多様な判断基準
前回(No.7)は、1人1票と1円1票の政策評価について述べました。そのときは、個人単位での政策評価を考えました。個人の政策評価の背後には、その人独自の価値判断がありますが、その判断基準も多様です。
いま、皆さんが人事採用担当者だとして、次のような2人の候補者AとBのうち1人を採用する場面に直面したとします。英語と数学と国語の共通テストの得点(100点満点)は、Aが (100, 10, 40)、Bが (40, 50, 60) でした。この与えられたデータだけで、どちらの候補者を選ぶかを考えてみてください。
単純な平均点は、AもBも50ですが、次のような違いがあります。A よりも Bの方が点数のばらつき(分散)が小さく、安定した点を取っている。最高点を比較すると、Bが国語60であるのにAは英語100なので、Aの方が最高の能力水準は高い。最低点を比較すると、Aが数学10なのにBは英語40であるから、Bの方が最低の能力水準は高い。真ん中の中位点を比較すると、Aの国語40に対しBは数学50であるので、Bの方が中位の能力水準は高い。平均点を比べる、分散を比べる、最高点を比べる、最低点を比べる、中位点を比べる、それらの組み合わせで比べるなど比較する基準すなわち、判断基準次第で、採用する候補に違いが出てきます。
さらには、採用担当者が候補者に何を期待するかで、例えば英語力の高い人材が欲しい場合には、数学や国語のデータを無視して英語の点数だけを比べ、BではなくAを選ぶでしょう。共通テストの参加者全体の中でのA とBの科目素点の優劣を比較するには、素点より偏差値などのデータが必要になります。言うまでもなく、履歴書・面接などによる、共通テスト以外の情報(社会活動実績や運動能力やコミュニケーション能力や、協調性・勤勉性・忍耐力といった「非認知的能力」など)も、候補者の選択に勘案されます。
採用担当者が複数いるとき、各々の判断基準に基づき候補者AとBに関する担当者個人の選択がなされ、その個人的選択が候補者の最終決定にいかに結びつくは、最終的な意思決定ルールに左右されるのです。
(執筆:横山彰)