日々是総合政策 No.27

累進所得税(1)

 前回(No.18 )述べましたように税や社会保険料による公的負担の評価には、その使い道、誰に使うか、評価期間の長さが重要な影響を与えます。そこで本コラムではこれらの点に注意しつつ、公的負担の意味を再考します。
 今回は租税の累進的負担についてです。所得税を例にとります。Aさんの所得が2000万円、Bさんの所得が200万円とし、2000万円には40%、200万円には10%の税が課されると想定しましょう。このように、高所得ほど平均税率(=所得全体に占める税負担の割合、今の例では40%と10%)が高くなる所得税制を累進所得税と言います.
 累進所得税制によって何が生じるか?Aは2000万円稼いで、所得税を40%課されるので所得税は800万円、よって手取り、経済学でいう可処分所得は1200万円となります。Bの可処分所得は180万円となりますね。
 ここでAとBの所得格差に注目しましょう。課税前にはAの所得はBの10倍(=2000/200)でした。ところが課税後の可処分所得を比べると、Aの可処分所得はBの約6.7倍(=1200/180)に縮小しています。つまり、累進所得税は、課税後の所得格差を課税前の所得格差より小さくするのです。
 では累進所得税でなく比例所得税の場合はどうでしょうか?比例所得税は所得水準にかかわりなく一定の平均税率を課します。勤労者の社会保険料がほぼ該当します。いま、その平均税率を10%とすると、Bは前の例と同じで200万円が180万円になり、Aは今度、2000万円に10%の税率ですので、所得税は200万円、手取りは1800万円です。よって、二人の所得格差は、課税後も10倍(=1800/180)で、課税前の所得格差(=2000/200)は変化しません。二人の所得に同じ平均税率を適用するからです。
 結局、累進所得税は、高所得に低所得より高い平均税率を課して、所得格差を縮小するわけです。ただ、その所得格差の縮小は、課税前と課税後を比べただけのことです。たとえば、Bさんの課税前所得を250万円に引き上げ、課税前の格差自体を10から8に縮小するような抜本的な格差縮小政策ではありません。

(執筆:馬場義久)

日々是総合政策 No.18

スウェーデンは高負担国家か?

 スウェーデンは、平等主義、高福祉と高負担の国家として注目されることが多いですね。財務省のホームページによると、2015年のスウェーデンの国民負担率は56.9%であり、日本の42.6%を大きく上回っています。国民負担率は国民が稼いだ所得の総計(国民所得)に占める、税と社会保障負担の合計額の割合を示します。ここで社会保障負担とは、主に年金保険料や健康保険料など社会保険料を指します。
 結局、国民負担率は国民が得た所得のうち、何%政府に支払ったかを示します。つまり、スウェーデン国民は国民所得の半分以上を公的負担として政府に納めたわけです。確かにかなりの高負担です。
 この高負担をスウェーデンの人はなぜ受け入れているのか不思議に思い、スウェーデン滞在中に「あなたの国の公的負担は重いようですが、どう思いますか?」と尋ねたことがあります。その答えの多くは「スウェーデンの場合、子どもが二人いれば公的負担は生涯中にほぼ戻ってくる」というものでした。
 この回答で注目したいのは、次の三つの点です。第一に、租税や社会保険料という公的負担を、その使われ方と関連づけて捉えていることです。一般に公的負担は公共支出の財源ですから、この捉え方は当然と言えます。
 第二に、公的負担とその使われ方について、2015年という一時点に限定して考慮するのではなく、生涯という長いタイムスパンで見ていることです。年金・医療などは、現役期に公的負担を支払い、給付の多くを高齢期に得ますので、生涯期間の視点はとても重要です。
 第三に、スウェーデンでの個人が支払う公的負担は、その大部分が、他の人のためにではなく、自分自身や家族のために使われると思っていることです。
 このように思う公的負担は、個人が将来の疾病・老後や、子どもの教育に備える貯蓄に似ています。公的負担を自主的な貯蓄のように認識できれば、それは、もはや負担とは言えないでしょう。皆さんはどう思いますか?

(執筆:馬場義久)