再考:純資産税(7)-スペインの純資産税
スペインは1977年に純資産税を導入し、2008年に廃止の後、2011年に突然再導入しました。以下、注による再導入された純資産税の効果分析を紹介します。同国はスイス・ノルウェーと共に、現在も純資産税を採用しています。それはスイスと同じく州税であり、課税最低限・税率の設定等も州に委ねられています。
注はCatalan(カタルーニャ)州に注目します。同州の純資産税収はスペイン全体の46%を占めます(2015年。第一位のシェア)。同税の課税最低限は70万ユーロ(約1億円)です。スイス (本コラムNo.271参照) に比べて高く富裕層を対象としています。
注は、申告資産額の多い順に並べた上位50%分の申告書をデータとし、再導入された純資産税の平均税率の違いが、資産保有額や資産構成に与えた変化-2011年の値に比べた2012年から2015年までの値-を推計します。ここで
各人の平均税率=税額/申告資産=法定税率×課税資産/申告資産
と表せ、申告資産は課税資産と非課税資産の合計ですので、平均税率は、納税者の保有資産に対する税負担割合-負担率-を示します。
主な推計結果は、平均税率0.1%の増加は課税資産の3.24%の減少(2012年から2015年の累計)を招くというもので、その主因として、貯蓄の減少ではなく租税回避を導いています。
租税回避の第一は、中小企業の会社株の非課税措置を利用するものです。個人が会社株の5%以上を所有していれば非課税となります。
第二は、純資産税≦0.6×課税所得-所得税 という純資産税の負担上限措置の活用です。この右辺には1年以上保有した資産のキャピタルゲインは算入されません。たとえば、配当を分配する投資信託を減らし、非分配型の投資信託を購入しキャピタルゲインを得ると、配当分課税所得を減らせる一方、キャピタルゲインは課税所得を増やしません。結局、純資産税の負担上限値を低くできます。
以上の富裕層の租税回避行動は、純資産税の格差是正機能を限界づけるでしょう。
注
Durán-Cabré, J., Esteller-Moré, A. & Mas-Montserrat, M. (2019), Behavioural responses to the (re)introduction of wealth taxes: evidence from Spain. IEB Working Paper 2019/04.
(執筆:馬場義久)