日々是総合政策No.305

スウェーデンの地方税(14)-歳入の十分性⑦まとめ 

 「歳入の十分性」を基準として、勤労所得税のみを地方税とする単税方式の意義と問題点をまとめます。
 意義の第一は、同国の地方勤労所得税(以下、地方税)が同国の法人税・資産所得税・国の勤労所得税より多くの税収を持続的に生む点です。国民経済レベルの課税ベースが一番巨額だからです(本コラムNo.299を参照)。また、地域間の偏在度も同税が一番低い。低い偏在度と多収性により、多くの市で税÷支出が高くなりました(本コラムNo.301を参照)。ただ、以上の点につき、消費税の位置づけについて検討が必要です(本コラムNo.299を参照)。
 第二に、単税方式の地方税の税負担額は住民にとって明瞭なので、支出に対する費用意識を鮮明にします。この点は、分権下の地方財政の効率化に貢献するでしょう。逆に、日本のようなタックス・ミックス型-所得税・固定資産税・法人関連税等の複数の税目からなる地方税-は、各住民にとり税負担額が不明瞭です。特に、多くの住民は法人関連税の負担を意識しないでしょう。
 次に、単税方式の地方税の問題点は、低所得層から高負担を招くことです。この原因は、巨額で持続的に増大する対人サービス(医療・介護・教育・子供ケア)を、地方税のみで調達するからです。

図 地方税の査定所得階層別負担率(% 万クローナ)1990年

 図は地方税の査定所得階層別の負担率を示します。査定所得は、基礎控除前の勤労所得から少額の通勤費等を控除した所得です。1999年を示したのは、2000年から、地方税に適用される年金保険料の税額控除(本コラムNo.295を参照)が開始されたからです。
 10万クローナ(約140万円)未満の最低所得階層でも約16%の負担率であり、10万クローナ超の6階層は27.1%から29.5%のほぼ比例的な負担です。この比例的な高負担は被用者の社会保険料と似ていますね。
 勤労所得税の大半は労働所得税なので、その高負担率は「働くコスト」を高め、労働参加(生活保護受給を止め労働を始める等)を抑制します。さらに、低所得層の高負担率は所得再分配の観点からも問題です。なお、国の勤労所得税には低所得層への給付(負の税)制度はありません。
 地方税を補完すべき税目等の検討が求められます。


馬場 義久(2022)「スウェーデンにおける地方税の変容」日本財政学会
  編『財政研究』第18巻、有斐閣、62-75頁。 

(執筆:馬場 義久)

日々是総合政策No.304

スウェーデンの地方税(13)-歳入の十分性⑥補助金の役割(ⅱ)

 今回は、歳入均等化補助金(本コラムNo.302を参照。以下、補助金)と税の合計を収入とし、収入/支出(市の支出に占める収入の割合)と税/支出(市の支出に占める税の割合)の市間分布を比較します。本コラムNo.301にならい、2009年と2021年とを取りあげます。

図1  収入/支出と税/支出の市間分布(%) 2009年

  図1の横軸は税/支出と収入/支出を、縦軸はそれに属する市の数を示します(全市数は290)。たとえば、税/支出が50%以上60%未満には73市が属します。
 税/支出の平均値は65%、中央値は63.9%、変動係数は0.1491で、収入/支出の値は、それぞれ76.4%、77.6%、0.08812です。
 補助金が278市に交付され、収入/支出の平均値と中央値が税/支出のそれより増加しました。変動係数も低下し、市間格差がかなり是正されました。
 以下の点が印象的です。
 第一に、税/支出の分布の中心が、50%以上70%未満(212=73+139)であるのに対し、収入/支出の中心は70%以上90%未満(241=157+84)です。補助金が約20%、右方へ移動させたわけです。
 第二に、収入/支出では、50%未満と100%以上の市はゼロです。前者は補助金、後者は負担金の効果です。

図2  収入/支出と税/支出比(%)の市間分布 2021年

   (出所)注に基づき筆者算出。

 図2の2021年の税/支出の平均値は60.4%、中央値は58.9%、変動係数は0.1729で、収入/支出の値は、それぞれ72.4%、72.8%、0.08991です。
 2009年との共通点は、第一に、変動係数が税/支出のそれより大幅に低下したことです。第二に、収入/支出では50%未満と100%以上の市はゼロです。第三に、70%以上80%未満に最も多くの市(157,161)が属します。
 2009年と異なるのは、分布の中心が50%以上70%未満(214=121+93)から、70%以上80%未満(250=89+161)へ、10%だけシフトした点です。
 シフト幅は異なりますが、補助金は、両年とも格差是正と財源保障機能をかなり果たしています。ただ、多額の補助金は、支出に対する住民の費用意識を希薄にしかねません。    

SCB URL www.statistikdatabasen.scb.se/pxweb/sv/ssd/ 
      2024年11月4日参照。

(執筆:馬場 義久)