再分配政策(2):政府の再分配政策と個人の私的動機づけ
前回(No. 121)は、最悪の事態に対する備えとしての社会保障制度を、再分配政策に対する立憲的な政策需要の観点から考えました。立憲後段階(社会の基本構造や基本ルールの設定後の段階)で、政府の再分配政策を求める個人の私的動機づけもあります。
政府の再分配政策を考える前に、チャリティーや贈与や援助のような私的な再分配行動をとる個人を分類してみましょう。(1)貧しい他者の所得や効用(満足・福祉)が高くなると自分の効用が高くなる個人、(2)貧しい他者の特定の財・サービス(医療・教育・食料など)の消費水準が高くなると自分の効用が高くなる個人、(3)貧しい他者に自分が手を差し伸べ贈与を与えたという慈善行為そのものから効用を得る個人、(4)貧しい他者に手を差し伸べ贈与を与えた慈善家(良い人)という評判を得ることから効用を得る個人、が考えられます。
以上の4類型のいずれの個人も、自発的に貧しい他者に所得移転や特定財・サービス移転を行う私的動機を持っています。しかし、類型(3)(4)の個人が行う贈与は私的財の性質を持つのに対し、類型(1)(2)の個人が行う贈与は公共財の性質を持ちます。つまり、類型(1)(2)のような個人にとっては、自分以外の誰かが貧しい他者に手を差し伸べて所得移転や特定財・サービス移転をするならば、自らがそうした移転をしなくとも自分の効用を高めることができますので、フリーライダーが可能になります。言い換えれば、類型(1)(2)のような個人と同じような人々にとっては、貧者である個人の所得や特定の財・サービスの消費水準は、公共財となります。
したがって、こうした貧者に対する公共財としての再分配を供給する政府の再分配政策を求める個人の私的動機づけとしては、類型(1)(2)のような個人と同じような選好をもつことが考えられのです。ただし、類型(1)の場合には貧者への現金移転が効率的な移転形態ですが、類型(2)の場合には貧者への特定の財・サービスに対する価格補助金が効率的な移転形態になります。
(注)本エッセイは、横山彰(2018)「再分配政策の基礎の再考察」『格差と経済政策』(飯島大邦編、23-45頁、中央大学出版部)の一部を分かりやすく書き直したものである。
(執筆:横山彰)