日々是総合政策 No.42

医療制度改革の方向を考える

 わが国では1961年の国民皆保険の制度的定着以降、受診機会の平等が基本的には保証され、長寿社会の実現や長い健康寿命、低い乳児死亡率等の成果が得られています。一方、医療費の増加に伴って医療保険財政の赤字が拡大しており、高齢化の進行と経済の低成長が長期的動向とされる現代において、医療制度改革は重要課題になっています。
 これまで制度の維持・安定化を基本目的に、診療報酬と薬価制度、医療提供体制それぞれの見直しがなされ、財源(財政)面では社会保険料と租税の負担、患者自己負担の改定が行われてきました。主な内容として、診療報酬については出来高払い制から定額払い制への段階的移行、薬価制度については薬価基準の引き下げが進められ、医療提供体制の再編として病床規制と在宅ケアの促進があげられます。財源に関しては、社会保険料と患者自己負担が引き上げられ、この他に「社会保障と税の一体改革」により消費税増税の財源の一部が医療保障に充当される予定です。
 以上が医療制度改革の基本的方向になっていますが、現代では予防(広義には予防医療)と遠隔診療の促進、かかりつけ医機能の強化がそれぞれ提唱され、主に厚生労働省と保険者(健康保険組合、協会けんぽ等)において議論されています。これらは「フリーアクセスの対面診療」が基本となるこれまでの受診・診療方法の変更にもつながる一方、発症率の低減と重症化・長期入院の抑制において有用と考えられています。
 具体例としてわが国では、他の先進国と同様に生活習慣やメンタルヘルスに関連する疾病が増加しており、対応方法の一つとして予防医療の中でも一次予防(健康増進と健康管理・保健指導)、二次予防(早期発見・早期治療)が重要になっています。一定の成果を得るためには、対面診療に限らず遠隔診療の活用が有益とされ、各人・患者と医師、とりわけかかりつけ医との長期・継続的取り組みが不可欠と言われます。
 これらは制度の維持・安定化よりも基本構造の見直しに関わるものであり、各人・患者の主体的参加と行動が求められます。こうした方向での改革は、予防と治療の連携方法や診療報酬の制度対応等いくつかの課題が残されていますが、今後の医療制度のあり方(あるいは限られた財源の使い方)の一つとして重要と考えられます。

(執筆:安部雅仁)