経済成長(続き)
こんにちは、ふたたび池上です。前回は、経済成長における消費と投資のトレード・オフのお話でした。今回は、前回に問いかけたままで、答えが書かれていなかった、やたらに人口を増やしてはいけないのではというお話です。
確かに、労働を増やすと一国全体の生産量、所得は増大します。だからといって、やたらに労働、人口を増やしてはいけません。なぜでしょうか?答えは、2つの暗黙の仮定によります。1つ目の仮定は、国民の幸せを決めるのは、一人あたりの消費であって、一国全体の消費ではないという仮定です。2つ目の仮定は、生産関数が収穫逓減であるという仮定です。
生産関数が収穫逓減とは何かですが、労働を増やせば増やすほど、追加的な1単位の労働(たとえば、1人が1日働くという労働)からえられる生産(収穫)の増加量が小さくなるという仮定です。たとえば、ある途上国のある小さな家具工場で社長自らが毎日一つのベッド・フレームを作っていたとします。マットレスの下の部分は金属、4つの足と、頭の上の部分はおしゃれなデザインに加工された木できたベッド・フレームを、社長がすべて一人で製作している場面を想像してみてください。ここで、職人を1人、2人、と増やしたとしても、一日あたりのベッド・フレームが2つ、3つと増えずに、職人を増やせば増やすほど、少しづつ、追加の職人1人によるベッド・フレームの増加量が小さくなるという仮定です。職人間で製造工程を分業化することによる生産の効率化よりも、場所や工具・機械の制約があり、混雑による生産の非効率化の方が大きい場合などは、この仮定は成立しそうです。
この収穫逓減の仮定が満たされる場合、やたら労働、人口を増やすと、1国全体の生産量は増加しても、1人あたりの生産量、所得は減少してしまいます。そして、1人あたりの所得が減ると、1人あたりの消費が減り、1つ目の仮定より、国民1人1人ひとりの幸せは減少してしまいます。
今までは、生産関数が変化しないこと、変化するのは資本・労働という投入と生産という産出だけということを暗黙に仮定していました。次回は、この仮定を外し、技術革新が起き、生産関数が変化する場合の、経済成長のお話です。
(執筆:池上宗信)