日々是総合政策No.168

新型コロナウイルス感染症対策への提言ノート(2) 

 今年に入り、新型コロナウイルス感染症のことを初めて耳にしたときに思い出したことは、2007年に、米国フロリダ州オーランドで行われた”Business Preparedness for Pandemic Influenza”という国際会議のことでした。この国際会議は、ミネソタ大学のCenter for Infectious Diseace Research and Policy(cidrap)が主催した会議で、新型インフルエンザの脅威に対して、どのように「備えるべきか」という論点について、基調講演が行われたり、有識者が意見を交わしたりするというものでした。私自身は、日本から参加した一聴衆でしたが、SARS(Severe Acute Respiratory Syndrome)を経験した次なるパンデミックにどのような準備をするべきかという世界の経験を直に学ぶ貴重な時間となりました。
 この会議に出席し、また今般の新型コロナウイルス感染症の流行で再認識したのは、「公衆衛生政策」は国家政策の基本であるということです。総合政策論や公共政策論の中で、公衆衛生に関する保健政策の分野にもっと注目をすべきであると感じました。大袈裟な言い方かもしれませんが、公衆衛生政策を国家や自治体の政策の基本として考えるべきではないかと痛感しました。それだけ、私たちの世界は新たなウイルスの脅威には「脆い」と言えるのではないでしょうか。また公衆衛生政策を実施する上では、施政者に時に強い権限を付託する必要があります。この点で、有権者と為政者との間での「社会契約」は重要な意味を持ちます。
 ここで私が強く疑問を感じたのは、7月の東京都知事選挙でした。あのタイミングで都知事選挙を行うことは”必然”であったのでしょうか。
 2011年の統一地方選挙では、東北地方での地方選挙は延期され、岩手県知事選挙は、東日本大震災から6か月後の9月11日が投票日となりました。これは特例法によって選挙の延期を可能にしたのです。
 ということであれば、今回の都知事選挙も少なくとも半年間は延期ができたのではないかと思うのです。選挙を延期し、都知事には、新型コロナウイルス感染症対策に集中していただく、そして感染症の状況が落ち着いた後、選挙を実施すれば、有権者は選挙を通じて、感染症対策の結果も含めて現職知事を評価し、判断ができたのではないかと思います。しかし現実は、7月に選挙が行われたことで、結果が見えない中で、新たな任期の「チケット」を現職知事に与えることになりました。次の評価の機会は4年後です。ここに私自身は幾ばくかの疑問があるのです。

(執筆:矢尾板俊平)

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