感染症データをどのように読むべきか
4月26日、元衆議院議員のタレントがテレビ番組で、日本での感染症死亡者数が欧米よりかなり少ないので、「日本は圧倒的に勝っている」と発言したそうだ。ここでは事実に基づいてこの主張を批判的に検討する。以下では、世界で最も信頼できる情報源である米国ジョンズ・ホプキンス大学のコロナウイルス・リソースセンターのデータを用いる(https://coronavirus.jhu.edu/map.html、以下の表の数値は、2020年5月6日午前11時30分現在)。
タレントの発言は、死亡者数Cや死亡率F(=死亡者数÷累計感染者数)において日本は低いので症状は軽いと言いたいらしい。これに対して、いくつかの疑問点を出そう。
第1に、累計感染者数のうちまだ感染したままの人の割合Eにおいて、日本はロシア・英国・米国に次いで高い。第2に、累計感染者数のうち回復者の割合Gにおいて、日本は世界平均を下回り、英国、ロシア、米国に次いで低い。これらが示唆するのは、日本は今もロシア・英国・米国と並んでコロナ収束の状況にはないということだ。
第3に、中国と比較する。中国の湖北省以外の30地区の人口は13.4億人(2018年末、中国国家統計局「統計数据」)で、日本の10倍以上だが、累計感染者数はほぼ同数で、死亡率は0.8%だ。つまり、日本の状況は、湖北省以外の中国全体と比べて10倍以上の感染率、死亡率は4.5倍なのだ。中国各地で2か月以上の外出禁止を実施した結果が、収束(収まること)を経ての終息(終わること)だ。韓国と比べても、日本の数値はほとんど悪い。
第4に、米国の累計感染者数は120万人近いが、検査件数は728万人強である。日本の検査件数は18.5万人(5月5日厚生労働省報道発表の累計PCR検査実施人数)で米国の40分の1。要するに、検査件数が少ないために感染者数が少なく、死亡者数も少ないのだ。実際に、感染症で死亡しても検査しなければ、感染症死亡者とみなされない。
最後に、中国ではほぼ終息し、欧州でも(英国を除いて)収束の兆しが見える中で日本では明るい見通しがなく、さらに1か月自粛して我慢・苦痛と倒産・失職と生活困難を強いられている。それでも日本は諸外国よりマシと言えるのだろうか。
(執筆:谷口洋志)