日々是総合政策No.298

地域発グローバル化の地方創生

 地方の人口減少、東京一極現象が地方消滅を警告しています。第3の矢であった成長戦略の実現を目指す「新3本の矢」、ローカル・アベノミクスの実現を目標にした「まち、ひと、しごと創生方針2015」、ヒューマン、デジタル,グリーンに視点を合わせた「まち・ひと・しごと創生方針2021」(注1)などさまざまな地方創生政策にもかかわらず、なぜ地方創生が達成されなかったのでしょうか。
 地方創生は、技術革新と人口増加によって実現するはずです。主な推進者は中小企業・小規模事業(農林水産業を含む),ベンチャービジネス,スタートアップ企業などのコミュニティビジネスですが、政府の政策が市民(住民)、コミュニティビジネスに正確に伝わることなく、地方創生に向かう意欲を十分に高めることが出来なかったことが要因になっていると考えられます。
 実際、地方創世の実情は決して悲観的なものとは思われません。流山市のように、人口が増加した地域も存在しています(注2)。また、地域発グローバル化の動きにも着目できます。農業体験旅行、酒類や陶器の輸出、それに心なし研削盤、包あん機などの新製品を生み出したグローバルトップニッチ(GTN)企業に着目することができます(注3)。
 同様に、こうした営利型コミュニティビジネスを支える医療・介護などの非営利型コミュニティビジネスにしても、医療ツーリズム、ヘルスツーリズムが進展しつつあります。さらに、医療の質と患者の安全性を国際的に審査する機関JCI(Joint Commission International)の認定を、2009年に日本で最初に認定を受けた亀田メディカルセンターをはじめ、34カ所の医療機関(注4)が受けるなど、グローバル化が進展しています。
 これらの地域発グローバル化の成功例を政府が重視、広報することで、コミュニティとコミュニティビジネスを鼓舞、活性化を呼ぶことができそうです。すなわち、政府→自治体→コミュニティ→市民(住民)のトップダウン型・意思決定経路だけではなく、市民(住民)→コミュニティ→自治体→政府間の談合を重ねるボトムアップ型・意志伝達経路を重視、二つの経路を並立させる必要があるものと思われます。この複線型意思伝達経路がコミュニケーションを密にして、新たな技術革新と事業を生み、雇用環境の改善と人口増加に繋げるのではないでしょうか。 

(注1)「ヒューマン」は地方へのひとの流れの創出および人材支援、「デジタル」は地方におけるデジタル・トランス・フォーメーション、「グリーン」は脱炭素社会実現のことです。閣議決定(2021)「まち・ひと・しごと創生基本方針2021」,https//www.chisou.go.jp/sousei/info/pdf/r/03-6-18-kihonhousin2021hontai.pdf (2023.5.18 アクセス),17-18頁。

(注2) 2005年から2022年にかけて全国の人口が1億2,776万8千人から1億2,494万7千人へと282万1千人減少する中で、流山市の人口は15万1,838人から20万6千137人へと5万4千299人増加しています。全国の人口については、総務省統計局(2022)「人口推計(2022年10月1日現在)」、htttps://www.stat.go.jp/data/jinsui /2022np/index.html (2024.7.11 最終アクセス)1-6頁、また流山市については、流山市(2024)「人口増加中、特に30歳代」,https://www.city.nagsareyama.chiba.jp/ appeal/1003878/1003882.html (2024.7.11 最終アクセス),1-4頁。

(注3)ニッチ分野で製品差別化を行い国際グローバル市場で高いシェアを収めている企業が「2020年版グローバルニッチ企業100選」に選定されている。大企業の場合、過去3年以内に概ね1年でも20%以上の世界シェアの確保、中堅企業・中小企業の場合、10%以上の世界シェア確保が条件になっている。経済産業省(2020)「2020版グローバルニッチトップ企業100選」,1-3頁。

(注4)一般社団法人 メディヵルツーリズム協会(2018)「JCI認定医療機関」,https://www.medical-tourism.or.jp/jci_list (2024.7.11 最終アクセス),1-3頁。

(執筆:岸 真清)

日々是総合政策No.297

スウェーデンの地方税(8)-歳入の十分性①

 「歳入の十分性」-地方政府による行政サービス(以下、支出と略記)を十分に賄える税が良い-という地方税原則を検討します。国からの補助金依存は、負担なき受益をもたらし、住民の費用意識の希薄化と支出過剰を招きかねません(詳しくは持田のテキスト、注1を参照)。
 今回は、スウェーデンの支出の実際を確認します。同国の支出の大部分は対人サービスです。2022年には県の支出の88%が医療、市は、教育(保育・義務教育等)や介護、障害者福祉等の合計で全支出の80%を占めます(注2より)。

 支出の対GDP比(1999-2021年、%)

* 標準偏差÷平均 
(出所)注3と注4に基づき算出。         

 表は、スウェーデンの支出(県と市の合計)の対名目GDP比を日本と比較したものです。平均とは、1999-2021年の23年間の平均値です。同国は21.2%で、平均的には日本より大規模な支出です。変動係数は23年間でのバラツキの程度を示します。スウェーデンの方が低い値なので安定的です。
 そこで、1999年から2021年における同国のGDPと支出の相関について、最小二乗法による回帰分析を行いました。推定式は、
 lnG=α+βlnGDP+u  
で、lnは自然対数、Gは各年の支出、uは誤差項です。近似式は、
 lnG=1.1028lnGDP-2.3911 です。
 αが-2.3911,βが1.1028で、それぞれのt値は-16.7と63.2です。R2(自由度修正済決定係数)は0.9948で、推定式の当てはまりは良いと考えられます。
 βは、支出のGDP弾力性(支出の変化率÷GDPの変化率)の推計値です。β=1.1は、GDPが1%増加すると支出が1.1%増加することを表します。


1.持田 信樹(2013)『地方財政論』東京大学出版会、168頁。
  
2.SKR URL
skr.se/skr/ekonomijuridik/ekonomi/statistikekonomi/sektornisiffror.71725.html

3.SCB URL
www.statistikdatabasen.scb.se/pxweb/sv/ssd/

4.総務省 URL
https://www.soumu.go.jp/iken/zaisei/toukei.html

URLは、2024年5月31日参照。

                                (執筆:馬場 義久)