日々是総合政策No.85

累進所得税のタイプ(2)

 前回No.71では限界税率一定の累進所得税制を紹介しました。それは
 T= t(Y-E) (1) でした。
 Tは税額、Yは所得,tは税率, Eは控除です。tとEは一定です。日本の地方所得税ではt=0.1です。
 累進所得税制の第二のタイプは、tが一定ではなく、課税所得、つまりY-Eが大きくなるほど高いtを採用します。日本の所得税(国税)の場合、下の表のように課税所得の段階を7グループに分け、tは0.05から0.45の値をとります。このようなtを超過累進税率と言います。

(出所)国税庁ホームページ「所得税の税率」に基き、一部表示法を修正。

 限界税率一定型と超過累進税率型を比べると、後者の方が本格的な累進所得税制と言えます。限界税率一定型はtが一定のため、再分配機能に関して二つの限界を持っています。
 一つは、所得Yが高くなるほど比例的負担に近づくことです。(1)は
 T/Y=t(1-E/Y)  となるので、
 Yが高くなるほどE/Yが低下し、T/Y=t、つまり、高い所得の領域で比例所得税に接近します。
 第二は、低所得層に対して高所得層より低いtを適用できないことです。
 興味深いのは日本でもスウェーデンでも、地方政府が限界税率一定型を、国が超過累進税率型を採用している点です。その理由の一つは、所得再分配は地方ではなく国が担うべきという伝統的な国と地方の機能配分論に求められます。
 いま、地方政府が所得税の税率構造を自主的に決定できるとします。そこで地方Aが独自に累進所得税制を採用すると、地方Aの高所得層は高率の税負担を逃れるため累進税制でない地方Bへ移動し、逆にB地方の低所得層は低率の税負担を求めAに流入しかねません。以上の住民移動が生じると、A地方の累進税制は有名無実となります。他方、国が累進所得税を採用しても、同一国内における地域間の住民移動は生じません。租税政策は、税制による納税者の移動可能性を考慮して立案されるべきでしょう。

(執筆:馬場 義久)

日々是総合政策No.71

累進所得税のタイプ(1)

 今回は累進所得税の一つのタイプについて紹介します。所得税額Tを、
 T= t(Y-E) (1)
 と表します。tは税法が定めている法定税率であり、0<t<1 の一定値とします。Yは個人の年間所得、Eは控除です。Eには基礎控除や給与所得控除などがあり、後者は所得水準に依存しますが、ここでは簡単化のため一定値と仮定します。式(1)は、Y-Eが課税の対象となることを示し、Y-Eを課税所得と呼びます。
 では(1)のような所得税制は、Y>EとなるYの範囲で累進所得税でしょうか?そうでないでしょうか? 正解は累進所得税です。(1)から平均税率は
 T/Y=t(1-E/Y) 
 となります。Yが増加すると右辺のE/Yが低下します。よって(1-E/Y)が増加し、結局、Yの増加によりT/Yが増加します。すなわち,平均税率がYとともに増加するので累進税制です。累進となるのは、所得の増加とともに所得に対する控除額の割合が低下するからです。
 つまり、tが一定であってもE>0であれば累進所得税となります。なおEに等しい所得をYEで表すと、YEを課税最低限と呼びます。この水準を超えたYに所得税が課税されるからです。
 さらに、(1)でのtは限界税率となります。限界税率は所得税の場合Yが1円増加した場合、何円税負担が増えるかを表す税率(=ΔT/ΔY)です。(1)でYが1円増加するとTがt円増加しますので、ΔT/ΔY=tとなります。つまり(1)は限界税率一定の累進所得税制です。限界税率が一定であっても、Eの存在により、累進所得税となることに注意して下さい。ただし、Eが少額になればなるほど比例税に接近します。(1)でE=0とするとT=tY となりますね。
 (1)のタイプの所得税として、日本の地方所得税である住民税(所得割)があります。住民税の所得割ではt=0.1です。Eもかなりの多額にのぼります。また、スウェーデンの地方所得税も基本的にはこのタイプです。ちなみに同国のtは全国平均で0.32(2019年)です。ただ同国の地方所得税ではEが少額に抑えられていますので、税率だけでなく、Eに対する政策にも注目することが重要です。

(執筆:馬場 義久)

日々是総合政策No.48

生涯所得基準と消費税の逆進性

 前回(No.41)では、年間所得を基準にすると消費税は、高所得層ほど貯蓄率が高いため、逆進的であると述べました。今回は、貯蓄の目的が将来消費の準備にある点をふまえ、生涯所得を基準にして消費税の逆進性を検討します。
 生涯中に得る所得をW、生涯の消費税込みの消費をC、消費税はCのうちtの割合(0<t<1)とします。
(1)この人が、人生百年の長寿時代のため、家族に資産を残す余裕がないと仮定すると、生涯の途中での貯蓄も将来時点で取り崩し、自分の消費に使います。つまり、生涯所得をすべて消費に使いきるので、
  C=W ①  が成立します。右辺は生涯の収入であり、これで左辺の消費税込みの生涯支出を賄います。
 さて、生涯の消費税負担はtCですから、生涯所得に対する生涯消費税の割合、つまり生涯平均税率は、①より、tC = tWを使うと
  tC /W=tW/W=t と表せます。
 tは消費税率であり各人に共通です。つまり、生涯平均税率は、Wの水準に関わりなく一定のtです。消費税は生涯所得に対する比例税となり逆進的ではありません。
 (2)しかし、上の人がBだけ資産を残すケースでは結論が変わります。その場合、式①は
  C+B=W ② と変わります。Wの使い方にBが加わるからです。このとき
生涯平均税率は、②より、tC = t(W-B)を使うと  
   tC /W=t(W-B)/W=t(1-B/W) となります。生涯平均税率は、B/Wに依存します。遺贈は通常の貯蓄と異なり、遺贈者が取り崩して消費できないからです。よって生涯所得に占める遺贈の割合、つまり、右辺のB/Wが高いほど、左辺の生涯平均税率は低くなります。通常、Wが高いほどB/Wが高くなりますので、生涯平均税率はWの増加とともに低くなり、個人単位で見る限り、生涯基準でも消費税は逆進的となります。ただし、その原因は貯蓄一般ではなく遺贈行為にあります。
 さらに、家族(家計)単位で考えると、遺族が相続した財産を消費に回す限り、遺族の消費税負担が生じます。

(執筆:馬場 義久)

日々是総合政策 No.41

累進所得税(2)

 前回(No.27)で述べましたように、累進所得税は課税前の所得格差に比べて
 課税後の所得格差を縮小します。所得格差が著しいケースでは、累進所得税のこの機能は有意義でしょう。
 今回は、所得に関する逆進性をとりあげます。逆進的負担は累進的負担の逆です。つまり、所得に占める税負担の割合(平均税率)が高所得ほど低くなるのを逆進的負担と言います。
 逆進的負担の典型例としてあげられるのが消費税です。いま、10%の単一税率を仮定します。高所得者の所得をYh,その消費をCh,低所得者の所得をYL,その消費をCLとします。このとき、二人が負担する消費税額ThとTLは、0.1Chと0.1CLと表せます。通常、Th= 0.1Ch>0.1CL=TLとなり、高所得者の税負担の方が多額になります。高所得者の方が高価な消費を行うからです。しかし、Yに占める税負担の割合は高所得者の方が低くなります。つまり、
 0.1Ch/Yh<0.1CL/YL となり、この式を指して、消費税の逆進的負担と呼びます。税率10%は二人にとって共通ですから、逆進的になる原因は、Ch/Yh<CL/YL に求められます。
 この種の議論では多くの場合、Yを年間所得と想定しています。この点が重要です。よって、上の不等式の意味は、高所得者の年間所得に占める年間消費の割合が、低所得者のそれより低いということです。消費には食料・衣料など、所得の高低に関わらず必要な基礎消費があるため、年間所得に占める消費の割合は低所得者ほど高く、高所得者ほど低くなります。
 言い換えれば、高所得者ほど年間所得に占める貯蓄の割合を高くできる点が、消費税の逆進性の原因です。消費税負担から逃れる方法は消費しないことです。貯蓄は所得のうち金融機関などに振り向けられる部分なので、消費税負担を逃れます。
 しかし、貯蓄の目的が将来の消費に対する備えにあるならば、高所得者の貯蓄による消費税逃れは、一時的になります。将来時点で貯蓄をとり崩し、消費を行うからです。消費は一生涯続くのです。

(執筆:馬場 義久)

日々是総合政策 No.27

累進所得税(1)

 前回(No.18 )述べましたように税や社会保険料による公的負担の評価には、その使い道、誰に使うか、評価期間の長さが重要な影響を与えます。そこで本コラムではこれらの点に注意しつつ、公的負担の意味を再考します。
 今回は租税の累進的負担についてです。所得税を例にとります。Aさんの所得が2000万円、Bさんの所得が200万円とし、2000万円には40%、200万円には10%の税が課されると想定しましょう。このように、高所得ほど平均税率(=所得全体に占める税負担の割合、今の例では40%と10%)が高くなる所得税制を累進所得税と言います.
 累進所得税制によって何が生じるか?Aは2000万円稼いで、所得税を40%課されるので所得税は800万円、よって手取り、経済学でいう可処分所得は1200万円となります。Bの可処分所得は180万円となりますね。
 ここでAとBの所得格差に注目しましょう。課税前にはAの所得はBの10倍(=2000/200)でした。ところが課税後の可処分所得を比べると、Aの可処分所得はBの約6.7倍(=1200/180)に縮小しています。つまり、累進所得税は、課税後の所得格差を課税前の所得格差より小さくするのです。
 では累進所得税でなく比例所得税の場合はどうでしょうか?比例所得税は所得水準にかかわりなく一定の平均税率を課します。勤労者の社会保険料がほぼ該当します。いま、その平均税率を10%とすると、Bは前の例と同じで200万円が180万円になり、Aは今度、2000万円に10%の税率ですので、所得税は200万円、手取りは1800万円です。よって、二人の所得格差は、課税後も10倍(=1800/180)で、課税前の所得格差(=2000/200)は変化しません。二人の所得に同じ平均税率を適用するからです。
 結局、累進所得税は、高所得に低所得より高い平均税率を課して、所得格差を縮小するわけです。ただ、その所得格差の縮小は、課税前と課税後を比べただけのことです。たとえば、Bさんの課税前所得を250万円に引き上げ、課税前の格差自体を10から8に縮小するような抜本的な格差縮小政策ではありません。

(執筆:馬場義久)

日々是総合政策 No.18

スウェーデンは高負担国家か?

 スウェーデンは、平等主義、高福祉と高負担の国家として注目されることが多いですね。財務省のホームページによると、2015年のスウェーデンの国民負担率は56.9%であり、日本の42.6%を大きく上回っています。国民負担率は国民が稼いだ所得の総計(国民所得)に占める、税と社会保障負担の合計額の割合を示します。ここで社会保障負担とは、主に年金保険料や健康保険料など社会保険料を指します。
 結局、国民負担率は国民が得た所得のうち、何%政府に支払ったかを示します。つまり、スウェーデン国民は国民所得の半分以上を公的負担として政府に納めたわけです。確かにかなりの高負担です。
 この高負担をスウェーデンの人はなぜ受け入れているのか不思議に思い、スウェーデン滞在中に「あなたの国の公的負担は重いようですが、どう思いますか?」と尋ねたことがあります。その答えの多くは「スウェーデンの場合、子どもが二人いれば公的負担は生涯中にほぼ戻ってくる」というものでした。
 この回答で注目したいのは、次の三つの点です。第一に、租税や社会保険料という公的負担を、その使われ方と関連づけて捉えていることです。一般に公的負担は公共支出の財源ですから、この捉え方は当然と言えます。
 第二に、公的負担とその使われ方について、2015年という一時点に限定して考慮するのではなく、生涯という長いタイムスパンで見ていることです。年金・医療などは、現役期に公的負担を支払い、給付の多くを高齢期に得ますので、生涯期間の視点はとても重要です。
 第三に、スウェーデンでの個人が支払う公的負担は、その大部分が、他の人のためにではなく、自分自身や家族のために使われると思っていることです。
 このように思う公的負担は、個人が将来の疾病・老後や、子どもの教育に備える貯蓄に似ています。公的負担を自主的な貯蓄のように認識できれば、それは、もはや負担とは言えないでしょう。皆さんはどう思いますか?

(執筆:馬場義久)