日々是総合政策No.67

行政事業レビューとEBPM(下)

 国では、EBPM推進とあわせて、「統計改革」が推進されています。それと関連して、行政事業レビューでは、事業の成果目標およびその根拠である統計等データを明確にすることが求められています。しかし事業によっては、定量的な成果目標を示すことが困難な場合もあり、代わりに事業の妥当性を検証できる定量データが示されることもあります。
 さらに、成果目標を実現するための活動指標も示されます。成果と活動の区別は非常に重要で、活動指標が成果目標とされていないことを検証する必要があります。また、成果や活動に関する定量的評価にあたり、既存の統計データだけでは十分でなく、しばしば独自の集計作業をともないます。
 このようなデータとあわせて、ロジックモデルが利用されます。ロジックモデルにおいて示される因果関係は、統計学的手法にもとづくわけではないので、科学的検証にたえるものではありませんが、一定以上の意義はあると思います。まず、事業によっては成果目標を示す適切なデータが存在しないこともあり、そのようなケースにおいて無理に統計学的手法を用いることは的確でないと思います。また、ロジックモデルにより、政策担当者の考えが可視化され、彼らが見落としている事項、たとえば質的要因や外的要因などを指摘しやすくなるという効用があります。これにより、よりスムーズに事業の改善を提言することが可能となります。
 行政事業レビューに関して、EBPMの推進と関連付けて、データや因果関係の検証に関する現状について言及してきましたが、これら以外にも、行政評価との連携など、さまざまな課題があります。このようなに課題が多くある行政事業レビューですが、一定以上の意義があります。それは、単に政府予算の無駄の削減や事業実施の改善だけではなく、そもそも、国の行政機関が、国民に対して、事業実施に関する説明責任を果たす一つの取組であるということを認識しておくべきだと思います。

参考文献
伊藤公一朗著『データ分析の力 因果関係に迫る思考法』光文社新書
エステル・デュフロ他著『政策評価のための因果関係の見つけ方』日本評論社

(執筆:飯島大邦)

日々是総合政策No.62

行政事業レビューとEBPM(上)

 国や地方自治体の行政サービスの評価がなされるとき、その背後にある政策の体系は、「政策」、「施策」、「事業」の3段階として捉えられます。例えば、政策として環境にやさしい社会の実現、施策として廃棄物の減量、事業としてリサイクルの推進というように、段階を経るごとに具体的なものになります。
 国レベルに関しては、民主党政権下において、2009年から「事業仕分け」が開催され、行政機関外部の者により、各府省庁の事業が評価されました。その後、自民党政権下では、事業評価の取組にいろいろな変更が加えられ、「行政事業レビュー」というかたちで毎年度実施されています。
 事業の評価にあたっては、評価対象事業が、必要とされかつ公共部門によって実施されることが妥当であることを明確にした上で、事業の実施における有効性、効率性、緊急性などの観点も考慮されます。さらに、そのような検討において、質的情報だけではなく、関連する定量的目標も適宜利用されてきました。しかし、近年、国が推進する「証拠に基づく政策立案(Evidence-based Policy Making, EBPM)」の取組の一つとして、行政事業レビューが位置づけられるようになり、行政事業レビューの実施においても改善が試みられています。
 EBPMでは、政策決定の際、統計学の手法を用いて、政策実施を原因とし、政策効果を結果とする因果関係が示されることが必要とされて、両者の因果関係が示されることによって、政策が評価されます。EBPMの考え方に基づくと、ランダム化比較試験(Randomized Controlled Trial, RCT)と呼ばれる手法が理想とされますが、行政事業レビューのように、各府省庁のすべての事業を評価対象とする取組においては、EBPMの要素を取り入れることにおいて、限界もあることは認識すべきだと思います。現状においては、すべての事業評価において、「ロジックモデル」が導入されています。ロジックモデルは、統計学の手法は用いられていませんが、政策実施から政策効果へ至るフロー図によって因果関係を明示し、あわせて事業の成果に関するデータも示すものです。
 次回では、筆者の行政事業レビュー外部有識者委員の経験を踏まえて、いくつかの点についてコメントします。

(執筆:飯島大邦)