コロナ後の農業・農村
経済発展は相互依存の深化による。世界中からあらゆる物が集められ、人々や情報は世界中を飛び回る中、コロナ危機はグローバル化され豊かさを手に入れた人類に、その相互依存を断ち切るよう迫り、人流・物流に大きなダメージを与えている。その反面、情報流の価値を高めた。
人流面では非接触社会の実現が強調されるが、過密化した都市がコロナ危機のような疫病に脆弱であることは歴史上明らかである。巣ごもり消費は自宅が多用途空間として担うことを意味する。情報通信技術(ICT )を活用して、都市内の施設で分担されてきた職場・学校・保育園・病院・娯楽・スポーツジム・レストランなどの機能を自宅が担う。地価が安く広々とした居住空間を実現できる地方・農村居住は再評価されるだろう。「密なオンライン空間と疎な居住空間の組合せ」の農村居住が注目される。
物流面では、冷戦終結以来のグローバル化で物資のサプライチェーンが全世界に広がった。しかし、コロナ危機で医療用品・機器などの生産国は輸出禁止を行い、各国が国民の安全に関わる戦略物資を確保する動きが見られた。自国の都合で輸出規制をするならWTO体制の意義が問われる。安全保障の視点から各国は戦略物資の自給と緊急時の同盟国・友好国間の物資融通に向かう。食料も過去の世界的な食料危機で輸出規制が行われ、その安定供給体制に関心は高まる。
情報流は人流・物流の補完的な役割から、出張も本の購入も不要となるICTの進歩により代替的意味も持つに至った。その中で、最近、ICT やロボット技術を活用し省力化・精密化・高品質化する「スマート農業」が注目を集めている。しかし、情報通信インフラの整備には多大な投資が必要になる上、疎な空間である農村では投資効率が悪い。そこで、日常生活にも防災にも在宅勤務などにも多目的に利用される結合供給的発想が重要になる。
パンディミックに強い社会の創造が世界的な課題である。そうしないと、安全と監視の兼合いに悩む民主主義体制よりも強権政治体制の方が優れているという恐ろしい結論になってしまう。人類がICTなどの英知で相互依存の低下による経済発展の鈍化を防ぐことができるか試されている。
(執筆:元杉昭男)