産業構造5
こんにちは、ふたたび池上です。第7−10回は、経済発展に伴い経済の中心が農業から工業にシフトするルイス・モデルとハリス=トダロ・モデルのお話でした。今回は、ハリス=トダロ・モデルの続きで、農業、都市インフォーマル部門、都市フォーマル部門という3つの部門のどの部門で投資が進むと人々の生活水準が向上するかというお話です。
まず、都市フォーマル部門に投資した場合ですが、都市フォーマル部門の労働者の人数と労働者一人あたりの所得のどちらか、もしくは両方が増加します。どちらが増加するかはっきりしないのは、都市フォーマル部門の賃金および雇用量は、需要と供給に応じて決まるのではなく、離職を防ぐ、やる気を高める、生産性を高めるなどの理由から、現在の労働者の所得・栄養状態・健康・福利厚生を高めに設定・維持されるように決まるという仮定があるからです。
しかし、都市の期待所得も同時に増加し、より多くの人が農業から都市に移動し、都市フォーマル部門に職を得られなかった労働者は都市インフォーマル部門に職を得ます。都市インフォーマル部門は賃金ゼロの最も貧しい部門です。都市フォーマル部門への投資は、都市インフォーマル部門の拡大をもたらし、都市全体の生活水準を悪化させる可能性があるのです。これをトダロの逆説と呼びます。
次に、農業部門に投資した場合ですが、こちらは需要と供給に応じて賃金と雇用量が決まるので、農業部門の労働者の人数と労働者一人あたりの所得は増加します。都市インフォーマル部門の労働者は農業に移動し、都市インフォーマル部門は縮小するので、都市全体の生活水準も向上します。ルイス・モデルとハリス=トダロ・モデルの両方において、経済発展のエンジンは工業化だったとしても、農業部門の発展も重要という結果が得られました。
私からの日本語のお話は今回が最後で、次回以降は英語のお話の予定です。
(執筆:池上宗信)