ協定によって推進されてきました。同様に、長期投資に見込まれる安定した収益も主因になっています。ESG投資は主に環境整備事業を対象とするグリーンボンド、社会的な課題の解決を目指す事業を対象とするソーシャルボンドを主な資金調達手段にしてきました。しかし、現在では、これら両者を合せたサステナビリティボンドがESG投資を支える代表的な存在になっています。その伸長に与っているのが、医療体制の整備や企業の資金繰りの支援を目的にするコロナ債です。                                         日本においても、最近、民間金融機関や企業による新型ウイルス対応のコロナ債発行が目立ちます。さらに、「個人向けコロナ債」も発行される予定ですが、政府系金融機関や機関投資家がこれまで担ってきた資金の流れが多様化することを示唆しています。たとえば、感染性ワクチン開発を支援し健康的な生活の確保を目指すSDGsの政策目標(目標 (3)、ターゲット(b))が、ESG投資という政策手段を通じて、民間企業や市民など身近な政策主体によって実現が加速されることになります。ただし、その前提となるのが、公正・透明な市場を保証する国際協力の強化であることは言うまでもありません。

(注)Global Sustainable Investment Alliance, Global Sustainable Investment Review
2018, gsi-alliance.org/wp-content/uploads/2019/03/GSIR_ Review 2018.3.28.pdf, pp.8-9,(2020.8.7アクセス)。

(岸 真清)

日々是総合政策No.164

ソーシャルビジネスとしての医療・介護

 新型コロナウイルスの猛威に苦悩する医療・介護問題を、ソーシャルビジネスの視点から考えてみましょう。ソーシャルビジネスとは、医療・介護、教育、環境整備のように、社会的な課題を営利事業を通じて解決する事業のことです。
 これまでも、非営利型の事業として、営利型の中小企業・小規模事業、ベンチャー企業とともに地域を基盤とする事業を行ってきました。活動資金は、スタート当初は寄付・会費、補助金・助成金それに自己資金が主でした。しかし、次第に組織を存続するだけの収益を自ら獲得、またそれを超えて事業規模が拡大するようになると、銀行借入だけでなく地方自治体が仲介する住民公募地方債、NPO・NPOバンクが仲介するコミュニティファンド、さらにクラウドファンディングを通じて、事業に共感する市民から直接的に資金を得るようになっています。 
 このボトムアップ型の流れの中で、政府は第2次補正予算において企業の雇用・資金繰りと医療体制の強化に重点を置いています。実際、地域経済活性化を兼ねた新型コロナウイルス感染症対応地方創生臨時交付金が準備されています。ところが、ウイルス検査体制、ワクチン開発・治療が遅れているだけでなく、医療・介護関係の人材不足や経営悪化が深刻になっています。  
 そこで、地域の実情を重視する政府と自治体の支援が急がれることになります。まず、感染防止・治療そして事業協力者への補償のために、補正予算・予備費10兆円のうちかなりの資金を当てることになりそうです。しかし、成功の鍵を握るのは、政府省庁間の調整および自治体、研究機関、金融機関・企業、市民との効率的な協業です。
 次いで、今後、医療法人(病院、診療所、介護老人保健施設)が生み出す剰余金の配当を許可するなど「医療法」の規制を緩めることで、コストを低め収益の拡大を目指そうとする医療法人の経営努力を支援する必要があるのではないでしょうか。この過程で、医療のICT化(遠隔診療 キャッシュレス化 電子カルテ)が進み、市民はより有利な条件でサービスを受けられることになるはずです。また、海外からの医療ツーリズムにもつながるように思われます。 

(執筆:岸真清)

日々是総合政策No.138

新型コロナウイルスに対峙するデジタル社会

 本年4月7日、コロナ緊急経済対策が発表されました。108兆円にも上る大規模な対策ですが、感染拡大防止・医療体制の整備、雇用の維持および事業継続支援、強靭な経済の構築を主な目的として、給付と融資を行うものです。特に喫緊の対象にされているのが、資金繰りに苦悩する中小企業・小規模事業と家計です。   
 しかし、その実施には不安が募ります。まず、給付に関して、遅さだけでなく休業要請への補償問題が深刻さを増しています。給付は、憲法で規定された健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を保障する水準で、スピーディーに実行される必要があります。また、融資は、政府系金融機関(日本政策金融公庫、商工組合中央金庫)に加えて、新たに民間金融機関が担当することになりました。実質無利子、無担保、返済期間5年先延ばしを可とする優遇条件を付けていますが、予算制約の下で、企業が必要とするだけの資金を融資できるとは限りません。                           
 そこで、中央政府、地方自治体、金融機関、企業、NPO・NGOなどの市民団体それに市民自身の協業、共助がクローズアップされることになります。すでに、コミュニティ単位での医療関連協力が行われていますが、資金面においても、たとえば、地域の状況に詳しい地方銀行や信用金庫などの地域金融機関とデジタル社会を象徴するクラウドファンディング運営業者との協業に期待が掛かります。
 インターネットの活用は、中小企業・小規模事業、ベンチャービジネスなどの取引コストを低減、収益を高めます。他方、本来、金融機関が有する情報収集、審査、モニタリング機能が市場を開拓するとともに不正な情報から顧客を守ります。そして、クラウドファンディング市場だけでなく自らの市場を拡大することになります。すなわち、金融機関の情報生産とクラウドファンディングの早いスピードがあいまって、手続きに手間取る政府系金融機関の融資や地域経済活性化支援機構や中小企業基盤整備機構のような官民ファンドを補完することができるのではないでしょうか。

(執筆:岸真清)

日々是総合政策No.68

中国の株式型クラウドファンディング

 中国においても、地域経済の活性化が重要な課題になっています。地域経済の推進者は中小企業、ベンチャービジネス、農業など地域を基盤とするコミュニティビジネスです。しかし、これらのビジネスに共通する悩みは、資金調達が難しいことです。それだけに、クラウドファンディングに期待が掛かることになりそうです。
 実際、2010年代に入って、世界のクラウドファンディングは急成長を遂げています。特に伸長が目覚ましいアジアの牽引者は中国です。クラウドファンディングにはいろいろな型がありますが、米国では寄付型が目立っていたのと対照的に、中国では株式型クラウドファンディング(未公開株と引き換えに投資するタイプ)が主軸になっています。
 その違いは、両国の地域金融システムの形成過程が異なっているためです。米国の地域金融は民間商業銀行やNP0などの民間部門を政府が補助するシステムであったのに対して、中国は国有大企業が国有商業銀行から優先的に資金を得られたのに比べ、中小企業など小規模事業の資金調達は不利な立場に置かれていました。それを補ってきたのが主にインフォーマル金融(「講」や「頼母子講」のような未公認の民間金融)でした。浙江省温州市における事業の発展がその代表例ですが、インフォーマル金融が中小企業の資金調達に重要な役割を果たすことから、政府が黙認ないし活用してきました。
 このインフォーマル金融を代替しようとしているのが、クラウドファンディングです。特に2014年に政府が承認した株式型クラウドファンディングが、インターネットを通じて小口投資と中小企業の資金調達を活性化しつつあります。政府も国有商業銀行を主柱とするフォーマル金融と伝統的なインフォーマル金融の双方の改革を進めるため、株式型クラウドファンディングを支援しています。
 しかし、真に小口投資家、市民の参加を促し、地域活性化を実現するためには、詐欺など不正な行為を防ぐ絶え間のない対策が必要になります。

(執筆:岸 真清)

日々是総合政策No.43

事実を直視する

 思い違いをしていたことに気付くことがあります。米国の地域金融政策がその一例です。米国の金融について問われたとき、真っ先に目に浮かんだのは大規模な金融機関が林立するウオール街でした。しかし、実際には小規模な金融機関が圧倒的に多く、連邦レベル、州レベル、市レベルそれにNPO(非営利組織)を通じたきめ細かい地域金融政策がとられています。
 地域金融を担当している主な金融機関は、リージョナルバンク(日本の地方銀行に相当)、貯蓄金融機関、コミュニティ開発金融機関(CDFIs)です。中でも重要な役割を果たしているのがCDFIsですが、政府、銀行、財団などから資金を調達してそれをNPOや社会的企業(社会的目的を有する営利企業)に融資することで、コミュニティ開発を促進しています。ただし、CDFIsは総称であって、コミュニティ開発銀行、地域開発信用組合、NPO法人(法人格を有するNPO)によって構成されています。
 CDFIsを支えているのが、1977年に制定された地域再投資法(CRA)です。人種的な貧困問題に悩む連邦政府が地域の資金を地域に回すように民間金融機関を誘導することが、その目的です。1994年には、クリントン政権が直接的な投資、補助金制度、財政および経営支援を行うCDFIファンドを設置してCRAの運用を強化しています。また、コミュニティ開発団体に投資した納税者の連邦所得税を軽減する制度を敷いています。
 その後、2008年にバングラデッシュのグラミン銀行のしくみを活用したグラミン・アメリカが設立されています。5人一組の連帯保証を条件とする代わりに無担保の小口金融を営むグラミン・アメリカは、先進国が発展途上国の金融システムを取り入れた特異な事例ですが、2009年にCDFIsとしての認可を受けています。さらに、オバマ政権下の2012年に、規制緩和を通じて小規模事業の資金調達を促進し、雇用と成長を高める新興企業促進法(JOBS法)が制定されています。この規制緩和を一層進めるのがトランプ政権下で2017年に公表(下院で可決)された金融選択法案ですが、地域経済への資金供給の道が拡げられようとしています。

CDFIs: Community Development Financial Institutions
CRA: Community Reinvestment Act 
JOBS: Jumpstart Our Business Startups

 (執筆:岸 真清)

日々是総合政策 No.34

金融規制の緩和と強化

 虚偽な財務報告をしていたなどと企業経営者が頭をさげている姿が、ときどき報道され
ています。金融自由化、規制緩和は市場の効率を高め生活を豊かにしてくれるはずですが、不誠実な企業行動は私たちを不安に陥れてしまいます。
 そこで、一口に規制と言っても、何を緩和するのか、あるいはその逆に何を強化しな
ければならないのかを、考えざるを得ないことになります。実は、金融規制には、経済規制、プルーデンス規制、情報規制の3つの型があります。このうち、経済規制とは、金利規制、業務分野規制、国内・外国企業の参入規制などのことです。プルーデンス規制とは、銀行法、自己資本比率、格付け、情報開示のように金融システムの安全性および健全性を保ち、貯蓄者、投資者を保護する規制のことです。情報規制とは、銀行、保険会社、証券会社それぞれが取引きする金融商品の価格と数量を会計基準に従って報告する義務を負わせる金融インフラのことです。
 日本を含め東アジア諸国は、欧米諸国に比べて、経済規制が厳しい反面、プルーデンス
規制と情報規制が弱いと言われてきました。しかし、日本の場合、1980年代半ば以降、 政府開発金融機関の縮小などあらゆる種類の金融機関の民営化を実施し、市場メカニズムに基づく金利や株価決定を重視するようになっています。また、外銀(外資系投資銀行)や外国証券会社の参入、非居住者の預金および証券投資規制を緩和しています。その反面、金融機関間の競争激化とグローバル化の進展に応じて、バーゼル合意(国際業務に従事する銀行の監督を目的として、主要国の金融監督当局と中央銀行によって構成されている「バーゼル銀行監督委員会」が定め、公表している自己資本に関する国際統一基準)の実施、時価会計の採用、大口融資規制などのプルーデンス規制やその基盤となる会計基準を強化しています。                 
 さらに、クラウドファンディングなどの新しい金融そして新しい仲介業者や運営業者が誕生するのにつれて、市場を活性化する規制緩和を実施すると共に、個人投資者を保護する規制強化が新たに試みられるようになっています。しかし、今後も、規制緩和と強化の組み合せが、絶え間のない課題になりそうです。

(執筆:岸 真清)

日々是総合政策 No.21

クラウドファンディングの役割 

 耳慣れない金融用語が、新聞、雑誌に次々に登場しています。クラウドファンディングもそのひとつでしょうが、「日々是総合政策No.9」で取りあげたコミュニティビジネスと深くかかわってきます。クラウドファンディングとは、不特定多数の人々が、インターネットを通じてお金を融通する手法のことです。        
 顔なじみの人々が集う場を基盤とするコミュニティビジネスは、お互いの情報を得やすいだけでなく、アイデアを出し合って技術革新を行う機会に恵まれています。それゆえ、
 財やサービスをより安く生み出し、地域発のグローバル化を実現する可能性さえ持っています。しかし、生産を継続、拡大するためにはコストがかかります。通常、まず、自分のお金(自己資金)で賄いますが、それで不足する場合、銀行から借り入れるか、債券や株式を発行する必要が生じます。ところが、コミュニティビジネスはそれほど信用があるわけではなく、証券の発行は銀行借入に比べ、一層、難しいのが実情です。        
 そこで、「地域経済活性化支援機構」のような政府主導の官民ファンドが設立されました。また、地方自治体も「ミニ公募債(住民参加型市場公募地方債)」を発行しています。他方、民間サイドでも、住民(市民)を主役とするコミュニティファンドが設立されるようになっています。これには、信用金庫、農業協同組合などの協同組織金融機関やNPO・NPOバンクが仲介する間接金融型のものと、運営会社が設定した目的に賛同して、市民が出資、投資する直接金融型のものがあります。                   
 さらに、市民主役のお金の流れを加速すると思われるのが、クラウドファンディングです。その理由は、共感を覚えて参加する市民ひとりひとりとコミュニティビジネスを、直接、結び付けることができるからです。加えて、IT(情報技術)の活用によって、コストを低めることができるからです。しかし、クラウドファンディングを促進するためには、詐欺的な行為を許さないように規制を強化しながら、運営業者の参入をしやすくする政策が望まれることになります。

(執筆:岸真清)

日々是総合政策 No.9

地方創生への道

 「地方創生」の願いがかなわない日々が続いています。しかし、政府も手をこまねいていたわけではなく、さまざまな地方創生政策が試みられてきました。アベノミクスをみただけでも、第3の矢であった成長戦略(「日本再興戦略」)、「一億総活躍社会」を目指す「新三本の矢」、地方創生を強力に推進する「まち・ひと、しごと創生基本方針2015-ローカル・アベノミクスの実現に向けて-」と矢継ぎ早でした。ローカル・アベノミクスは、毎年、新たな方針を打ち出す中で、2018年にも情報支援、人材支援、財政支援を軸とする「地方創生版・3本の矢」を提示しています。 
 これらの政策にもかかわらず、なぜ、地方創生が達成されないのでしょうか。地域社会(コミュニティ)の主役であるはずの住民(市民)の意志を反映するしくみが不十分であることが、その主因になっていると考えられます。  
 地域の最も小さな単位は、家族であり、近隣に暮らす人々が集うコミュニティです。このコミュティを基盤とするのがコミュニティビジネスです。そこには、農業、中小企業・小規模事業、ベンチャービジネスなどの営利事業と、医療・介護、教育、環境関連事業などの社会的・非営利事業が含まれます。このうち、営利事業は日常のコミュニケーションを通じて、アイデアを持ち合い、技術革新を起こし、経済規模を拡大する可能性を秘めています。社会的・非営利事業も補助金、助成金に頼るよりも存続を可能にする資金を自ら獲得しようとの考え方が強まっています。それどころか、高齢化社会の中で重みを増す医療・介護事業などは社会的・営利事業(ソーシャルビジネス)に発展する可能性も有しています。
 コミュニティビジネスの可能性を高め、地方経済・社会を豊かにするのが、NPO(非営利組織)・NGO(非政府組織)などの市民団体、信用金庫などの金融機関、地方政府(自治体)と、コミュニティの連携です。このボトムアップ型の意志伝達メカニズムが確立したとき、中央政府の立案がスムーズに受け入れられるのではないでしょうか。

(執筆:岸真清)