税について考えましょう
経済学は、理論的に、そして論理的に社会の中で経済主体(個人、企業、政府)がどのように行動するかを考察する学問です。経済活動の多くの事柄は買手(需要)と売手(供給)のいる市場で決まります。しかしながら、まちの安全を守る治安や誰でもが利用することができる道路整備といった社会全体に利益が及ぶ公共財は民間の売手と買手の取引きを行う市場が成立しません。そこで政府は、このような公共財を提供することが求められます。
公共財の提供には費用がかかりますから財源が必要で、そしてその財源の中心は税です。つまり、政府はどんな公共財をどれだけ提供するかということと、その財源をどのように調達するかを決定しなければなりません。いずれも市場を通じて決定されることはありませんから、民主主義の国では、選挙を通じて決めなければなりません。経済が成長し、社会が成熟化するに伴って、公共財(行政サービス)に対するニーズは多様化とともに拡大してきましたが、その財源をどのように調達するかを決めることは政府にとって非常に重要な責務です。
ですが、選挙において政策を提示する側(政治家)にとって、国民の負担である税制の議論はあまり人気のあるテーマではありません(負担を軽くする提案はありますが)。国民また住民は、“サービスは多く、税負担は低い”状況を好みます。また税制は、環境対策など特別な例を除いて、社会の方向性を決定するような政策手段ではないことも、アピールすることが必要な場面では人気がないことの理由になっているのでしょう。その中で公的に必要な負担を主張することは、ある意味勇気のいることだと思います。
大学で税についての意見を求めると、「負担は仕方がないが納得のいく使い方をしてもらいたい」という声が多く見られます。つまり、必ずしも現状に満足していなくても、税が公的な支出の裏返しであることは理解されているこということです。学校教育を終えて社会に出て経済活動を行うことは、納税者になることを意味します。税については、ややもすると「自分以外の人が払う税は良い税金」となりがちです。投票する側も、政策を実現するための支出とその財源となる税に正面から向かい合う意識が求められます。
(執筆:林 宏昭)